Act13.鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神 Part2
「そんなことが……
あの日、遙香先輩が私の家に謝りに来ました。当時はわけが解らなかったけど……」
話しを聴き終えると、早紀は遠い眼をして呟いた。
「ごめんなさいッ。母は、ただ親友の願いを叶えようとしただけなんです」
「………………」
「早紀おねえちゃん」
刹那が気遣わしげに見つめる。
「サキねえちゃん、おれからも謝るよ、本当に済まない。あの時期、姉貴が不安定だったことは覚えている。でも、詳しい内容をおれは知ろうとしなかった。
おれが下手なことを言ってサキねえちゃんを傷つける前に、朱理は姉貴にも験力がある事を打ち明けて、その上で謝りたかったんだ」
悠輝が顔を向けたので、朱理は力強くうなずいた。
「正直、驚いて、まだ心の整理が出来ない。でも、朱理ちゃんと悠輝くんが悪くないのは間違いないわ」
ぎこちなく早紀は微笑んだ。
朱理は何と言えばいいかわからなかった。
「姉貴も本当は、事実を話した上で謝りたかったと思う。いや、怪我が治ったら、必ずもう一度頭を下げに行かせるよ」
「怪我?」
早紀と刹那はこの言葉の意味を察したようだ。
「ああ、姉貴は銃で撃たれた」
「えぇッ?」
「何ですってッ?」
刹那と早紀が同時に叫ぶ。
「誰にやられたの?」
「やっぱり、反社会的集団? それとも逆に国家権力側?」
刹那がとんでもない事を口走る。
「御堂、おまえ、おれ達を何だと思ってるんだ?」
「だって、日本で銃を持っているなんて……」
「まぁ、間違ってはいないけどな」
不満そうに言う。
「それで、警察には?」
悠輝は首を振った。
「どうして?」
「アークソサイエティって名前に聞き覚えは?」
早紀の問いに対し、悠輝は質問で答えた。
「たしか、東北で勢力を増している宗教団体で、半年ぐらい前に殺人がらみの事件を起こした……まさか、彼らが遙香先輩を?」
早紀の言葉を悠輝は肯定した。
「奴らの信者がどこにいるか判らない、恐らく警察の内部にも潜り込んでいる。下手に接触したら、今度は朱理まで拉致されるかもしれない」
「どうしてそんな事に?」
「ちょっと事情があって、アークの支部を潰した。殺人事件が明るみに出たのはその時だ」
「つぶした? 法的手段に訴えて施設を使えなくしたの?」
「いや、個人で物理的に」
悠輝は数ヶ月前にアークソサエティの信者拉致殺人事件に巻き込まれ、結果支部の建物を全壊させ、そこにいた幹部と信者十数名を病院送りにした。
験力で警察を含め一部の関係者の記憶を操作し、自分の名前が表に出ないように細工をした。とは言え、完全に隠蔽できたわけではない、少なくともアーク側で悠輝の関与は判っていたはずだ。
その証拠にアークは隙を突いて、朱理の妹、真藤紫織を誘拐した。しかし、彼女の居場所は母の遙香が験力で直ぐに突き止めた。
悠輝と遙香は紫織のいる場所に乗り込んだが、そこには罠が張ってあった。
スナイパーが配置されており、遙香が撃たれたのだ。
救急車は呼べなかった、救急隊員の中に信者がいたら逆に遙香の命が危ない。
やむなく悠輝は、おぼつかない運転で遙香を信用できる医者に運び、次に同居している従弟と犬二匹を腐れ縁の探偵に匿ってもらった。そして、自分は朱理を連れアークのから逃れて、現在ここにいる。
「これが今日の半日で起こったことだ。この最中に御堂からメールが届いて、あることを思いついた」
「え? 何です?」
刹那が不安げな顔をする。
「朱理を預かってくれ」
「はいッ?」
「ムチャを言っているの解っている。しかし、アークもおれとおまえのつながりまでは把握してないはずだ」
悠輝の眼は真剣その物だ。
「ちょっと待ってッ。あたし、絶賛ツアーイベント中だし、それにウチのスタッフにアークの信者がいないって言い切れないでしょ?」
「それも考えたが、信者全員に朱理の情報を配っているとは思えない。仮にされていたとしても、ツアーの最中に人目を盗んで連れ去るのは難しいだろう」
「たしかに一理あるわ」
早紀もその点は同意した。
「明日中には決着をつける。だから、その間だけ朱理を頼む」
「決着って、悠輝くん、どうするつもり?」
早紀が心配そうな顔をする。
「紫織を取り戻し、同じ過ちを繰り返さないよう、奴らにしっかり教えてやる」
「独りでやる気?」
悠輝は早紀を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、助っ人を呼ぶから。それに、おれはアークの支部を壊滅させてる。サキねえちゃんに甘えていた子供とは違う」
「そうだけど……」
「ムチャはしない、約束するよ。だからおれのことは心配しないで」
助っ人の件はウソだ、おじさんは独りで乗り込むつもりだ。
朱理は悠輝と一緒に行きたかった。妹が心配なこともあるが、それ以上に絶対にムチャをする叔父の身を案じていた。
ここに来る前に、自分も一緒に行くと何度も訴えたが足手まといになるとハッキリ言われた。悠輝が朱理を傷つけるようなことを言うのは珍しい。つまり、それは事実であり、絶対付いてくるなという意思表示だ。
朱理は不承不承納得した。もし自分が足手まといになったら、さらに叔父を窮地に追い込んでしまう。
「あたしの一存では決められないわ」
刹那は早紀を見上げた。
「社長に連絡しましょう」
スマートフォンを取り出して電話をかける。
「副業は、あたしの叔母さんがマネジメントしてるの」
刹那が朱理に説明する。
数分後、早紀は通話を終了した。
「この件については私に一任されました」
「で、どーするの? マネージャー」
「そうですね……」
唇に指を当てて考え込む、さっきまでとは雰囲気が違う。
「朱理さん、今からあなたはプロダクションブレーブの研修生です」
「えッ?」
「ちょっとサキねえちゃん!」
予想外の言葉に朱理と悠輝があたふたする。
早紀はそれを手で制す。
「朱理、あなたは明日のツアーイベントを見学するために、先ほど東京から到着しました」
「なるほど、そう言う事か」
悠輝の言葉に早紀がほほ笑む。
「素性を隠すなら、名前も変えた方がいいんじゃない?」
「でしたら……」
提案した刹那の顔を早紀は見つめる。
「永遠と書いて『とわ』。刹那の妹という事にしましょう」
「妹ッ!」
思わず大声が出た。
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