第5話

視点変更『レティシア・シャルロット』


「『再生』っ!……これも効かないなんて。ポーションありったけ掛けて!急いで!」


モーニンが血相を変えて運んできた少年は何から何までおかしかった。

辛うじて息はあるものの出血量が多すぎて未だ予断を許さない状況なのに、頼みの綱である回復魔法が効かない。とっておきの再生魔法も同様に光の破片となって弾かれてしまう。

馬車に積んであるポーションで何とか対応してはいるものの……

しかも持ち物に旅に必須の水筒どころか地図も持っていないのだ。武器や防具の類もないのに、服に使われている生地は最高級のもの。それなのに髪はぼさぼさで、とても貴族には見えない。

それに加えて、私の祝福である『未来視』に引っかからなかった。これまでこの祝福で一度たりとも外れなかった未来が初めて外れたのだ。

おかしい。この少年は何かが異質だ。けれど手は尽くさなければ。たとえ、それがすべて無駄になったとしても……


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視点変更『神凪 拓哉』


「……んん?はふぅ……ここどこだ?」


目が覚めると知らない天井が視界に広がった。

まじでどこだここ。最後の記憶は丁度木の下で俯いた時で終わってるんだが……しかも割と見てられないレベルで折れてた左腕も元通りだし、まじで状況が呑み込めねえ。

おまけに寝かされていたベッドには金髪のシスターが突っ伏していた。

……頭おかしくなりそう。

そんなこんなで痛くなってきた頭を押さえながら悶えていると、突っ伏していたシスターが起き上がった。


「むにゃあ…はうう………あ。」


なにこのかわいい生き物。とか思って和んでいたら俺の顔見てフリーズしやがった。一体何なんだこいつ。


「やったああ!起きた!起きた!」


謎のシスターは俺が起きているのを見て、飛び跳ねて全身で喜びを表現していた。全く意味が分からずに呆けているとドアが開いて4人の騎士が流れ込んできた。全員がおっさんでとてつもなくむさくるしくなったしうるさくもなったがとりあえず落ち着いて情報を集めるか。罠という可能性もあるから慎重にいかねば……


「あー、あー。この言葉わかりますか?」

「はっはい!なんでしょう?」

「よかった、通じた。……んじゃまず最初に、あなた方は誰で、何の目的で俺を助けたんですか?」

「私の名前は『レティシア・シャルロット』巷では『聖女』なんて呼ばれてますがどこにでも居るシスターです。後ろに控えている人たちが右から『モーリス』『ジーク』『グラント・モーニン』『ヴァルク・クロス』です。……あなたを助けた目的はありません。強いて言うなら困ってる人を見過ごせなかったんです。」

「なる程…ああ、そうだ。俺の名前は『神凪 拓哉』だ。よろしく。」


手を差し出すとしっかりと握手し返してくれた。

…うーむ。修道服というゆったりした服装からシスターというのは分かったが…胸にある大山脈で『聖女』とか無理があるだろ。どっちかと言うと『性女』じゃないのか…?

そんなくだらないことを考えつつ、俺は現状に対しての質問を続ける。


「二つ目、なんで俺は裸なんですかねえ?」


そう、今現在俺はマッパなのである。考えてもみてほしい。森の中で寝落ちして目が覚めたらマッパで見知らぬ人たちに保護(?)されている状況を。まじで思考がフリーズしてもおかしくないのに情報収集を欠かさない俺を褒めてほしいものだ。


「ええっと…全身に擦り傷や打撲なとがあったのでポーションを掛けて治療したんです。本当は魔法で直ぐのはずだったんですが何故か魔法が効かなくて…すいません。」

「ああ、いえ。助けてくださっただけでもありがたいので顔を上げてください。…それじゃあ最後の質問です。ここはどこですか?」

「…ここはニュズナ王国とアルマ共和国との間にある『大森林』と呼ばれるところです。ここから上流に向かえばニュズナ、下流に行けばアルマとなっています。」

「へえ。なるほど。…ありがとうございます。」

「それでは私から質問しても…「いいですよ」ありがとうございます。」


シャルロットさんの纏っていた雰囲気が一瞬でぽわぽわしたものから鋭いものに変化した。そしてある意味聞かれたくなかったことを聞かれてしまった。


「神凪さん、あなたは何者でどこから来ましたか?…そして、あの力はいったいなんなんですか?確かに魔法を分解する技術はありますが、意識を失っている間も魔法を消す人なんていません。あり得ません。…あなたは何者なんですか?」

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