From Never Young Beach

Bei Dao

第1話 「明るい未来」

春といっても夜になると風が少し冷たい。帰宅後、シャワーを浴び終わっても君はまだ寒いと言って、僕の厚手のパーカーに袖を通した。2人でくたびれたソファに座るが、君は暖をとるために僕の方へと体を寄せる。大きめの毛布を半分こしながら、テレビで古い名作映画を観る。何がすごいのかわからないと不満そうに聞いてくるので僕は一生懸命説明するのに、君はそっちのけで眠たそうに肩に寄りかかる。もう寝ようかといえばまだ観たいと駄々をこねる。どっちかにしなよと口にしながらも、緩やかに流れるこの時間も悪くないと思う。どうせ明日の朝にはどんな結末だったかを聞いてくるに違いない。聞いたところで君は納得しなそうだ。それなのにまた、やっぱり前にも見たことあるなどと言い出すのだろう。

映画も終盤に差し掛かり、肩の方から小さく聴こえてくる寝息に釣られて眠りそうになるが、君の寝顔を見ていたい好奇心で起きていられた。このことをもし言ってしまうと君の機嫌を損ねてしまいそうだ。そうなると僕はとりあえず謝ってしまいそうな気がした。

あまりに大きくない部屋の隅に置かれた、小さな四角の中でエンドロールが流れ出す。終わったよ、寝ようかと声をかけたが、君は寝ぼけながらうん…と答えるだけだった。テレビを消して自然とつないでいた手を優しく引っ張って立たせる。お姫様抱っこできるぐらいの筋力が欲しかったなぁなんて思ったが、僕もありきたりなロマンチストの一人であることを自覚し少し恥ずかしくなる。明らかにぶかぶかで毛羽立ったパーカーも、こうやってみると悪くない。しかしその格好をみるのは僕だけでいいと思った。同時に、未だに僕にも独り占めしたいという感情があることを知って驚いた。

君をベッドに寝かせ、僕も隣で横になり布団をそっとかける。僕のと違ってサラサラな髪を優しく触る。暖かな感情が溢れ出しそうになった。

「愛している」

消え入りそうな声で君の寝顔を見つめながら囁いた。唇が動いただけに近いかもしれない。これだけじゃ足りないような気がしたのでそっと起こさないように抱きしめた。

いつまでも君のそばにいる未来。君との未来を考えるだけで心が明るく透き通っていく。何となく思い立ち、ベッド近くのカーテンを少し開けて夜空を見てみた。冬に比べればだいぶ星の数が減った様に思える。今年は夏の大三角を学生時代ぶりに2人で見に行ってもいいかもしれない。その頃には君もこのパーカーを着なくても出歩けるかもしれないだろう。

これからも「寒いね」と「暑いね」を互いに口しながら季節を2人で、あるいは僕らの子供の手を引っ張りながら巡っていきたい。あくびをしながらも、朝起きたらおはようと君に最初に言える幸せを噛み締める。僕が最後におやすみを言う相手もずっと君であって欲しい。出会った頃から変わらず思い描いている明るい未来の話はここまでにしよう。静かな夜の中、僕も眠りについた。


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