第1話 帰ってきたおっさん 

「よぉ」


 ごくごく普通の顔で、おっさんが現れた。

 二十年ぶりに。


「……よぉ、じゃねえよ!生きてたのかよ」

「ピンピンしてるぞ。え?死亡説流れてた?」

「どこに流れるんだよ。って言うかおっさん、俺の空想の産物じゃなかったのか」

「空想の……って、なんだそりゃ。人を河童か何かみたいに言うんじゃねえ。俺は怪談は苦手なんだぞ」


 うー、こわこわ。そう言うとおっさんは大げさに震えて見せた。

 そんなおっさんの見た目は、二十年前とちっとも変わらない。


「おうよ。まだまだ若けえからな。けーくんも変わらず元気そ……老けたな?」

「あたり前だろ、二十年も経ってんだぞ」

「そか。けーくんも今じゃ、おっさんだな」


 かっかっかと陽気に笑う。


「そういえば、おっさんも飲むか?酒」

「いやあ、俺は酒は飲まねえんだよ。すぐに赤くなっちまうからな。チョモランマの天然水くれよ」

「ねえよ!」


 水道水をペットボトルのキャップに入れて渡したら、よっこらしょと抱きかかえて飲んでる。

 おっさんにとっちゃあ洗面器サイズだ。さすがに飲みにくいらしい。

 顔をしかめながら飲んで、ぶつぶつ文句を言い始めた。

 やれやれ。


「次に来る時までに、チョモランマの天然水な。あと、俺専用グラスも」

「……気が向いたらな」

「お!けーくん、前向きな回答だねえ。よろしくな」

「気 が 向 い た ら だ!」


 ちっ、仕方ねえ。

 ちゃんと飲みに来いよ。

 言わねえけど。

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