第3話

「それにしてもやはり悪いことをしましたの。正直すこし神経質になってた上、引くに引けなくなっていましたの」


 冷静さを取り戻したひーちゃんは流石に自分の言動が常軌を逸していたということに気づいたようで次は芝居がかった動きもなく素直な謝罪をする。男も謝罪を素直に受け入れ。自分の過ぎた言葉を謝罪した。さてと、と言って話を新しくする


「君たちは何してたん? あと、さすがにひーちゃんきーちゃんって呼ぶのに抵抗あるから、苗字だけでも良いから教えてくれない?」

「わ、私は葛城京子です。み、苗字は苦手だから、京子でいいよ。本名は出してないから、ね、ネットに出さないでね」

「私は新子陽菜。で、私たちはコスプレの撮影をしてましたの。夏コミ用の」

「こす、、、ぷれ?」


男の耳が普段全く拾うことのない音を反復した。


「この人マジで現代人ですの?」

「いや、コスプレ自体は知ってるよ。けど間近でやってる人を見たことないから少し日本語に変換するのに時間がかかった」

「た、確かに誰でもやっているって趣味ではないからね。」


麻衣がフォローを入れたところで


「そしてこのきーちゃん! SNSで10万人のフォロワーを持つ日本トップコスプレイヤーですの!!」


 陽菜が思いっきりテンションをぶち上げて、ババーンという効果音が聞こえてきそうな紹介をした


「フォロワー10万ってヤバくね?」

「そうですの!ヤバイですの!やっぱりきーちゃんのえっちぃさには誰も敵いませんの!」

「え、えっちぃさは本当にやめてくれないかな」

「何言ってますの。こんなおっぱいをSNSに晒しといてえっちくないは無いですの!むっつりですの!!」

「む、むっつり」


 そして自分の胸に一度目を落とし


「む、むっつり違うよ!!」


 と男に顔を赤くしながら言い放った


「いや、そんなこと言われましても。」


「ストーカーとか言ってたけどそれって?」


 そのころになると男も少しなれて普通に質問をなげた。これに関しては単純な疑問だった


「実のところ私がここまで神経質になっていたのもそれですの。きーちゃんこんな感じですので普段は表に出て活動しないSNS専門のコスプレイヤーなのですが私の不注意でリアルタイムで場所が特定できる写真を載せてしまいまして。そこから、、、本当にごめんなさいですの」


 おそらく既に謝り尽くしているのだろうが、それでも謝り足りないようで視線を下に移しきーちゃんに誤った。彼女自身謝ったところで事態の解決には向かわないと知りながらも謝らなくてはやっていけなのだろう。そんな心中察してか


「あ、謝らないでひーちゃん私もちゃんと確認していなかったから。」

 

とすぐにきーちゃんはそれを打ち消した。


「心当たりは?」

「あ、あるにはあるんだけどね」


 そういいながら表情を曇らす。そうの言葉にひーちゃんは連動しながらスマホをスクロールした。「顔は分かりませんけど。この人ですのね」と言いながらスマホの画面を男につきだした。


「うわあ」


 そこには筆舌に尽くしたがい、中々エッジのきいたコメントが残されていた。その言葉はネットリとしていてかつ絶妙に気持ち悪く、そして周りに威嚇までしているそれはそれは気の利いた文章になっていた


「これは?」

「私ときーちゃんが共同管理している、きーちゃんのコス垢の過激ファンですの。きーちゃんが表に出ていないということもあってファンたちも基本的に大人しいかたばかりなのですけど、これだけ母数が多いと正直変な人も一定数いまして」

「こ、この人はその代表格なんだよね。も、もともとは知名度がいまより全然低いときから応援してくれていた人ではあるんだけど、、、ここ数年発言が過激になって。さ、最近私のプライベートの行動まで把握して呟いているんだよ」

「所謂ガチ恋勢ですの」


 ガチ恋勢の意味をよく知らない男がそれを顔に表すと、すぐにひーちゃんは、アイドルや俳優など手の届かない人にファン心理から本当に恋してしまうことだと分かりやすく補足をいれてくれた。


「あーそういう人のことをガチ恋っていうんだ。やっぱり何か面倒な発言は」


 ここまで話すと少し焦りながら

「べ、別にガチ恋の人が全員悪いってわけじゃないんだよ? け、けどやっぱり比較してしまうと」

「正直、面倒な言動を繰り返す比率は高いですの。」

「警察には?」

「私は行けって言ってますの。けどきーちゃんが」

「・・・・こ、こんな格好してSNSに画像上げているからね。しょ、正直少し行きづらいんだよ」


 なるほどと男は一言呟く、確かに行きづらい気持ちも分からなくも無かった。今だって水着の撮影をしていたのだからそれを少しSNSにあげる事だってあるだろう。そうしたら今ストーカー被害で警察に行ったところで、叱責はされなくとも少しのあいだ活動を控える様に言われることは容易に想像できる。控えめな彼女の趣味がこれならそれを制限されたくは無いのだろう。


「こ、怖くないって言ったら嘘になるんだけどね」

「誰か彼氏的な人は? やっぱり男が一人いるだけで対策にはなるんじゃない?」

 

すると今度は麻衣が胸を張って言う


「こ、この性格を見て言ってほしいな」


 そして陽菜がかけていないメガネをあげる仕草をし


「といいますが私のお眼鏡にかないませんときーちゃんの彼氏なんて認めませんの」


 小姑かコイツは。


「あ、あと男性と歩いていてやっぱり逆上とかは怖いからね。出来る限る移動はタクシーとかを使うようにしているよ」


一応彼女も対策を考えているようでそれを話してくれた。


「って言ってもきーちゃん一人暮らしですし、正直コンビニとかにも気軽に行けないので、それもそろそろ限界ですの」

「誰か強い女の子か女にしか見えない男がいればいいのにね」



 この言葉を吐いたことを男は直後深い深い後悔をすることになる

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