第8話 王都フィナゾール

 そこには壮大な光景が広がっていた。

 俺はその光景に目を奪われ惚けていた。


「おーい、少年に嬢ちゃんこっちだぞ」


 彼は俺達を呼び王都へと入って行った。

 それにしてもでけぇ……さすが首都なだけはあるな、大通りには人、建物は豪勢だ。


「お兄ちゃん早く行かないと置いてかれちゃうよ」


「あぁ……そうだな」


 俺は秋華に引っ張られ王都へと入った。


「少年に嬢ちゃんどうだ? 王都フィナゾールは?」


 彼は大通りに手を広げ俺達の方を見てきた。


「すごいですね、こんなに広くて賑わってる街始めて来ました」


「うん、私旅行とか行ったことないからこんな大きなところ初めて」


 俺達はそれぞれ感想を述べた。


「そうか、そりゃよかったぜ。今日はもう夜遅いし行き付けの宿に止まるぞ」


 彼はそう言って、大通り脇にあるいかにも高級そうな宿へと入っていたので俺達は少し躊躇しながら後に続いた。


「お、これはセチル様にコリン様それに……」


 店に入ると同時にオーナーらしき人がこちらを向き挨拶してきた。


「おっと、こいつらはな俺の仲間で秋嶺と秋華って言うんだよろしく頼むぜ」


「失礼しました。お仲間でいらっしゃったのですね、私ラナクと申します。それで本日はお食事ですかお泊まりですか?」


 ラナクは俺達に一礼して彼に視線を戻した。


「今日は両方だ、こいつらここは初めてだから最高にうまい料理を出してくれ」


「かしこまりました。お部屋はいかがなされますか?」


「部屋は二つでいい、俺とコリン、少年と嬢ちゃんだ」


 それからしばらくして俺達は部屋へと案内され、ここの設備やらルールなどの説明を一通りされた。


「それでは秋嶺様、秋華様お食事が出来次第お呼びしますのでそれまでごゆっくりお休みください」


 ラナクは最後に一言そう言い部屋の扉を閉めた。


 部屋の中はベッドが二つにドレッサーにタンスなどが置いてあった。

 俺はこちらの世界に来てからの初めてのちゃんとした部屋だったためかなんだか少しホッとしていた。


「ほら見て見てお兄ちゃん、ベッドだよ」


 秋華は嬉しそうにベッドに飛び込んでいった。

 元気な奴だ、俺はもう疲れたぞ。

 しかしこの部屋は豪勢だ値段は……考えない方がいいか……。

 そうして俺も彼女とは反対側のベッドへと腰かけた。


「ふかふかだよ、ベッドなんて私初めてかも」


「そうだな、俺達の家にベッドはないからな」


 そう何を隠そう、俺達は家がアパートで狭くてベッドなんて置けずに床に敷き布団だったのでベッドが新鮮なのだ。


「それにしてもこの街すごいね、私ビックリしたよ」


 彼女はベッドの上から窓を眺めて言った。

 確かにこの街は広い、それに店も豊富だった。

 ここに来るまでに鍛冶屋、武器屋、防具屋、素材屋、洋服屋など沢山の店があった。


「だな、店もたくさんあったし人もたくさん居たな」


「うん、それでねお兄ちゃん、ご飯食べ終わったら少し街を見に行きたい」


 うーん、どうだろうか街の中だから安全だとは思うけどもう夜だしな。一応セチルさん達にどうか聞いてからにしよう。


「分かった、セチルさん達に聞いて大丈夫なら行ってみよう」


「うん、わかった」


 なんて二人で会話をして、しばらくゆっくりしていた。

 すると食事の準備が完了したと呼ばれたため食堂の入り口へと向かった。


「「…………」」


 そこは食堂と言うより高級レストランのようだった。周りにはウェイターが複数人立っていて白いテーブルクロスの上にナイフとフォーク、皿の上にはナプキンまであった。

 ……やべぇ、俺テーブルマナーなんて分からねえぞ。どうしよう……。

 しばらく入り口で惚けていると、ウェイターの一人がこちらに来て席まで案内してくれた。


「すいません、遅くなりました。余りこういった所には慣れてないもので」


「大丈夫だ、俺達も今来たばかりだからな。緊張せず気楽にしてくれや」


 彼は近くのウェイターを呼んでワインを2つ頼み俺達に視線を向けた。


「それじゃ、料理が来るまで少し話すか」


 彼はそう言い話を続けた。


「まずはこの後の話だ、今日はここに泊まってゆっくりしてくれ。それで明日俺達は王宮に報告しに行くんだが、その時に少年達をこの国の寮に入れてくれないかと頼むつもりだ」


 つまり俺達に住む所を与えてくれると言うことか、でもそんなに簡単にいくのだろうか? こんな身元も良く分かっていない俺達を受け入れてくれるんだろうか? 

 なんて色々考えていると前菜とスープらしき物が運ばれてきた。


「お、来たな。とりあえず料理食べてから続きを話そうぜ」


 彼はそう言って料理を食べ始めたため俺達も運ばれてきた料理を食べ始めた。

 そこからは魚料理、メインディッシュと思われる大きな肉料理、デザート? の順に料理を頂いた。

 どの料理も見たことは無かったが旨かった。


 それから俺は食事を終え紅茶を頂きゆっくりしていた。

 すると彼は真剣な顔をして俺達に向き合った。


「少年に嬢ちゃん、俺達は明日さっき話した通りにするつもりだ。ただ少年達の意見を聞いてねえ、少年達はどうしたい?」


 うむ……ここで断ったとして俺達にはこの後何も出来ないし、彼等がここまで良くしてくれているのを断るのも気が引けるしな。

 ただ一つ疑問に思うことがあるな……それははっきりさせておこう、もしもの事もあるしな。

 

「俺達はそれでいいんですが、そんな急に行って身元も良く分かっていない俺達を受け入れてくれるんですか?」


 すると彼はコリンの方を向いて話し出した。


「それは大丈夫だ。俺が駄目でもコリンが居ればその辺は問題ないはずだ」


 問題ないのか……一体この人達は何者なのだろう。国に話を通すと言うことは貴族か? それとももっと上の階級なのだろうか?

 なんて思っていると彼女は口を開いた。


「もぅ、あなたったらこういう時ばっか私を頼るのですもの。今回はこの子達の為だから特別ですよ」

 

 と、彼女はため息をついて彼に言った。

 その後彼女は俺達に詳しく説明してくれた。彼女の本名はコリン・ロピス・クラネトと言い、この国では代々王に使えてきたクラネト家という歴とした貴族らしい。ならなぜ彼女がここにいるのかというと、国のために働くのであれば自由を許されていると言う訳だそうだ。


「ですから、心配されなくても大丈夫ですよ」


 彼女は説明が終わると、にっこり笑って俺達にそう言った。

 うーん、彼女もああ言ってるし、もしもはないか……なら信じて後は彼等に任せよう。


「はい、そう言う事なら後はよろしくお願いします」


「おうよ、決まりだな。それじゃ今日はゆっくりしてくれ」


 その後少し話をしてお開きにすることになり、俺は席を立ち部屋に戻ろうとしたが秋華に服の裾を引っ張られた。

 あー、すっかり忘れてた。

 外出していいか聞くんだったか。


「あの、セチルさん今から街を散策していいですか? 秋華が見たいと言うので」


 俺は席を立とうとしている彼に聞いた。


「ん、ああいいぞ。でも大通りだけにしとけよ、狭い道や裏路地は危ないからな」


 すると彼は好きなものでも買ってこいと金貨を2枚投げてきたので俺はそれをありがたく受け取り外へと出た。


 するとそこには洋風の建物がずらっと並んでいた。

 いや、しかしすげえな。

 異世界に来て初めて海外旅行に来た気分だ。


「お兄ちゃん何してんの? 早く行こうよ」


 俺が建物を眺めて感想を言っていると、彼女は早く周りたいのか俺を引っ張り街へと繰り出した。


 そこからは街の大通りにある店をそれぞれ歩き回り、今は洋服屋にいた。


「お兄ちゃんこの服どう?」


「あぁ、いいんじゃないか」


「もぅー、ちゃんと見てる? 適当に言ってるでしょ。そんなんじゃ女の子に嫌われるよ」


 俺はその洋服屋で秋華の服選びを手伝わされていた。

 しかし、妹の服とかどうでもいいんだが……でもちゃんと選んでやらんと後で何言われるか分からないな。

 子供って言ったって女だ、怖い怖い。

 

 俺は近くにいた店員に金貨2枚の範囲で買える服を教えてもらい、その中から彼女に選ばせ俺がきちんと評価し服を決めた。


「えへへ、お兄ちゃんはこういう服が好きなんだね」


 服は白のブラウスにロングスカート後は適当に羽織ものを余ったお金で選んだ。


 ……やべえ、普通に趣味全開の服装にしてしまった、妹相手に恥ずかしい。

 まぁ気に入ってくれたならいいかと投げやりになりながら結論づけた。


「よし、じゃあ服も買ったし今日はもう帰ろうか」


「そうだね、コリンさん達にお兄ちゃんに選んでもらったって自慢したいし帰ろう」


 俺は洋服屋の入り口のドアに手を掛け店を出た。


 そうして俺達は宿へと戻ろうとして店の角を曲がった時だった、向こうから走って来たであろう女とぶつかった。


「痛っ、ちょっとどこみて歩いてんのよ。足擦りむいちゃったじゃないの」


「それはこっちのセリフだお前が走ってきてぶつかっただろ」


「はぁ? 何言ってるの、角曲がる時に確認しないあんたが悪いでしょ」


 何なんだこいついきなりぶつかってきたのに謝るどころか逆ギレされたぞ、なんだかイライラしてきたな。確かに確認しなかった俺も悪いかも知れないが全部俺のせいってのはおかしな話だ。少なからずこいつにも非がある。そう思っていると秋華が俺の前に立って女に手を伸ばした。


「うちのお兄ちゃんがすみません。大丈夫ですか?」


 その女は秋華の手を取り立ち上がった。


「あら、ありがとう。あんたの妹は分かってるわねあんたと違って」


 女はそう言ってその場を立ち去った。

 すると今度は秋華が俺に振り返り口を開いた。


「お兄ちゃん、ああいう時は悪い悪くないのは関係なく謝るのが先だよ、しかも相手は女の人だし」


 なんか俺が悪者にされてるな、まあ確かにぶつかって謝らなかったのは不味かったか。でもあんな態度取られたら謝りたくなくなるけどな……まあいいかもう会うこともないだろうしどうでもいいや忘れよう。


 その後俺達はその場を去り宿へと戻り眠りについた。

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