第4話 変身


「では基礎からやっていきますの。」

「やっていきます。」

「ここまで来たらやけくそだから、好きなようにやってくれ」


 二人の朗らかな声に対して男は全てを諦めた声でうなだれた。さっきの言葉を吐いてすぐ、麻衣は陽菜の耳元に呟いた。それを聞いて陽菜が男の顔を見てにやりと笑った。

 楽しそうに男に化粧を始めた二人。化粧水で肌に水分を持たせベースメイクを施していく。とても嬉しそうにキャッキャと顔にアイラインやパウダーを振りかける。

 その声は本当に楽しそうだった途中まで。そうあくまで途中まで。

 男が異変に気づいたのは無言になってしばらくしてからだった。さっきまで少なくなっていた会話はその時には完全に止まっていた。あんなに嬉しそうだった顔も笑顔が消えて完全に無表情になっていた。後から聞いた話によると真剣になって互いに無言になったらしい。化粧を初めて25分後


「「うっわぁ、、、、」」

「メイク施した私が言うのもアレなのですが30分もかからず、やっべぇのが出来上がりましたの。」

「こ、これは確かに。や、やっべぇね」


 いつしか無表情どころか男の目の前で戦慄顔になっていた二人が静かに呟く


「え、ちょっとこれどうなってるの?」

「いや、思ってた100倍やっべえのが出来上がりましたの」

「華奢な女性顔だなぁって思ってたけど。。は、肌もほっそりしているなあとかも思っていたけど。ま、まさかこんなのが完成するとは」

「え? なに?本当にメイクしただけだよね」

「メイクは顔面お絵描きとは私も重々承知ですの。ですが、ですが」

「こ、これは女としての、じ、自信がなくなるね」


 もともとある訳じゃないけどとボソリと呟いた。そして自分の顔をペタペタと触る男に陽菜が鏡を取り出し男に向かって開いた。鏡の向こう側に写るのはそこらの女優には間違いなく負けない超美人だった。


「・・・・・・・・・・ゴクッ」


 男はその瞬時に必死でいくつも予測をを立ててソッと男は自分の頬に手を置いた。すると鏡の向こうの美女の頬にも同じ動作で手が置かれた。


「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「す、凄いね!ひーちゃん!この人声まで高くなってるよ!」


 ここに来て今までにないテンションでガッツポーズをした


「こんな原石、きーちゃん以来の衝撃ですの」

「なにこれ? なにこれ? なにこれ? なにこれ?」


 女の、いや、男の顔はそれはそれは美しく整えられ顔はアルコールが入ってるせいか、少し上気し赤らんでいた。控え目に言ってエロいエロい。その顔はここまでミラクルな状況じゃなければ男は欲情していただろう。いや男であればどんな人でも欲情してしまいそうな、異常な整い方だった。


「ハスキーな女性で全然通りますの」

「わ、私もう、わくわくが、押さえられないよ!!」

「ですの」

「ど、どんなコスプレさせよう」

「このポテンシャルならメイクを変えるだけで割とどんなキャラでも長身設定なら作れますの。」

「せ、潜在能力ならピカイチだね」

「謎のコスプレイヤーきーちゃん初の合わせがまたしても謎の長身美人。しかも全私のプロデュース・・・・滾りますの。」

「す、凄い熱意だね! ひーちゃん」


 最初ボディーガード的な話だったところからなぜかコスプレする話になっていることに気づかない程現実を受け止めることが出来ずショックを受け続ける男と、テンション爆アゲの二人


「え?なにこれ?どうなってんねん。え?なにこれ?」


 そう言いながら自分の顔をペタペタさわりショックを受け続けている男の前に、陽菜が仁王立ちで立ちふさがった


「認めたくはないかも知れませんが」

「やめて言わないで」

「あなたは超美人ですの」

「ほんとやめて」

「生まれる性別間違いなく間違えましたの!!」

「殺してくれぇ。もういいよ。社会的にもでもいいよ。警察呼んでくれ」

「ダメですの。あなたはきーちゃんの相方の・・・・あれ?」

「なんだよぉ!!」

「私失念しておりましたの。私たちは名乗っておきながら、あなたの名前をしりません。」

「嫌だ教えない」

「何をぶーたれてますの?」

「や、やばいね! ひーちゃん!  ぶーたれてるのですら涙目の美人が砂浜でだだ捏ねてる様に見えて、た、ただただ可愛いね!! こ、これは理性押さえるのに必死だよ!!」

「きーちゃんのこんなテンション初めて見ましたの」

「もういいよ。勝手にしてくれ。」


 そう言って男は財布を投げら少女たちは躊躇なく免許を確認する。


「生方郁人さんですか。」

「い、いーちゃんで決定だね! ひーちゃん」

 

 テンションがんギマりの二人を前に男はオロオロと泣きだしそうになっていた。もともと食べても太らない体質の彼は、その体型がコンプレックスでもあった。  ひょろいや、痩せた杉やら言われ続けていた。顔もそれに習い、やはり色白のほっそりとした顔立ちで、血色はよろしくなく、生気が感じられないとまで言われていたのだ。

 それが極まって今じゃ化粧で超美人。とうとう生まれた性別が間違ったとまで言われた今泣かなくていつ泣くんだ。というわけで、男はおいおいと涙を


「な、泣いちゃダメだよ!!! 化粧が崩れるから!! コスプレする女の子は泣いちゃダメなの!! 魔法が解ける!!」

「は、はい」


 誰がコスプレする女の子? と思った男だったがその最初とのギャップに素直に返事をし涙は同時に素直に引っ込んだ。どうやらギャップに驚いたのは彼女だけじゃないようでひーちゃんも


「こんな目まぐるしく表情が変わるきーちゃん初めて見ましたの」


と目を真ん丸にして驚いていた。

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