第2話

翌日、友人に叩き起こされた俺は寝起きで霞む視界に苦労しながら食堂に向かった。食堂でスクランブルエッグをパンに乗せて頬張っているとなんか偉そうなおっさんが俺達に今日の予定を伝えてきた。…『覚醒の儀式』とかいう聞いてるだけで恥ずかしくなるようなことをした後、それぞれの力を活かすことができる場所で鍛えるんだとか。


覚醒の儀式によって人々は『スキル』なる力を得ることができるらしい。

それならわざわざ異世界から俺たちを拉致する必要性は全く無いように思えるがどうやら異世界人にはスキルの他に『祝福』とよばれるこの世界の唯一審──『デミス』様からの贈り物が送られるらしい。

その力は人間の生存領域を侵略している『魔王』なる奴に対して絶大な力を発揮する──つまるところ俺達の中の誰かは魔王を殺せる素質を持っているらしい。

国の5つ6つが犠牲になることを覚悟すれば魔王は殺せるらしいが…時が経つとまた魔王は復活するらしい。

…このことを知ってるってことはこいつら初犯じゃないな。

これまで何人を拉致したのか問い詰めたいがどうせ流されるだろうし証拠もないからどうしようもない。


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ところ変わって大広間──つまりは昨日俺たちが召喚された場所に手のひら大の水晶と金属でできた板があった。


「今からあなた方にはこちらの水晶に触れ、秘めている才能を確認してもらいます。そうですね…まずあなたからお願いします。」


最初の生贄は確か生徒会長の『浅倉 勇人』となった。

学校では結構な有名人だったな。品行方正、文武両道を地で行くからなんか女子共が「優良物件」とか言ってたけども…果たしてどうなることやら。


彼が水晶に手を置いてから数秒後、はちゃめちゃに水晶が光りだした。

暗い部屋の中で急に懐中電灯を向けられた時のような光が部屋を包み込んで──


パリンッ!


太陽の如き明るさを放っていた水晶が割れ、光が収まった。

周囲からは歓声と驚嘆の叫び声。

姫さんが妙に解説的な口調で彼を褒めたたえる。


「まさか…歴代の『勇者』の祝福を受けた者でもこの水晶が割れるなんてことはなかったのに…それに魔法適正もずば抜けて…」


後々知ることになるのだが一般的な人の場合水晶にそれぞれの持つ属性ごとの光が光るらしい。召喚された勇者を除いた国の最高戦力──つまりは宮廷魔法士とか人外であるSランクの冒険者でもせいぜい水晶全体に光が満ちるくらいらしい。

なんかすごいなーと思ってはいるけれどまさか異世界でリアルにバルスされるとは思ってもなかった。まじで目がちかちかして辛い…


その後も一人ずつ呼ばれては水晶に手を当て、一喜一憂するという光景を39人分見せられた。呼ばれる順番はランダムだった。あと、水晶が割れる、なんてことはもうなかった。唯一わが友がヒビ入れたのにはビビったけど。


「最後はあなたですね。」


呼ばれた俺はなるべく普段通りの動きで水晶の前に向かう。流石に40人に見られた状態では胃にくるものがあるが、なるべく気にしていない体を装いながら歩く。

途中で友──『片本 智也』と視線が交錯──あいつッ!自分が傍観者なのをいいことに笑ってやがるッ!


緊張のせいか水晶までがとてつもなく長く感じたが気を取り直して水晶に手を置くと──


パキィンッ!


流れ的に俺も水晶が割れるくらいのチートな才能が明かされるとでも思っただろ?

──残念!水晶は割れなかったし他の同級生みたくめちゃんこ光ったわけでもない


「馬鹿な…もう一つ別のものを持ってきてください!」


すぐに焦燥が感じられる声音で姫さんがメイドさんに命じる。

周囲からは動揺と好機の眼差し。俺は見世物じゃねえぞ!と叫びたくなるのをすんでのところで抑えつつ待つこと数分、新しく持ってきてもらった水晶に手を置くと──


パキィン!


また水晶から光の破片が飛び散った。別に俺は怪力ってわけでも水晶が柔らかいってわけでもない。事実、俺の手の中にあるのは石特有の硬さ。



そうしてなんやかんやあって俺は城を、勇者軍団から追放された。

何があったかは想像に難くないしここから何が起きるのか俺の頭でも容易に想像できてしまう。…なーんで新天地だひゃっほう!と思った翌日にこんなことになるのかねえ。

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数少ない友人の拓哉が追放されてから小一時間、俺は未だに現実を受け入れられないでいた。あいつが城から追い出される瞬間、王女様の目に見えた深淵も同時に頭に焼き付いている。


「ああっもう!なんであいつが!」


ぐちゃぐちゃになっていく思考は衝動を生み、俺はうっかり片づけられていなかった水晶に触れてしまった。手に伝わる冷えた感触がノータイムで俺の頭を冷やす。


「ッ!…あせったあ。」


水晶から手を離したとき、なにかとてつもない違和感がこみ上げる。…なんだ?何かがおかしいぞ?

不安になりながらも再び水晶に触れると──



水晶が


「なんでだ…?」


釈然としない気持ちと新たに芽生えた疑問を抱えながら俺はその日を過ごすのだった。

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