Act21.次大夫堀公園 Part1
刹那たちは小雨が降る中、傘を差して沙絢のマンションを出て直ぐ近くにある公園へと向かった。
呪縛を解くためには、依頼主自ら呪物を燃やさなければならない。引越途中の部屋なので、念のため復元された小川もあるこの
「よく気分転換に、二人でこの公園を散歩したわ」
ここも沙絢と千尋の思い出が詰まった場所なのだ。
実際、素敵な場所だと思う。開成山公園ほど広大ではないが、それでも広く、古民家園や田んぼなども在る。ただし、全体が一つにまとまっているのではなく、道路で分断されているのも特長だ。
ここが世田谷区喜多見だと言うことを刹那は永遠に教えた。
「多く見るなら、鬼よりも喜びの方がいいですよね」
と答えて黙り込んだ、叔父の事を思い出して心配しているのだろう。
「永遠、だいじょうぶ?」
顔を覗き込む。
「疲れた?」
「平気、心配しないで」
気丈に答える姿がいじらしい。
「ムリはしないのよ」
永遠はコクリとうなずいた。
雨のせいか公園には自分たち以外人気がない、やるなら今だ。
コンビニで買ってきた線香の束を取り出し、小岸に渡す。
「火を点けるので、しっかり持っていてください」
「あ、ああ」
「永遠、お願い」
「オン クロダナウ ウン ジャク!」
両手で印を結び、穢れと悪を焼き滅ぼし不浄を清浄に変える烏枢沙摩明王の真言を唱えると、線香の束の先端から焔が上がる。
「うわッ」
驚いた小岸が傘と線香を落としそうになる。
「やっぱスゴいね、永遠ちゃんは。
さすが、せっちゃんの妹。ってか、せっちゃんが大したコトない気がしてきた」
「優風さん、それはヒドいぃ~」
スペックの差は、自分が一番よく知っている。
線香の火が落ち着くと、刹那は小岸から小袋を受け取り口を開けた。小岸が中から髪をつまみ出す。血のにおいと何かの薬物だろうか、嫌な臭いが漂う。
「燃やしてください」
小岸はうなずくと、改めて千尋の髪を見つめてから、線香の先に着けた。
ジリジリと髪の毛が燃える。先ほどの嫌な臭いがさらに強まる。
「オン カカカ ビサンマエイ ソワカ
地蔵菩薩よ、その慈悲により、鮎瀬千尋の魂を救い給え……」
永遠は地蔵菩薩真言を唱え、成仏を祈った。
その時、小岸の前に鮎瀬千尋が現れた。
「千尋……」
彼女は一瞬、小岸を見つめたが、直ぐに視線を沙絢に向けた。
「もう、いいのよ、苦しまなくて」
沙絢がほほ笑む。
千尋はうなずくと、姿が消え始めた。
「ゴメンッ、オレ、オレ……」
それ以上小岸は何も言えなかった。
「俺も謝るよ。鮎瀬、自分の目的のため、死んでいる君を働かせた、本当に申し訳ない」
東雲が深々と頭を下げる。
「さようなら、今までも、これからも、いつまでも愛してる」
沙絢が言うと、千尋はほほ笑んだ。
『あたしも愛してる……』
そう言うと彼女の姿は消えた。
「終わったね……」
優風がそう言って、小岸に寄り添った。彼はうなずきながら、涙をぬぐった。
沙絢と東雲も、千尋が立っていた場所を見つめている。
おかしい……
永遠に視線を向けると、彼女もこちらを見てうなずいた。
「えッ」
誰かが声を上げた。
振り向くと、再び鮎瀬千尋が姿を現している。
『グ……ググ……グググ……』
胸を押さえ、かがみ込んで苦しんでいる。
「千尋、どうして?」
沙絢、小岸、そして東雲が戸惑っている。
「失敗したのッ?」
いち早く我を取り戻した優風が、永遠たちに尋ねる。
「いいえ、成功したはずです……
小岸さん、髪をどこで手に入れました?」
「持ってきたんだ、芦屋が……」
永遠は唇をキュっと噛みしめた。
「恐らく、呪物が他にもあります」
「まさか……満留が持ってるの?」
「ご名答。それより、良い助手を雇ったじゃない、御堂刹那」
永遠が答える前に、背後から聞き覚えのある声がした。
振り返ると、傘を差した長い黒髪の女が立っていた、芦屋満留だ。
「また、コソコソ陰から覗いてたの? 本当にストーキングが好きね」
怒りを込めた刹那の皮肉を満留は鼻で笑った。
「フン、何とでも言いなさい。利子を付けて去年の借りを返してあげるわ」
「別にいらないわよ。
それより、あんたが先生を殺したの?」
背後で沙絢たちが息を飲む。さすがに彼女たちは、そこまで疑っていなかったのだろう。
「人を殺人犯扱い? 何か証拠でも?」
「あるわけないでしょ。あんたは法の外にいる。あたしに復讐するために、やってもおかしくない」
「随分な言いようね。
で、そうだとしたらどうするの?」
「絶対にゆるさないッ!」
満留が嘲笑する。
「ククク……絶対にゆるさない?
相変わらず威勢が良いけど、霊視と霊話しか出来ないエセ拝み屋に、何が出来るの? また、私の評判を落とす? それとも警察に通報してみる?」
「うるさいッ」
刹那は傘を投げ捨て、満留につかみかかろうとした。だが、突然眼の前に千尋が現れ、動きを阻まれる。
「あッ?」
千尋の手が刹那の首にかかり、締め上げる。
「ウグググ……」
千尋の指を外そうとしたが、自分の手がすり抜けてしまう。なのに千尋が首を絞める力は本物だ。
満留が傘を片手に千尋の隣から、刹那を覗き込む。
「少しは私の顔に泥を塗った事、後悔した?
泣いて頼めば、ゆるしてあげてもいいわよ」
刹那は満留を睨み付けた。
死んでもこんなヤツに屈するものか。
「ホント、可愛げのない子ね。じゃあ、バイバイ」
首を絞める力が強くなる。苦しくて頭が回らない、全身が痺れたようになり、意識が遠のく。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン!」
満留に火の玉が飛んできた。
「グワッ」
避けきれず、満留の
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