第6話

「ううむ。俺が何者か、ねえ。…んじゃ質問だ。あんたらは『勇者』って知ってるか?」

「ええ、もちろん。太古の時代、世界が魔王によって支配されかけていた時に人類を救った英雄のことですよね?」

「──ん、ああ。そうだね。」


へえ、ここら辺は大体ラノベとかと一緒なのな。…ここからの感覚がどうなってるかはわからんが聞いてみるか。


「──俺がその一人、だと言ったら?」


瞬間、馬車の中の空気がぴりつく。騎士の顔はこわばり、シスターさんの表情は剣呑なものになる。…え?なんか地雷ぶち抜いちゃった?


「っ、あり得ません。かの大戦からはすでに数百年が過ぎています!数百年も生きる人なんて……」


……なるほど。あの言い方だと俺が数百年前の人間ってニュアンスになるか。そりゃおかしくなるわな。


「ああ、ごめん。言い方が悪かったか。正確に言うと俺はそんな遠い昔の人じゃない。昨日か一昨日に召喚されたんだ。」

「それはもっとあり得ません。今の平和となった状況で召喚をするなんて「これから戦争をします」と言ってるのと同じです!」

「……まあ、事実だけど別に信じなくてもいいよ。俺にそれを証明する手段はないし、元居た国のことを語ってもただの頭がおかしい奴って扱いになるし。……ええっと、二つ目の質問ってなんだっけ?」

「あなたの力のことです。」

「そっか。……実のところを言うと全くわからないっていうのが現状かな。もともと王城にいたけど『覚醒の儀式』なるもので水晶に触れたらさっきみたく光の粒子、いや破片が舞ったんだ。…確認なんだけど『覚醒の儀式』ってこの世界じゃメジャーなものなの?」

「……そうですね。少なくともこの国では10歳の時にすべての人が教会で受けます。水晶には眠っている才能を文字にする『鑑定』と呼ばれる魔法がかかっています。……また、神に愛されている人ならそこに『祝福』という力も表示されますが…基本的に祝福を持っている人はいませんね。私が知っている中で祝福を保有しているのは冒険者ギルド内で最高ランクであるSランクの人しか知りません。」

「なる程…あっちで聞いた話と色々齟齬があるけど、まあいいや。……そうだ、最後に一つってこれさっきも言ったか。」

「いいですよ。気になることは答えられる範囲でなら答えますから。」

「…んじゃ遠慮なく。この国って宗教の自由は保障されているかな?」

「一応は。ですが『デミス教』以外を信仰していると知られるとあまりいい顔はされませんね。」

「いろいろありがとう。…それはそれとしてそろそろ替えの服をくれませんかね?いい加減寒くて辛いんですがっ。」

「ああっ、すいません忘れてました!」


借りた服を着ながら、俺はここから先のことを考えるとともにとてつもない後悔に襲われていた。

なんとも間抜けなことに、俺は恩人たちの行き先を聞いていなかったんだから。

というかそもそも現状俺はこの人らに借金しているよな?その分働いて返そうにも一人でこの森を抜けるのは物資的に無理だし俺は武術とかをやった経験が学校の授業ぐらいでしかやったことが無い。

それに加えて常識に疎すぎ、この世界の人間でない俺はそもそも働けない可能性がとてつもなく高い。貰った(?)金はフライアウェイした時に流されたっぽいのもまた…

…………よし、あまりにもクズ過ぎるけど一番の最善策があった。

正直良心が痛むしどこまでも顰蹙ひんしゅくを買うだろうからやりたくはないけど仕方ない。

着替え終わった俺は丁度話し合いが終わったであろうシスターさんに話しかける。


「あのー、すいません。」

「はい?どうかしましたか?」

「いえ、あの…ですね。」


男神凪、覚悟を見せる時だ!と心の中で自分を奮い立たせた俺は友人曰く「流れるような」動きで己の五体を投地して、叫ぶ。


「どうかっ、どうかあなたたちと一緒に行かせてくださいお願いします!」


つまりは土下座で寄生宣言である。正直断られても仕方がない。

……この沈黙がとてつもなく辛い。半ば空気だった騎士さんからの(おそらく)ごみを見るような視線が刺さりまくって痛いが、耐えねばならない。生きるためだ、なんだってしてやるさ。

──体感で1分が経過したころ、シスターさんが俺の運命を決定づける返答をする。




「ええ、いいですよ。」

「ありがとうございまあああああすっ!!!!!!!」


──このくそったれな世界で、初めての救いがここにはいた。

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