第18話
痛みに顔を顰めながら俺達が病院に向かうと、リンネさんは帰ってきてた。
──扉を開けた瞬間に見えたのは仁王立ちする智也と正座しているリンネさんだったが。
智也のは目は完全に死んでいて、機械のようであった。対してリンネさんは耳と尻尾をしゅんとさせて項垂れていた。
──どういうこっちゃねん。
相当に意味不明な状況の中、俺が戻ってきたのにも気づいて……いるが敢えて無視を決め込んでいる智也が告げる。
「被告人に判決を下す。──ゆうz「無罪だ。」……弁護人、理由を述べ給え。」
とりあえず何があったかはわからんが、ひとまず理不尽な判決を阻止できた。
「……そもそも俺は今帰って来たがなんでこんなことになってるんだ?」
「おい弁護人。……お前がそんなボロボロになってる元凶はこやつのせいだろうよ。」
「……?いやさ?自然の摂理に責任者もクソもねえだろうよ。俺が怪我したのは俺が弱かったからだ。リンネさんは何も悪くねえだろ。弱肉強食、これが自然の摂理だ。」
「……一理ある。続けろ。」
「後は可愛からかな。個人個人の正義があるが『可愛い』は絶対普遍の正義ぞ。」
「ふむ。……それじゃあ拓哉は後で説教かな。」
「ふぁ!?なんでや。」
「お前の理屈で言ったら今回のはお前が悪いんだろ?ほら、さっさと正座し「すいませんでしたぁッ!」……躊躇ねえな。」
いつも通り言いくるめられた俺はリンネさんの隣に正座──ではなく土下座をする。ふっ、これでも土下座の速度でギネス世界記録とってるからな!自信はあるぜ!
「……はぁ、まぁいいや。とりあえず皆生きてるだけ儲けもんとしよう。」
「よっしゃ!」
「……本気で命の危険を感じたわ。ねぇ、まさか貴方ってそっちの人なの?」
「どっちもいけなくはないが……正常だぞ。」
「そう、だったら失礼だったわね。」
──こうして、何とかリンネさんへの処罰は上手いこと免れたのであった。……まぁ夜中に智也に説教されたが。
———────────────────────
次の日、相変わらず早朝に叩き起されてしごかれた(周囲は止めたがしごかれに行った)俺は床で筋トレしていた。……暇だし傷は塞がってるから仕方ない。クソ痛いけど死ぬよかマシだ。
「……なぁ拓哉さん。何やってんの?」
「筋トレ、見てわからねえ?」
「……俺が聞きたいのは何でそんなことしてるのかってことだよ。」
「暇つぶししかねえだろ。図書館じゃ本借りれなかったんだし。」
「……そうかい。んじゃあ今から行くか。四十秒で支度しな。」
「おう。と言いたいが一つ疑問に答えてくれ。」
「なんだ?」
「……何で俺こんな自由に行動出来てるの?」
「今日退院だからな。」
「なるほど理解した。てっきりお前の事だから病院側の弱味握りまくって無理やり言うこと聞かせてたのかと思ったぜ。」
「おい待て何で俺はそんなやべえ奴認定されてるの?」
「……大体の面倒事にはお前が関わってるからな。」
「偏見っ!」
上裸だった俺は汗を拭きつつ、図書館に向かおうとしたのだが──
「……Hey智也。」
「何だ?答えられる範囲でなら答えてやる。」
図書館繋がりで思い出してしまった。地球でラノベを読んでいた時から気になっていた事をふと思い出してしまった。
「……『勇者』って何で『勇者』何だ?」
「すみません。よく分かりません。」
「いやさ?『勇者』は何をもって『勇者』ってなるのかなーって思った。」
「ふむ、それは考えたことがなかったな。」
「勇ましい者って書いて勇者って読むけどどうにも納得いかないんだよ。」
何なんだ?勇者って何なんだ?勇ましい者が勇者であるのなら、兵士達は全員勇者じゃないのか?
「……勇者とは勇者であるが故に勇者である。」
「考えるな、感じろってか?」
「違う。人の、人類の希望でありながら大のために小を切り捨てるクソ野郎の事を勇者と書いてあるな。世界の為と宣いながら真っ向から強大な相手に勝負を挑んで多くを失う。その場にいるだけで問題を引き寄せる。それが勇者だ。」
「……つまり世界の自浄装置、人類の拠り所、希望をその身に体現した者って解釈でおけ?」
「最初のやつ以外は正解。」
わざわざこんなくだらない疑問の為に『全知』を使ってくれた智ペディアさんマジリスペクトっす。
「……にしても中々辛辣じゃな。何でそんな辛辣なの?過去に勇者に親を殺されたの?」
「んなわけねえだろ。いつも何時もゲームしてると思うんだよ。何で鍵のある扉をぶっ壊さねえんだって。」
「……確かにな。」
「よし、準備は終わったな?行くぞ。」
「ちょ待て待て待て流石にダブルタスクは出来ねえから!」
──慌ただしく、平和な一日が今日も始まる。
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