Act18.郡山駅

 新幹線のホームを見渡すと、端の方に沖田沙絢が独り立っていた。


「待っていたわ、刹那ちゃん」


 刹那が近づいて行くと、沙絢が淋しげな笑顔を見せた。


「私と千尋の関係を知りたいんでしょ?」


 刹那は首を振った。


「あたしはイヤらしい芸能記者じゃありません、お二人のプライベートを暴いたりはしませんよ」


 永遠から千尋が言った言葉と、それに沙絢が応えた内容は聞いている。それだけで充分だ、刹那が知りたいのは、


「誰かに依頼したんですか? 鮎瀬先生の魂をこの世に留まらせたいと」


 今度は沙絢が首を左右に振った。


「野外音楽堂で千尋が姿を現した時、帰って来てくれたのかと思った、私の許へ。

 でも、何かがおかしかった。彼女、とっても苦しそうだった。

 刹那ちゃんのアドバイザーが千尋を消した時、非道いって頭にきたけど、少しホッとした。死んでなお苦しんでいる彼女を見ていられなかったから」


「沙絢さん……」


 居たたまれない気持ちになる。


「ゴメンね、聞かれてもいないのに勝手に話し始めて。千尋との事は誰にも言えなかった。でも、本当は誰かに聞いて欲しかったの」


「高尾さんも知らないんですか?」


「千尋との関係は事務所も知らないはず。でも、私が男性を好きになれない事は把握している。

 彼女との関係を知っているのは、東雲監督だけかしら。千尋が監督に私を使ってくれるように頼んでくれたの。その時、監督は察したみたい。

 自分の原稿料を減らして構わないって説得したんだって、監督が千尋が亡くなった後で話してくれたわ。

 私が辛い時、彼女はずっと側にいてくれた」


「ごめんなさい、それって……」


 沙絢はうなずいた。


「この二年、オーディションを受けても落ちてばかりだった。

 恥ずかしい話だけど、私は自信を無くして情緒不安定になっていたのよ、不安から逃れるためにお酒に溺れた。

 病院に運ばれたことも一度や二度じゃない。

 そんな私を見かねて千尋が一緒に住んでくれたの。私はもともと彼女に気があったのだけれど、向こうは違った。他に付き合っている人がいたみたい。

 でも、私を選んでくれた。

 そのお陰で私は何とか立ち直れた。新人の時みたいにバイトをしながらだけど、何とか生活している」


「沙絢さん、今は大丈夫なんですか?」


 彼女を支えてくれた人はもういない。


 刹那の心配とは裏腹に、沙絢は力強くうなずいた。


「千尋が悲しむような事はしたくないから。

 この二年間、私は数え切れないくらい大切な物を千尋からもらった。なのに、私は何も彼女に返せなかったわ。

 だから、せめて彼女に恥ずかしくない私でいようって、そう決めたの。

 今朝、あなたと舞桜ちゃんに、気持ちを切り替えろって偉そうに言ったでしょ?

 あの言葉は、いつも自分に言い聞かせているのよ」


「……………………」


 何と言って良いか判らなかった。沙絢は優しくて悲しいほほ笑みを浮かべた。だが、そこには強い決意と覚悟も感じられた。

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