第13話
視点変更『神凪 拓哉』
「何?私がいたら悪い?」
目の前の
……確かに自分を襲った奴に「なんでここいるの?」って言われたら誰でもムカつくわな。少なくともその顔を殴ってやりたいレベルでは。
「ああいやそういう訳じゃないんだ。俺からの謝罪とかはしたはずだし……謝罪が足りないならいつでもどこでも土下座するけど。」
「そういう事じゃないのよ。ただ見舞いと謝罪に来ただけよ。」
「謝罪?何か変なことしてきたっけ?」
「──この世界にはこういう言い伝えがあるの。」
智也の疑問を華麗にスルーしつつ、彼女が語った『世界の言い伝え』はあまりにもクソッタレなものだった。要約するならば「白髪の獣人が生まれた時代は戦争とか疫病とかが多発した。だから白髪の獣人は生きる者に災いをもたらすから処分ねー」という醜悪極まるものだ。
「──え?完全にあんたとばっちりじゃん。というかそれと俺らに関係性が全く見えないんだけ──」
「だからっ、私が生きてるからあなた達が酷い目にあったのよっ!」
俺の疑問は彼女の悲痛な叫びに打ち消された。
真紅の目には大粒の涙。床にはほんの少し斑点が出来ている。
「私がっ……私はっ……!」
そこからは言葉にならず、ただただ泣き叫ぶだけだった。
──他人に拒絶され続け、世界からも拒絶された少女。その悪意は、一人ぼっちの小さな少女が背負うにはあまりにも重すぎるものだ。誰もが嫌悪の表情で己を見続け、誰からも必要とされない、その辛さはどれだけのものだろうか。
──脳裏によぎるのは一人の少年。
その少年が見ることが出来る世界の中で、否定をされ続け、耐えようとして遂には歪んで壊れた少年。
せめてその過去を、その傷を少しでも癒せる存在が必要だ。だから俺は──
「なぁリンネさん。……俺達と一緒に旅しないか?」
この子を救う、光になる事を決意した。
これは弱者の傷の舐め合いだと捉える人もいるだろう。だけど弱者には、人には理解者が必要だ。
世界の常識に苦しめられているならば、救えるのはそれを知らない別世界の人間か異端者だけだ。
少しでもこの子が笑えるように。心の底から──
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青い空の下、俺達は門の近くでリンネさんを待っていた。
「いやー、なんともお前らしいなー。」
「ん?いやね、機会があれば仲良くなりたいとは思っていたし、何より俺もそうだったからな。見過ごす訳にはいかん。」
「──ああ、そうだったな。悪いな。」
「別にいいさ。もうアイツらのことなぞどうでもいいし……こっちの宗教があれと同じってのは凄い嫌だけど元を殺せそうなんだ。だったらやるしか無いだろうが。」
「……つまり俺らはこの世界を旅しつつ、最終的に神を殺すのが目的って事か。」
「そうさな。ただまぁ手がかりらしいものが一つもないんだよなあ。というわけで智也さん。」
「どうしたよ?」
「ちょっとあなたの『祝福』で調べてくださると助かるかなーって思いましてね。」
「了解っと。発動『全知』」
智也が祝福を発動した瞬間、瞳の色が蒼く染まった。目から光は消え、ある一点を見つめたまま微動だにしなくなる。
「あー、はいはい。なーるほどなぁ。」
たっぷり10分、諦めたような表情をしつつ『全知』を解除した智也から告げられたのはある意味想定内の事だった。
「──無理だ。秘匿されてやがる。」
「おいおい……予想ないとはいえなぁ。『全知』とか随分と凄そうな名前付けといて知れないこともあるとか……」
「神関連とお前以外ならなんでも調べられるぞ。例えばそうだな……地球で俺らの扱いがどうなってるかとかさ。」
「ほぉ、それは興味深いが……なんで俺は除け者にされてるんだ?」
「神関連は秘匿、お前について調べると強制的に解除される。理由は知らんが……推測は出来る。聞くか?」
「一応お願いするよ。気になった事は納得いく説明がないと気がすまないんだ。」
「了解いたした。……多分だがお前の『力』が関係してる。仮に『異能』としておくが、恐らくお前の場合は『魔法、祝福の解除』が効果だろう。効果範囲はお前の体の延長線上、お前が持っていたり着てたりする物も付随してその力を内包すると思う。」
中二くさい単語がまーた湧きやがった。素面で言ってて恥ずかしくないのか?と言いたい気持ちを何とか心の奥底に押しやりつつ、俺はふと浮かび上がってきた疑問をぶつける。
「なーるほどなぁ。……でもだったらなんで魔法と祝福限定なんだ?それに『全知』でそれについて調べられなかったのか?」
「無理だった。というか『全知』の効果範囲は俺が来たことのある世界だけだから『異能』は全く別世界の概念だと思う。……お、ようやく来たな。」
「えまじ?……何処にいる?」
「あそこだよ。って人混みで見えんな。まぁすぐ来るさ。」
そのまま待つこと3分、我が天使たるリンネさんが御降臨なされたっ!……にしても随分と軽装だな。
腰のポーチと刀以外何も無いじゃないか。
……まぁ俺は智也の魔法に甘えて荷物持ってもらってるが。
「なによ。」
「いや、今から旅に行くのに随分と軽装だなーって。」
「何も持ってないあなた達に言われる筋合いは無いわ。……アイテムボックスって言ってね。この中に全部の荷物が入ってるのよ。」
「へーえ、それは便利だ。……んじゃ、そろそろ行きますかっ!」
──こうして、異世界に召喚された俺の物語はここから本格的に始まるのだった。
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