第7話
──異世界初土下座をかましてから1週間後、俺はシスターさん一行と旅をしていた。
そうなのだ。何故か一緒についていくことが認められたのだ。あのなんとも言えないような笑みは二度と忘れないだろう。元が美人ってのも大きいからだろうが。
旅をする中で意外だったのが、むさ苦しい騎士さんたち全員がめっちゃ優しいことだった。
何か出来ないところがあるとできるようになるまで懇切丁寧に教えてくれた。
魔法を用いない火の起こし方に動物の解体。挙句の果てには剣の振り方やらなんやらまで教えてくれるという企業顔負けの人材育成への手厚さだ。
道中で出てきたクマを剣で一刀両断した命の恩人たるモーニンさんがまじでイケメンだった。
……俺?その時は蹲って己の罪を方数えてたが?
とまあようやく異世界らしさが滲み出てきた俺の生活はある街に入ったことで一つの転機をむかえるのであった。
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「ここが目的地となる街です。」
この一週間でそこそこに仲良くなったかもしれないシャルロットさんが街を指さして言う。街の名前は『ミラム』というらしい。……正直街を指さして言われても城壁で囲まれてるから全く印象がわからん。
──暖かい陽気が大地を照らす中、最初に決めておくべきだったことを思い出した。
「……そういえばここからどうしようか。常識なし、金なし、運動能力も一般人未満だろう俺は何をすべきか。」
「どうしたんだ少年?」
うっかり独り言を呟いてしまった俺の声を聴いて御者台のモーニンさんが反応する。
「ああ、この先どうやって生きていこうか考えていたんですよ。」
「ふむ……だったら冒険者になるといい。本当なら君も『アーメ教国』に連れていきたいのだが…」
「いえいえ、命を助けてくれただけでもありがたいのにこれ以上贅沢は言えませんよ。」
「そうか…君が来てから聖女様にも笑顔が増えたんだが…仕方ない。それじゃあ最後のおせっかいを焼かさせてもらおうかな。」
「はあ。」
「…君には武芸に関する才能が人並み以上にはある。だからと言って決して慢心をしてはならない。慢心した時から人というものは腐っていくからね。」
「そうですか。…わかりました。いつか、この恩は返します。」
「いい心がけだ。…ほら、餞別だよ。」
「えっ、ありがとうございます!」
モーニンさんからずっしりとした重みがある革袋を渡される。中を確認するのはあまりにも無礼すぎるため確認したい衝動をこらえるがおそらく中には相当の額の金が入っているに違いない。
「…もう到着だね。聖女様、起きてください。」
「…むにゅう。はうああ。もう付きましたか。」
「ええ。…神凪さんともここでお別れです。」
「…………わかりました。神凪さん。こちらを。」
「……これは?」
「私からの餞別です。……あなたの旅路に幸多からんことを。」
そういって渡されたのは一振りの短剣だった。見るからに業物で、持ち手の部分には細かい装飾が施されている。……絶対高い奴だって。これもう恩返しきれないレベルなんだけども…どうしましょ。
「…ありがとうございます。たとえ何があろともこのご恩は忘れません。では、さようなら。」
「ええ。お気をつけて。」
馬車のドアを開けると視界に広がるのは懐かしいようで異なる喧噪。
──そのまま、俺は振り返ることなく人の波に身を投じていくのだった。
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視点変更『レティシア・シャルロット』
「……本当に、よかったんですか?あの少年と別れて。」
何を思ったか御者台のモーニンが私に問うてくる。
……正直なところ、いいわけがなかった。
諸事情で冒険者をやめた私は1年ほど前からこれまでの功績で貴族になったものの、とても本心から話せる人がいなかった。
どいつもこいつも口を開けば金だ名誉だ、対して優れてもない自分の自慢ばかり。
正直言って貴族は吐き気を催す邪悪しかいない。そのうえ、成り上がってきた私に対しての陰口に何度も顔を顰めそうになったが、これまでの生活で培ってきた愛想笑いで何とか隠してきた。
あちらさんが変に私を取り込もうとしてきた時には持ち前の祝福である『未来視』で常に危機を避けてきた。
──そんな中出会った不思議な少年。
どんな時でも如何なる傷を治してきた私の魔法が全く効かなかった。
それだけでなく時たま体をくっつけるなどの色仕掛けを仕掛けても効果らしい効果が無かった。
その上、気難しい私の騎士たちともすぐに仲良くなったのだ。……私は仲良くなるのにひと月はかかったのに。
そして今、その少年と別れた。
私の心に一時の安寧をくれた不思議な人。
せめて、最後にあの人の行く末を見てみたい。
そう思った私は、これまで通り誰にも知られないように祝福を使うのだが──
──『未来視』が効かない。
確認のためにモーニンを見ても、無数の枝分かれした未来を見ることが出来る。
そしてそのまま神凪さんを見ようとしても、そのまま弾かれる。
──それから3回ほど挑戦しても結果は変わらなかった。
「どうして?」と言いたくなる気持ちを何とか抑えつつ、私は思考を続ける。それでも、全く結論が見えない。
私の未来視で未来が見えない、という事は「彼の未来は確定していない」という事になる。
…つまり彼は、神凪さんだけは唯一神に縛られていない存在なの?
ダメだ。私には全く分からない。けれど、あの人の人生に幸多からん事を。
私は去っていく彼の姿を思いながら、ただ祈る事しか出来なかった。
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