第3話 出発

 俺達二人は電車の椅子に腰かけ、これからどうしようかと考えていた。

 俺はレストの話を思い出していた、あいつなんて言ってたけ? 確か……南の方にある森林の祠に行けだったか? 信じていいのだろうか。

 

 うーん……じっとしていても仕方ないなよな、こういう時は誰かの意見が必要だ、秋華にも聞いて見ることにしよう。


「これからどうしようか?」


 すると彼女は少し戸惑ったように俺を見てきた。


「あのね……お兄ちゃん、さっき夢なのかな? そこでねペンダントを持って南の祠を目指すようにってレストって人に言われたの」


 彼女も同じような夢を見ていたらしい、俺達二人とも同じ内容だし、彼女も無事だ。嘘は吐いてないだろうし信じてみることにしよう、聞きたいことも沢山あるしな。


「秋華、俺も同じ話をレストってやつから言われたんだ。俺はレストを信じて南の祠を目指したいと思う」


 彼女は少し心配そうな目をしていたが、俺の言葉を聞くと安心したのか話しだした。

 

「他にすることもないもんね、お兄ちゃんも同じ話されたんなら信じてもいいかもね。

 でも……危なくなったらすぐに逃げるからね」

 

 随分と用心深いことだ……いやそれぐらい用心していないとだめか? ここは普段俺達が生きていた世界とは明らかに違う、何が起こるかわからない……

 そう思うと怖くなってきた、俺も用心しておこう。


「それよりお兄ちゃん。行くのはいいけど、どこが南かわかるの?」


 南がわからない奴なんているのか? と思ったがそういう意味ではないのだとすぐに気づいた、今俺達がいるところは見渡す限り草原が拡がっているためどこを基準とした南なのか分からないと言うことだ。

 見栄を張って嘘を吐いても仕方ないので正直に答えた。


「すまん、分からない」


 これは積んだな……どうしたものか? と、考えようしたが彼女はなぜか胸を張って俺を見ていた。


「そんな、お兄ちゃんの為に一つ教えてあげる」

 

「なんだ? 何か知ってるのか?」


「うん、このペンダント顔の目の前に翳すとね、光の線が見えるようになるの」


 彼女は持っていたペンダントを俺の顔の目の前に翳した。


「うぉ! なんだこれ!」


 ペンダントからは光の線のようなものが草原の地平線に向けて一直線に延びていた。


「お兄ちゃんが起きる前に一応ペンダントだけは拾って置いて、その時気づいたの」


 俺はでかしたぞと思い、彼女の頭を撫でた。

 撫でられたのが嬉しかったのか彼女は、にへらと笑いながら持っていたペンダントを渡してきた。


「私のはもう首につけてるから、それはお兄ちゃんのだよ」


 そういうことはもっと早くいって欲しいものだけどな、俺は受け取ったペンダントを首に付け彼女に視線を向けた。

 

「そういう大事なことに気づいたならこれからは先に教えてくれよ」


「えー? 祠に向かおうとか言うくらいだからもう知ってるものだと思ってたよ。

 それにね、知らなかったら誉めて貰えると思って黙ってた、ごめんね……お兄ちゃん」


 あぁ、そういえばそうだったなぁ……秋華は昔から俺に誉められるのが好きだった、やたらと俺の所に来ては、この絵すごいでしょ? 今日のご飯は私が作ったの! 誉めて! 誉めて! みたいな感じで来てはよく頭を撫でたっけ懐かしいな。


「ぐぅ~~~~!」


 お腹のなる音が聞こえた。

 俺は彼女を見ると、顔を赤らめ恥ずかしそうに下を向いていた。


「お腹すいたんだもん……仕方ないでしょ!」


「そうだな……確かに腹は減ったな」


「でしょ? そういえばスーパーで買ったお弁当はどこにやったの? あれ食べようよ」


 そういえば買ったな、えっと……どこやったけ? 俺は辺りを見渡した。

 

「あぁーー! あそこ見て」


 と、大きな声が聞こえ、俺は視線をそちらに向けたが弁当はビニール袋ごとひっくり返っていた。


「もぅ……最悪だよぉ……でも、中身はぐちゃぐちゃだけど食べられそうだよ?」

 

「そうか、じゃあ腹ごしらえしてから向かおうか」


 俺は弁当を前に置き食事をすることにしたが、これから先の事を考えていると飯も喉を通らなかった。

 それでも、ここからはなにが起こるかは分からない少しでも腹に何か入れておくべきだと思い、無理やり飯を頬張った。


 

「ごちそうさまぁーー!」


 秋華は満足そうにしていた、俺はそんな彼女を見て食べ終わったゴミを集めその辺に投げ捨てた。

 

「よし、飯も食ったことだし、そろそろ…………」


 俺の言葉は彼女によって遮られた。


「待って! お兄ちゃん、食休みは必要だよ。それに何か武器になるものでもないか探してから行こ」


 武器とは物騒だな、それに電車の中に何か有るのか? でもこれから先は何が起こるか分からないし、用心しておくことに損はないか。


「分かった、一応探してみるよ。秋華は休んでていいぞ」

 

「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ私は休んでるね」


 さて、前後どちらから探そうか? 

 どうせ両方行くんだし前から行ってこようと思い、足を運んだ。


 やっぱり何にもねぇな……それに他に人も居なかったのに物なんかあるのか? 

 なんて考えてるうちに一番前まで来てしまった。


「車掌室かぁ、開くのかここ?」


 ドアノブに手をかけた、空いた。

 俺は中をぐるっと見渡したが誰もいない……こんな状況だし当たり前だよな、床には何かないか…………鞄が置いてあった。

 車掌のものだろうか? なら車掌はどこにいったんだろうか? 考えても仕方ないか。では、失礼します、鞄をあさった。

 

 えっと? 財布、折り畳み傘、携帯、書類、モバイルバッテリー、メモ帳に…………他には何かないかと鞄をさらにあさった。

 お? よく見たら内ポケットがある、中を見た。


「なんだこれ? ナイフか?」


 手に取って確かめた、折り畳みのナイフであった、なんでこの人はナイフなんて持っているのだろう? 

 まぁ、最近の世の中は物騒だしきっと護身用にでも持っていたのだろうと勝手に結論づけ、折り畳み傘とナイフをポケットに入れその場を後にした。


「秋華! 戻ったぞ」


 彼女はうとうとしていた。

 しかし、よくこの状況で寝れるよな、飯食べたら眠くなるのは分かるけど……。


「あ……どうだった?」


「うん、結果だけ言えば武器になりそうなものは見つけた」


「本当? どれどれ見せて!」


 俺はポケットに入れた、折り畳み式のナイフと傘を取り出し彼女に見せた。


「ナイフと傘? 本当に武器じゃん、これがあれば安心だね」


「何もなければ使わないけどな、何か起きた時の為だ、念のため持っとけ」


 俺は傘の方を彼女に渡し、それを素直に受け取ったかと思うと剣のように振り回していた。

 小学生かよ…………小学生だった。


「じゃあ、そろそろ準備も出来たし行こうか?」


「うん、でも……その前に今の状況について聞いてもいい?」

 

 彼女は俺に目線を向けて言った。


「えっと……私がお兄ちゃんを迎えに行ってその帰り道の電車で何かに巻き込まれ、目が覚めたら周りは見たこともない草原だった。

 夢の中なのかな? そこでレストって人に言われた通り南の祠を目指すでいいんだよね?」


「だいたいそんな感じだ」


「分かった、じゃあ行こ!」

 

 そうして、俺は電車の窓に手をかけ窓を開けた。

 周りには何もないためか風が室内に飛び込んできた、自然でとても心地が良い風だ。

 

 俺は少し緊張しながらも窓の外へと飛び出した。

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