Act19.東北新幹線やまびこ

 永遠は刹那たちとやまびこに乗って東京へと向かっていた。


 イベントを終えると、早紀が天城から電話があったと教えてくれた。アークソサエティに潜伏場所が見つかってしまい、梵天丸たちを別な場所に移すという。


 誰も怪我などはしていないらしいが、それでもやはり心配だ。出来れば合流したかったが、天城からの指示は刹那たちともう少し行動を共にしろという物だった。


 朱理の実家は千葉県八千代市にあり、父は現在そこに独りで住んでいる。そのため父に連絡を取ろうとも思ったが、昨日の段階で父にも身を隠すように言ってある。妹を誘拐し、母を撃ったアークだ。父に手を出さないとは思えない。下手に連絡を取り、危険な目に遭わせるわけにはいかない。


 また、無力感に支配されそうになる。


「大丈夫ですか?」


 隣に座った早紀が、心配そうに覗き込む。


「はい」


 笑顔を作ろうとするが、上手く行かない。


 早紀は溜息を吐いた。


「一五点」


「え?」


「永遠の演技力です、大丈夫じゃないのがバレバレです」


「あ……はい……」


「心配なのは当然です、私も同じですから。だけど、あなたは独りじゃありません」


 早紀が永遠の手を握る。不思議とその温もりが、安心感を与えてくれる。


「そうだ、永遠、私と約束してください」


「何をですか?」


「お母さんが退院したら、皆で一度ブレーブに来てくれませんか?」


 そうだ、謝りに行かなきゃならない。


「はい、必ず行きます」


 そう、お母さんとおじさんとわたし、お父さんと紫織はどうだろう? お祖父さんはさすがに行かないと思うけど。


「どうしたの?」


 席を外していた刹那が戻って来た。


「不安そうだったので、励ましていました。あなたの方はどうですか?」


 刹那は溜息を吐いた。


「概ね了解してくれたけど、舞桜ちゃんは高尾さんと東京に着き次第事務所に行くって。それと、優風さんにはお願いしたけど、山瀬さんには頼まなかった。明らかに関係がないから」


「そうですね、沖田さんに余計な負担はかけたくありません。島村さんも外していいでしょう、それより彼女自身の問題が心配です」


 刹那はうなずきながら永遠の隣の席に座った。


「色々不安で心配なのに、巻き込んじゃってゴメンね」


 小さな声だが本当に申し訳なさそうに言った。


「あたしが無力だから……」


 最後の言葉は自分自身に言ったようだが、永遠の心に突き刺さった。


 考えてもみなかった、刹那が抱える無力感を。


 叔父がよく自分の験力が弱いと言っているが、永遠にはそう思えなかった。一方、姉の一言は重い。霊感があり拝み屋をしているが、彼女は『霊』を説得して浄霊をする。呪術を駆使し、力尽くでも除霊が出来る叔父とは違う。


 刹那は、今回のような呪術師に使われている『霊』に直接対処する術を持たない。呪術師か依頼主が判らなければ手の出しようがないのだ。


 しかし、一時的とは言え、自分にはその『霊』を祓う事が出来る。永遠は初めて己に力が有ることを意識した。


「姉さん、もし力が足りないなら、わたしが助ける。だって……だって、わたしたちは姉妹なんでしょ?」


「永遠……ありがとう」


 刹那はギュッと永遠を抱きしめた。

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