Act11.鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神
開成山公園に展示されている蒸気機関車D51。その側でMTB《マウンテンバイク》の番をしつつ、
月も星もなく蒸し暑い夜だが、自転車用ヘルメットを被り、サイクルグローブをしていても、彼女は汗一つかいていない。
鬼多見家には異能の力を持つ子が生まれやすい。この能力を
火を操れるため、耐熱性も望める。その能力を鍛えるために、炎天下の中、MTBに乗ったり、歩き回ったりして修行をしている。その成果で、気温が三五度ぐらいなら暑く感じず、むしろ心地いいと思えるようになった。事実、喉も渇かないし、汗もかかない、もちろん熱中症にもならない、去年までとは大違いだ。
朱理が現在いる場所は、音楽堂の客席の裏にあるため、スピーカーから漏れる出演者の声や観客の歓声がよく聞こえる。
公園に来た時からおかしな感じはしていたが、音楽堂で二曲目の歌が始まってから驚くほど危険な存在を感知した。
一緒に来た叔父も当然それを察知していた。
いま住んでいる郡山が舞台という事もあり、ケーブルテレビで『鬼霊戦記』は観ていた。
叔父の服がたまたま白一色で、更にたまたま独鈷杵を持っており、ダメ押しでたまたま最近念動力で空中を歩けるようになっていたので、演出に見せかけて介入する方法を思いついた。
彼はブツブツ言いながらも朱理の提案に従った。
たまたま、なのかな……
自分が異能力者のクセに、超常現象や運命論、そして宗教までも嫌う叔父が聞いたら、
「単なる偶然だ。もし、違う色の服を着てたり、キャラと同じ事が出来ないなら、別な手を思いついたさ」
と言うだろう。
たしかに叔父の言うことはもっともだが、朱理にはそればかりとは思えなかった。
昨日もそうだ、夏季講習の帰り道、愛車のMTBを引きながら、修行のため開成山公園をブラついてたら、『鬼霊戦記夏祭り』のリハーサルに遭遇した。
このアニメのイベントが郡山で行われることは、公式サイトで知っていた。
と言っても、熱心なファンというわけではない。地元が舞台という事に加え、娑羯羅役の声優、御堂刹那を以前から知っており気になっていただけだ。
直接面識があるわけではないが、昨年、彼女の名前で叔父宛に宅配便が届いた。住所にプロダクションブレーブとあったので、ググってみたところ、彼女がマイナーアイドルであることが判った。
それから間もなくして、ブレーブのサイトに良く言えばシンプルな、ハッキリ言うと間に合わせにしか見えない、声優のページが追加され、彼女は独りそこに移された。
画像で見ていた彼女は、可愛いけれど人気のアイドルほどではなく、特に惹かれる物も無かった。しかし、生で観ると別人のように活き活きとして魅力的だ。
思わずリハーサルに見とれていると、本人と目が合ってしまい、恥ずかしくなって逃げ出した。
「朱理、お待たせ」
外灯が叔父の姿を照らし出す。
「うまくいった?」
「ああ、お前のアイディアのお陰だ。出演者の援護にも助けられて、超常現象とは思われてない」
朱理の頭に手を置こうとしたので、素早く身をかわす。いつまでも子供扱いしないで欲しい。
「でも、一時的に追い祓う事しか出来なかった」
叔父は寂しそうな顔をしながら付け加えた。
「逃がしたの?」
「アレは魔物やただの思念体じゃない、呪術師が絡んでいる。
『霊』という言葉も叔父は嫌い、『思念体』というSFチックな単語を使う。
「で、アレは死者なの? 生者なの?」
「死者の思念体だと思う」
呪詛で死者の霊をこの世に留めているという事か。
誰が何の目的でやっているのだろう? どしらにしろ、今の段階では判らない。
「今はジッとしているのはマズイ。取りあえず、ここから移動しよう」
そう言うと叔父は止めて置いた自分の古いマウンテンバイク、GIANTの青いROCK5500を引いて移動を始めた。
朱理もLivのTEMPT4を引いて後を追う。こっちは昨年の十二月、誕生日とクリスマスを兼ねて祖父にプレゼントしてもらった。
「これからどうするの?」
「まず、御堂に連絡を取って、それからだ」
朱理は現状とこれからの事を考えると、不安で胸が押し潰されそうだった。
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