第5話 おっさんのお中元

 部屋でこっそりアイス食ってたら、おっさんが現れた。

 ほんと、酒は関係ーねーんだな。


「よぉ、けーくん」

「おっさんまた来たのかよ。暇なのか?」

「嫁がな、けーくんにコレ、渡してくれって」

「ん?」

「お中元」


 お 中 元 !

 かろうじて叫ぶのは抑えられた。

 今どき世界遺産モノの風習だろ、お中元。

 受け取ったそれには、きちんと熨斗がかかっている。よく見たらレシートの紙に手書きの水引だ。


「すまないな。で、何なんだ?これ」

「グラスの下に敷くやつだよ。コースター」

「へえー」

「嫁が作ったんだ」

「ほう!」


 小さく畳まれたコースターは薄いが、それでもちゃんと二重に仕立ててある。

 ……この模様、どこかで見たことあるな。


 っ! 俺のハンカチじゃねえか!

 見つからないと思ったら、おっさんらが持って行ってたのかよ。


「あっ、けーくん、落ちる、落ちる」

「へ?」

「アイスが!」


 おおっと。

 溶けて落ちかけてたアイスのしずくを、手に持っていたもので受け止めた。

 そう、頂き物のコースターで。


「「あ……」」


 おっさんと目を合わせて、一瞬無言になる。


「嫁には内緒だな」

「奥さんには内緒にしてくれな」


 互いに、深くうなずいた。


「けど、嬉しいよ。洗って大事に使う」

「おう」

「代わりにと言っちゃあなんなんだが、俺から奥さんに」


 机の引き出しから出したのは、この前描きかけていたイラストだ。印刷だけど。

 ハガキサイズに印刷された絵は、おっさんには少し大きすぎるかもしれないな。でもま、飾る場所くらいあるだろ。

 どこに住んでるか知らねーけど。

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