Act13.鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神 Part3

「刹那の妹ということは社長の姪という事です。夏休みなので無理を言って見学に押しかけたとしても、周りはそれほど不自然に感じないでしょう」


 たしかに、刹那の妹という設定は素性を隠すには都合がいいかもしれないが、


「ウソだってバレませんか?」


「大丈夫です、公式ホームページでも刹那の家族については触れていません。それに、年齢を偽っているのに全く指摘がない。つまり、刹那にそれほど関心を持っている人がいないという事です。ですから、妹がいたとしても誰も気にしません」


  なんか今、御堂さんスゴくディスられなかった?


「じゃ、朱理ちゃんはあたしのことを『お姉ちゃん』って呼ぶのよ」


「わかりました、御堂さん」


「御堂さんじゃなくて、お姉ちゃん」


「はいッ、お姉……姉さん」


 普段は自分がお姉ちゃんだから変な感じがする、「さん」付けで許してもらおう。


「刹那、あなたも永遠と呼びなさい」


「は~い、よろしくね、永遠」


 早紀は満足そうにうなずいて、悠輝を振り返る。


「それで、今回のギャラですが」


「言い値で構わないよ」


「解りました。では、鮎瀬千尋の件と引き替えで、両者共に費用請求なしでいいですね」


「でも、それじゃ……」


「少なくとも、今日のステージを無事乗り切れたのはあなたのお陰です」


「それと、あたしの機転も大きいけどね!」


 刹那がドヤ顔で胸を張る。Tシャツ越しにも形の良さが判る、羨ましいと朱理は思った。そう言えば早紀もかなり大きい、それに引き替え自分は……発展途上だ。


「登場キャラに見せかけろってのは、朱理の……永遠の入れ知恵だ」


「さっすが、あたしの妹」


 刹那が「あたしの」の部分を強調する。


「永遠、危険じゃない範囲で、御堂に協力してくれ」


 悠輝は少しムっとしつつ言った。


「うん、おじさんも絶対にムリしないでね」


「永遠の事は任せて。悠輝くんが戻るまでには、こっちも解決……」


 言い淀み、刹那の顔をチラ見する。


「は、まだだと思うから、後はお願い」


「ちょっと、早紀おねえちゃん!」


 今度は刹那が露骨に不服そうな顔をする。


「御堂、出来る限り関わるな」


 悠輝は改めて真剣な声で言った。


「今回は誰かから依頼があったわけじゃないだろ?」


「それは、そうですけど……」


「さっきも言った通り、背後に呪術師がいる」


「『霊』よりは会話がしやすいんじゃないですか?」


「会話をしたところで、素直に呪詛を解いてくれるか? しかも、お前は対抗手段を持っていない」


 刹那はあきらめたように肩をすくめた。


「わかってます、早紀おねえちゃんと永遠を危険に巻き込みたくないですから」


「ありがとう、永遠をどうかよろしく頼む」


「悠輝くん、さっきから法眼先生の話が出ないのだけれど」


 早紀が戸惑いながら尋ねた。


 悠輝の眉間に皺が寄る。


「連絡がまったく取れない」


「そんな、まさか……」


「大丈夫、殺して死ぬくらいなら、とっくにおれが殺っている」


「おじさんッ」


「わかった、怒るな。それじゃ、おれはそろそろ行く」


 部屋のドアに悠輝が向かう。


「おじさん、絶対に帰って来て」


「約束する、その時は紫織も一緒だ。お前も自分の安全を第一に考えろよ」


「叔父さん、帰って来たら、こっちの仕事もチャッチャと済ませてね」


 刹那が茶化すような口調で言う。


「御堂、お前を姪にした覚えはない」


「あたしの叔母さんは永遠の叔母さん、永遠の叔父さんはあたしの叔父さん」


 叔父は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「悠輝くん、待っているから」


 早紀が潤んだ瞳で見つめる。


力強くうなずくと、悠輝は部屋から出て行った。


 閉まった扉を早紀は見つめ続けている。その早紀を、刹那は眉間に皺を寄せて見つめている。


  こ、これは修羅場への序章なの?


 無事に帰ってきても、新たな波乱が叔父を待ち受けているかもしれない。


 朱理が余計な心配をしていると、テーブルの上にあるスマホの着信音が鳴り響いた。


 刹那がテーブルから取り上げで操作する。


「はい、御堂です……いえ、来てませんけど。舞桜ちゃんが、どうかしたんですか?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る