第8話

性女……ゲフンゲフン、聖女さんと別れた俺は露天商のおっちゃんに道を

聞いて『冒険者ギルド』なる場所に向かっている。

街は結構賑わっていて、正直方向感覚が狂っていそうでめっちゃ怖い。

──何とか人の波をかき分けて進むこと数分、いかにもな建物を見つけた。

これで自信満々に行って外れたらただのやばい奴だけどなんかクソごつい大剣担いだ奴とかローブを纏ってる奴とかがひっきりなしに出入りしているから多分正解だろう。……よっし、いい加減腹くくって行きますか。


西部劇とかにあるようなゲートではなく、普通のドアを開けるとドギツイ匂いが一気に俺の鼻腔を襲った。何というか、とにかく酒臭い。

そんなことを考えながらいくつかのカウンターの内、空いているカウンターに行くとなんともいかついおっさんが対応してくれた。


──見かけによらず、おっさんの説明はわかりやすかった。いや、高校の教師の比じゃないレベルで分かりやすかった。最後には肩叩いて応援してくれたし。

そんなおっさんが説明してくれた事をメモした紙を見る。


・冒険者のランクにはF~Sまであり、入ったばかりの俺はFランク。

・ランクは仕事の出来栄えで評価される。

・冒険者どうしでの殺し合いはやむを得ない場合以外は禁止。破れば一生謹地下行き。

・泊まる宿は『シャンパ』がお勧め。


……まじでいい人すぎる。確かに強面で近寄りがたい雰囲気があるけどただのいい人や。

そんな優しいおっちゃんに心の底から感謝をしつつ、向かった宿は以外にも空いていた。まあまだ昼過ぎたくらいだから当たり前か。

なんて思いながら無造作にドアを開けると──


異形の存在やべえバケモンがニコニコ顔で受付にいた。

ひとまずドアを閉め、再び開けても見えるのはバケモン。

……何というか、とにかくヤヴァイ。

フリフリのドレスに身を包んだシュワちゃん(髭もっさもさバージョン)を想像してもらえればわかりやすいだろう。しかも視線は完全に俺をロックオンしている。

──あかん、これ逃げたらターミネートされる奴だ。

意を決して中に踏み込むと、バケモンはめちゃんこいい笑顔で俺に近寄ってきた。


「あらぁ?見ない顔ねえ?いらっしゃい」

「え、あ、えと、あの……」

「泊まりに来たのねえ?何泊していく?」

「と、とりあえず一週間お願いします。」

「そお、だったら銀貨一枚ねえ。部屋は一階の奥ねえ。ハイ鍵。」

「あ、あはい。」


いい宿なんだけどキャラが濃すぎる。ぐう…


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翌朝、日本の食事に負けずとも劣らない食事を腹いっぱい食った俺は昨日の道をたどってギルドに来ていた。手には急いで作ってもらった弁当を携えて。

あんなゴリゴリのバケモンからあんな美味い飯が錬成されていると考えると少し複雑な気分になるが…まあいいや。とっとと依頼を受けますか。

──ギルドの中はスッカスカだった。

まあそうか。こんな朝早くから来る奇特な奴なんていないか。

なんて考えながら掲示板に向かい、よさげな依頼を受けて森に向かった。

なお、ラノベ特有のテンプレは全く無かった。あったらあったで逃げたけどさ。

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街を出てしばらく歩くと森に着いた。

今回受けた依頼は安定の薬草採集。流石に魔物討伐系統はやれないと思った故の判断だ。

見渡す限りの緑の中、俺はギルドで貰った薬草の写しを持ちながら腰をかがめて草を探していた。

…はたから見るとただのやばい奴だよな。一人森の中でぶつぶつ言いながら草を探す奴なんて。

仕事を終えた時には既に運動不足の体は悲鳴を上げていた。

なにせずっと腰をかがめていたんだから仕方ない。

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──そのまま何事もなくひと月が過ぎた。

俺にはラノベ主人公特有の吸引力の変わらないただ一つの呪いはかかっていないはずなので特に何事もなく過ごすことができた。

常人と違うところは、初めて魔物を殺したときに微塵も抵抗が無かったことぐらいかな。むしろあの感覚が忘れられなくて何体も標的であったウサギの魔物を狩ってしまった時にはあのおっちゃんに結構な心配をされた。

そして、ひと月も過ごせば多少なりとも評価は上がるもので、昨日にFランクからEランクに昇格することができた。

それと同時に装備も新調し、まともな鉄剣を買うことができた。幸いにもあのバケモン宿が親切だったため、そこそこの金をためることができていたのだ。

…まあ剣のせいでほとんど飛んで行ったんだけどもね!

そんなこんなで剣を早く使いたくてわくわくしながら宿を出た俺の耳に切羽詰まった警報が聞こえてきた。


「魔物の大群が押し寄せてきたぞーーーっ!冒険者は至急迎撃準備!他の奴は速やかに荷物をまとめて西の門に逃げろーーーっ!」


…どうやら買ったばかりの剣は一日もたたずに折れることになりそうだ。畜生がっ!

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