第12話 おっさんがいるのでは?

 友人が飲みに行こうと誘ってきた。

 川鵜湊かわう みなとは十歳も年下だが、共通の趣味で話が合って以来の友人だ。たまにこうして飲みに行くことがある。

 しかしこいつも忙しいんだろう。会うのも久しぶりだな。


「Kさん、元気そうですね」


 いつまでたっても敬語で話しかけるこいつは、しかし実際はかなりの毒舌家だ。


「まあな」

「安心しましたよ。最近、時々一人でぶつぶつ言ってるって噂を聞いてたんで」

「はあ?」

「駄菓子屋の前で何かを睨みつけながら、おっさんが……とか呟いてたらしいじゃないですか。水くさいですよ。悩みがあるなら僕に相談してくれたらいいのに。おっさんと駄菓子とどんな関係があるんです?もしかしてその年で駄菓子に目覚めたんですか?なるほど、おっさんとはKさん自身ですか。でも自分のことをおっさんとか言ってると早く老け込むので、やめたほうがいいと思いますよ。Kさんだってまだまだいけますって。あそこに座ってる彼女もKさんの事、見てるじゃないですか。いやいや、そんなこと言ったら僕、奥さんに怒られちゃうな。うん。奥さんの為にもおっさんくさくならないように気をつけましょうね。ところでちょっと相談なんですけど」


 湊……息継ぎはどこでしてるんだ?

 エラ呼吸?


「ねえ、聞いてます?ちょっと相談があるんですよ」

「お、おう」

「最近、僕、物忘れがひどいというか、家でいろんなものを失くすんですよ。どうしたんでしょうか。大したものじゃないんだけど、家計簿をつけようと思って取っておいたレシートが何枚か足りなかったり、お気に入りのハンカチが洗濯したはずなのにどうしても見つからなかったり」


 それ……

 家におっさんが住み着いてるんじゃねえの?

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