第7話 写真の中のおっさん

「普通に座れよっ!」

「えー、つまんねーの」


 ソファーに座るおっさんをアップで撮った。

 ……普通にソファーに座ってるただのおっさんだ。よれっとしたTシャツがだらしない。

 小人感がないな。

 背景をちゃんと入れないと。

 少し引いて、本棚を入れて撮った。


 ……。


「おっさん、ちょっとそこのペットボトルの横に立ってみろよ」

「めんどくせえなあ」

「じゃあ、おやつ返せよ」

「ええー。立ちますよ、はいはい。喜んでー」


 おっさんの背は当然だがペットボトルよりも小さい。

 並んでる写真を撮った。


 ……。


「おっさん、ちょっと俺の手の上に……上がってもらうのは気持ち悪いな。この鉛筆持ってみろよ」

「お! いいぞ! 俺もけっこう描けるんだぞー」


 おっさんは身長と同じくらいの鉛筆を持って、よたよたと紙の上を歩き回った。

 せっかくだから動画で撮ってみた。


「……ダメだ」

「え?何がだよ。結構うまいだろ」

「おっさんの絵は……どうでもいい。だが写真がな。これ、見ろよ」

「おー、よく撮れてるじゃん」


 ちゃんと撮れてはいる。

 おっさんが変な背景の前で写ってる、いかにもコラージュしました感にあふれた写真。

 それか、びっくり写真が撮れる「騙し絵写真館」っぽい。

 動画ですら小人感がない……。


「おかしい……。ただのおっさんしか写ってねえ」

「そりゃそうだろ」

「嘘くせえんだよ!」

「そういわれても……なぁ?」


 ぐぬぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る