Act9.玄翁石

 なわしろの近くでバスを降りて、刹那たちは林道を歩いていた。今日も空はどんよりと曇り蒸し暑い。それでも例年より涼しいし、雨は降っていないのでありがたい。


 目的はげんのうせきという、九尾の狐で有名な、せつしようせきの一部と伝えられている巨石を観る事だ。


 実際はばんだいさんの噴火で飛んできた石らしい。


 玄翁石はアニメ内で現実世界と異世界を繋ぐ扉として使われている。そこでも森の奥にあると描かれていたが、現実も似たような物だ。


 観光地化されていないため、かなり林に分け入らなければならない。


 実際に着いてみると、その大きさに圧倒された。最大で高さ三メートルはあるだろうか、それが中央辺りで二つに割れている。


 虎の巻を見ながらツアー客に説明しつつ、刹那も実際に触れてみた。


 その時、また不可解な気配を感じた。


 振り返ると、客の中に死者が紛れていた。その姿は霧に包まれたようにハッキリせず、性別も年齢も判らない。バスを見送っていた『霊』が追って来たのだ。


「舞桜ちゃん、大丈夫?」


 刹那が異形の存在に気を取られていると、隣にいる舞桜に沙絢が近づき、小声で尋ねた。たしかに顔色が悪い。


「はい、緊張しっぱなしで、少し疲れているだけです」


「本当? ムリしないでね」


 沙絢が優しく舞桜の肩に触れる。


 よく気が利く人だなと刹那は感心する。


 それに比べ自分はどうだろう。すぐ隣にいたのに、緊張と『霊』のせいで、いっぱいいっぱいになっている。


 反省しつつ、この『霊』についても自分なりに分析する。


 現時点で刹那には視えるが、他の人には見えていないし、特にわざわいを招いてもいない。


 ばくれいゆうれいではないし、誰かに取り憑いているわけでもなさそうだ。確信はないが、不自然な視え方から呪術がからんでいる気がする。


 だとすると、この中にいる誰かが呪術師に狙われている。それは客なのかスタッフなのか。


 放って置けないが、これだけ他人の目がある前では安易に行動できない。


 取りあえず、早紀と監督には伝えて様子を見よう。


 これって、おばさんが仕込んだ副業じゃないわよね?


 そんな思いが頭をよぎったが、いくら何でもそれは無いだろう。


 刹那はさり気なく早紀に近づき、自分が視えているモノについて伝えた。

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