第8話 おっさんの夏

「夏って嫌だよなあ」

「ああ、暑いからな」

「暑いのはまだいいんだよ。いや、好きじゃねえけどな」


 おっさんは今、ソファーの背もたれに足を上げて、頭を半分だらんと座面からはみ出させている状態だ。左手は奥さん特製の団扇を持って、ばたばたとうるさく扇ぎながら。


「おっさんちょっと……くつろぎ過ぎじゃねえ?」

「え? そうか? 夏だからな」


 ばたばた、ばたばた。

 ばたばた、ばたばた。


 ……。


 うるせえ。

 エアコンの温度を一度下げた。


「でさっきの続きだけどよ」

「ん?ああ、夏が嫌いって?」

「出るんだよ、夏は。アレが」

「あれ?」


 おっさんはソファーの上にきちんと座りなおすと、深刻な顔で話し始めた。


「俺の部屋は深夜になると真っ暗なんだよ。光が入らなくてな」

「すまん。ちょっと気になったんだが。おっさん、個室持ってるの?」

「当たり前だろ」

「へえ。どこに住んでんの?」

「ど、どこって……どどどどこでもいいじゃねえか」


 やけに焦ってるな。住んでる場所は内緒なのか。


「最近はよく出てくるし。もしかして、この家の中に住んでるのか?」

「そそそそんなこと!ぷっ、ぷらいばしーだからな。個人情報だ。そんなことは、どうでもいいんだよっ」


 そのうち追及してやるか。

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