第15話
宿をとった俺たちはそのまま自由行動となった…のはいいのだが。
目の前に見えるのは智也曰く『魔力』らしい。なんか煙みたいに智也の周りを渦巻いている。
──あ、また失敗した。こっちにまで飛んでくる大量の火の玉を可能な限り消しつつ、問う。
「…そろそろ質問いいかな。何してんの?」
「んー?新技開発と教育。」
「うんそれはわかるけどさ…いちいち失敗するたびに火の玉が飛んでくるような技って何なんだよ…」
「ドラゴンボールの界王拳のパクリ。なんで火の玉が飛ぶかは知らん。…いっそのこと制御しないで人間爆弾みたくしようかな。」
「改善しろよお前。というかお前なら原因追及で「めんどくさい。」人の話最後まで聞こうか?あと今のところは消せてるからいいけどさ…消せない量来たら宿が全焼するんだぞ…?とりあえず街の外でやっててくれないか?」
俺たちが今いるのは宿の庭。そこそこに広いため剣術の練習もできるのだが、まさかこんな危険な魔法を連発する客なんて誰もいなかっただろう。
「そうしたいのはやまやまなんだが…あの子が「感覚つかめた。」って言って聞かないから仕方ない。」
「そういえばそうだったな。…進捗はどんな感じ?」
「7割。無意識的に身体強化していたのが大きいかな。それに獣人てことで感覚が鋭いってのも大きい。──つーかあの子がやることやったらお前が地獄を見るんだろ?先に言っておく。ご愁傷様。」
「うるせえなんとか生き延びてやるぞ。俺は負けぬ。」
そう言いつつちらりとリンネさんを見ると手を伸ばして唸っている。その先には途切れ途切れながらも魔法の『式』──つまりは魔法陣が組み上がっている。
そのまま眺めること数分、唐突に拓也が口を開く。
「そう言えば言い忘れてたがあの子な。殆ど魔法への適性が無いんだわ。」
「ファっ!?それなのに教えるのか……さては貴様鬼畜の類か?」
「いんや、あくまで『殆ど』だからな。やろうと思えば使えるよ。つっても初級までだが。」
「なんで教えるん?瞬く間に氷塊細切れにするような人に必要か?」
「うーん…使える物は増やした方が良いからな。」
「なーるほど。……もうやり始めてから1時間程経過する故そろそろ準備運動しとくか。」
「そうしとけ。……おーい、そろそろ交代だぞー。」
「むぅ……あと少しで出来たはずなのに……」
「まぁ仕方ない。ゆっくりやれば良いよ。それはそれとして──」
「ヒャッハァ来いよリンネェッ!刀なんて捨ててかかっ──」
準備運動を終えて意気揚々と挑発をした瞬間、俺はいつの間にか空を見上げていた。背中には遅れて鈍い痛みが走り、持っていたはずの木剣が顔の横に刺さる。
「──遅すぎるわね。話にならないわ。」
「……拓哉さんや。何が起きたか解説いるか?」
「いや、何となく想像はできるから遠慮しとく。──それよりもう一回だ!とりあえず目標は反撃できるぐらいまでかな!」
「あら?今の貴方のスピードじゃ100年かかっても反応出来ないわよ?」
「やれるまでやればいいんだよっ!100年かかろうとも俺はやるぞっ!」
そのまま1時間、俺は一度も反撃できずに過ごすこととなった。
因みにあれでもまだ加減していた方というのを後から聞いて割と落ち込んだ。だがまぁ、天才相手に一朝一夕で勝てるわけがないからな。仕方ないが……後々伝えられたトレーニング内容はキツすぎるよ。オニイサンシンジャウ……
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「さーて、今日から頑張りますか。」
「ァァァ…行きたくないでおじゃるぅ…」
昨日ぶっ倒れるように眠り、日が昇る少し前に俺達野郎共は叩き起こされた。服装はジャージのような服装。智也いわく「過去に召喚された日本人が広めた。」だそうで。正直異世界でもジャージを着るなんて思いもしなかった。
そのまま軽く準備運動をしてから、俺達は全力疾走し始める。
とにかく走る。少しでも休もうものなら並走しているリンネさんにイチモツをぶっ叩かれるため、少しも休めない。既に2回叩かれてめっちゃ痛い。
──10分程経過して、足や手に鉛を流し込まれたかのように動けなくなる。心臓ははち切れんばかりに脈動し、喉が掠れ、口の中が異常なまでにネバネバして非常に辛い。因みに30分ワンセット、1日4セットはやる為まだまだ先は長い。
「ヴッ……」
後ろの方にいた智也からえづくような声が聞こえる。──ここまでスパルタな修行もそうそう無いと思いま──やっべえ俺も吐きそう。というか現在進行形で口から漏れてるわ。
──ワンセット終わる頃には俺達の体は人形のようになってしまった。全身から噴き出す汗と脈動し続けている欠陥がやばい……これをあと3セットはヤヴァイ……死んでまう…
「大丈夫よ。人間やれば出来るわ。」
「じ…………死ぬ……ヴェェェェッ。」
「まっだぐ…ここで吐くなヴェェェェッ」
「はぁ……良くこれで生きてこれわね。」
──異世界生活、予想以上にキッつい……
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