Act14.ビジネスホテル Part2

「御迷惑をおかけして申し訳ありません、早く休んでください」


「しかし……」


「これは私が担当するタレントの問題です。この程度の対応ができないようでは、マネージャー失格です」


 穏やかな口調だが、高尾の仕事に対するプライドと意地を感じる。


「わかりました、それでは明日もよろしくお願いします」


 高尾は山瀬にも、部屋に戻るよう頼んだ。


 早紀は、刹那と永遠を部屋の前まで送った。


「それでは明日の朝、迎えに来ます」


「荒木さん、どこで休むんですか?」


 永遠が尋ねると早紀はにっこり微笑んだ。


「実家に帰ります。この状況なら、堂々と事務所にタクシー代を請求できますから。

 それじゃ刹那、妹の面倒はあなたがしっかり見てください」


「わかってますって」


「じゃあ、二人共、お休みなさい」


 そう言い残して早紀は実家へ帰っていった。


「さ~てさてさて、永遠、念のためあたしの部屋で寝て」


 情報が漏れる可能性は低いが、永遠を独りにしたくない。


 刹那は自分の部屋のドアを開ける。


「二人だと狭いけどガマンしてね」


 永遠の手を取り部屋の中に招き入れた。


「で、でも……」


「だ~いじょ~ぶ、安心して。いくら永遠がカワイくても、イタズラしたりしないから。

 お腹はすいてない?」


「はい、ここに来る前にコンビニで」


「それじゃ、シャワー浴びてサッパリして」


 刹那は永遠がユニットバスに入っている間に、彼女の部屋へ行きバスタオルやナイトウエアなどを取ってきた。こうして世話を焼いていると、何だか本当に妹ができたみたいだ。


 ついでに自分もコンビニで買っておいた弁当を食べる。せっかく福島に来たのだから、ご当地の名産を食べたいが時間に余裕が無かった。この分だとお土産に期待するしかない。


 シャワーを終えた永遠の着替えを手伝い、二人でベッドに横になる。


「ゴメンね、ゆったりした所で寝たかったでしょ?」


「平気です、むしろ安心できるって言うか……」


「ふふふ……ありがとう」


 永遠を優しく抱き寄せる。


「ね、昨日、リハーサルを観てたでしょ」


「はい」


「初めて視た、身体を包む焔のオーラ。『気』って言った方がいいのかしら?」


「未熟なので、験力を完全にコントロール出来ないんです」


 永遠は恥ずかしそうに視線を落とした。


 彼女に宿る験力は、発熱もしくは発火させる能力だ。


 修行を始めて十ヶ月、使いこなせるとは言いにくいが、それでも自分の意志で操ることは出来る。


 真言を唱えることで別の能力に置き換えることもある程度可能だが、意識しないと験力が漏れてしまう。


 それが霊能者の刹那には焔として視えていた。


 永遠は自分のことを語っているうちに、寝息をたて始めた。


  疲れていたのね、すごく大変みたいだったし。


 鬼多見は今、どうしているのだろう。明日までにアークソサエティと決着をつけると言っていたが本当にできるのか。向こうには人質もいるし、助っ人を頼むと言っていたが上手く行くのだろうか。


 それに舞桜はどこへ。なぜ刹那に何も言ってくれなかったのか。彼女もアフレコ初日の浄霊の現場にいて、刹那の能力については知っている。


  言えなかったのは、やっぱり依頼主だから?


 しかし、それでは失踪するまでの様子が納得できない。


  ダメだ、情報が足りない……


 悶々と思考を巡らせているうちに、刹那もいつの間にか寝息を立て始めていた。

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