Act10.開成山 Part1

 玄翁石を離れても『霊』は憑いて来た。遅い昼食も取った世界のガラス館、くわ高校旧本館、ザ・モール、そして昨日も気配を感じた大神宮にも姿を現した。


 特に何をするわけでもないが、呪術によるモノならこのままでは終わらないだろう。刹那は呪術に関する知識をほとんど持っていないため、隙を見てアドバイザーを頼んでいる鬼多見にメールを送った。


 彼は副業の副業で拝み屋をしていると言っているが、この手のことには刹那より遥に多い知識を持っている。


 ツアー自体は滞りなく進み、本日最後のイベント、開成山公園での『鬼霊戦記夏祭り』までたどり着いた。


 刹那たちが控え室に着くと、優風と小岸が待っていた。


「お疲れ様です」


「お疲れです」


「二人の方こそお疲れ。特に小岸君、東京からトンボ返りで大変だったろう?」


 監督が二人を労う。


「いえ、まだ若いですから!」


「ムリしないでよ、もう中年なんだから」


 優風がニヤニヤしながら言った。


「うるさいよ、お前だってアラサーだろ!」


「アタシは永遠の一七歳だもん」


 この二人はいつもこんな感じだ、笑いを誘い場を和ませてくれる。アフレコ現場でも、緊張する場面で何度助けられたかわからない。


「ん? そっちの二人も顔色悪いけどダイジョーブ?」


 優風が心配そうに、舞桜と刹那の顔を覗き込む。小岸も気付いたのか、笑顔が消えた。


「舞桜ちゃんは、お昼から具合悪そうなの」


「ムリはするなよ、明日もあるんだから」


 沙絢とマネージャーの高尾も心配そうだ。


「だいじょうぶです、ごめんなさい。初の大舞台なので、緊張しまくってるだけです」


「そうかい? 長丁場だからね……。本当にムリな時は言うんだぞ」


 高尾が念を押す。


「はい」


「刹那ちゃんはどう?」


「あ、はい、平気です」


 刹那の顔色が悪いのは得体の知れない『霊』のせいだ。だが、周りに余計な不安を与えたくない、今はまだ黙っていよう。


「刹那は元アイドルなのに、人前で唄った経験が極端に少なく、三〇人以上の観客を前にした事も滅多にありません。三桁の観客の前で唄わなければならないので、プレッシャーで気持ちが悪くなっているだけです」


  なんちゅうフォローだッ、事実だけど!


「はい、その通りです……」


 刹那は答えながら早紀を睨んだが、彼女は蒸し暑さを感じさせない涼しい顔をしている。


 周りが生温かい眼で刹那を見ている。


「せっちゃん、ガンバ」


 舞桜がポンと肩を叩く。


 キミだって、同じ立場ぢゃないかッ!

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