第10話暇な日曜日の過ごし方

 う、情報量が多すぎて頭が痛い。あの夢は俺の死ぬ前の記憶だとは思うけれどわからないことが多い。まず修行相手の女だ。容姿端麗でどことなく気品を感じた。ただ読み取れたのはそれだけで、名前も一緒に過ごした思い出も何もかも思い出せない。修行に付き合ってもらっていたところからそれなりに親しい関係だと思う。だからもしこいつを見つけることができたなら俺のことを知るのも難しくないはずだ。今は名前がわからないからこの女のことを修女と呼ぶことにしよう。

 次に俺の名前だ。なにかノイズが走ったような感じで聞き取ることが出来なかった。様をつけて修女は読んでいたがそんな身分の高い存在だとは思えない。きっと部活に変なルールがあったのだろう。修女と俺が中二病だった可能性もあるけど・・・

 今のところ最後の謎はこれ、「あの方」だ。どんな奴なんだろう?いや、奴と呼ぶのは良くないのかもしれない。死ぬ前の俺が神のように敬っていたようだからな。まぁ「あの方」をどうとらえるかの問題はおいといてだ。もちろん名前、姿、性別すらわからない。わかるのは同級生であるということと剣道をやっているということだけである。そんな情報で人が探せるならだれも苦労しないのだ。

「はぁぁ。」

「どうしたのつむくん?朝からため息ついて。」

「いや、ちょっとね。」

「なにか嫌な夢でも見たの?」

 そういって俺の布団に入って来て抱きつく。柔らかい・・・意識が持っていかれそうだ・・・って母親の体に何を感じているんだ。暖かさと柔らかさは名残惜しいけど離れよう。

「ちょっと変な夢を見ただけだけだから。」

「そうなの?ならいいわ。今日はお母さん仕事に行かなきゃいけないからちょっと早いけれど起きて朝ごはんにしましょ。」

「うん。」

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「じゃあお母さん行ってくるから。」

「はーい。」

「一人で遠くに行ったりしないでね。」

「はーい。いってらっしゃーい。」

「いってきまーす。」

 ガチャ。

 さて、今日はどうしようか。行きたいとこもやりたいことも特にないからなぁ・・・適当にランニングでもするか。

 ガチャ。

 とりあえず川にでも~

「あんた今からどこ行くの?」

「うわ、か、楓詩。」

「で、どこいくの?」

「え、あぁ。川に行こうかな~て。」

「ふ~ん。一人で?」

「走りたいからね。一人の方がいいでしょ。」

「おばさんはそれ聞いてるの?」

「う、うん。」

「噓つき。そんなことおばさんが許すわけないじゃでしょ。」

グハ。見抜かれた。どうしよう。まぁ何か考えがあるかというとないのだけれどもね。

「いや、でもただのランニングだよ?」

「あんた近場でもすぐに迷うじゃない。」

 そ、そうなのか。俺は方向音痴だったのか。なるほど。母親が一人で出かけるのを止めてきたのにはそんな理由もあったのか。じゃあ問題は今の俺は方向音痴ではないという証明をどうするかだよなぁ。あ、そうだ。こいつに証明してもらおう。

「じゃあさ、楓詩。今日一日俺についてきてくれない?」

「え?どういうこと?」

 なんか動揺してるけどデートの誘いかなんかと勘違いしてるのか?

「いやさ、俺もいい加減一人で動きたいからさ、方向音痴がなおったという照明をしたくてね。」

「えぇ、それはわかってるけど・・・」

ん?

「きょ、今日じゃなきゃダメ?」

「あ、今日なんかあるの?」

「うん。ちょっとね。お母さんとおでかけしなきゃいけないの」

そうか、案外こいつ断るのはそこまで得意ではないようだな。まぁ、俺が何かを頼んだのが久しぶりだったからかもしれない。まあなんにせよ今日は家でぼんやりしとくか。

「そっか。ごめんね。」

「あんたが謝ることじゃないわよ。」

「ははは。じゃあね。」

「またね。」

__________________

う~~~ん。暇だ。あれから読書したり勉強したりしているけど時間は全然つぶせない。どうしよっかなー。

ピンポーン

ん?誰だ?宅配便か?

ガチャ。

「え、花芽李ちゃん?」

「チワ-ス。」

「え?なんで?」

「マンションの場所はわかってたからね。あとはしらみつぶしに探しただけだよ。」

「その探し方やめたほうがいいと思うよ・・・」

「ふふふふ、これ背徳感があってとても楽しいよ。」

結構やべぇ奴だった。

「まぁいいけどね。それよりさ、今日は何しに来たの?」

「えっとね、今日は暇だから勉強を教えてあげよかな~って。」

「勉強?」

「そう。お姉さんが教えてあげるよ。」

どんだけ暇だったらそういう考えに至るのか謎だが俺も暇だしな。

___________________

「SIN150゜は!?」

「え~っと、え~っと、あ!マイナス二分のルート3!」

「ちがう!SINにマイナスはつかねぇ!」

「え、あ、そうか。」

・・・こいつ大丈夫か?

「え~っと、え~っと。」

「よく高校受かったね。」

「酷い!」

「今までどうやって勉強をやってきたの?」

「え、今まで?」

「うん。塾とか行ってるの?」

「いやぁ、そのぉ。塾は行っていなくて、いろんな人から教えてもらっています。」

「はぁ。もしかして赤島 奉とか?」

「うん。まっちゃんには英語を教えてもらっていたんだ~。」

「数学は?」

「え、えっと、数学はね。じ、自分でやってたんだよ。」

「できてないじゃん。」

「ぐ、まぁ、いいの。時間さえかければできるから。」

「はぁ。大丈夫?留年しない?」

「し、しないよ!それよりさ、なんでその歳でそんなに勉強できるの?」

この質問は想定内だ。まぁ、上手な噓はつけないんだけども。

「俺は勉強が大好きなんだよ。」

「噓だ~」

まぁ嘘だ。でも少なくともこいつよりは勉強を好いていると思う。

「ほら、さっさと終わらせようぜ。」

__________________

「くぅー。ようやく終わった~。」

もう一時だ。こいつの理解が遅いのもあるけど結構量があるな・・・あれ?

「ねぇ、一つ聞いていい?」

「うん。いいよ。」

「これ明日までの課題だよね。どうする気だったの?」

「う、痛いところ突いてくるね。」

「真面目にやれよー」

「う~ん、わかってはいるんだけどねぇ・・・」

こいつこれから大丈夫か?本当に心配になってきたぞ・・・

「あ、でもね、真面目にやりすぎるのもよくないんだよ?」

「そういうのはある程度真面目な奴が言うから説得力があるんであってだな・・・」

「確かにそうかもしれないけれどね、本当によくないんだよ。」

なんか無駄に必死だな・・・

「まぁそういうことにしとくよ。」

「うん。納得してくれてよかったよ。じゃあこれからどうしようか?」

「これから?」

「ちょっと遅いけどお昼ご飯食べない?」

「え、何をどこで食べるの?」

「うちに来ない?簡単なものなら作れるから。」

なるほど、お礼代わりということだろうか。なら甘えちゃおうかな。

___________________

ここが花芽李ちゃんの家か。なかなか落ち着く雰囲気のいい家だな。

「お待たせー。」

「え、もうできたの?」

「そうめんだからね。」

「なるほどね。」

「伸びちゃうからさっさと食べちゃおう。」

「うん。」

「「いただきます。」」

___________________

「ふぅ。お腹いっぱい。」

「久しぶりに食べるとそうめんって美味しいよね。」

「まぁね、毎日食べるとおいしいとかじゃなくなる味だからね。」

「ふふふふ。」

「じゃあ片付けるか。」

「え、いいよいいよ。休んでて。」

「あぁ、そう?じゃあちょっと手洗いを借りていいかな。」

「うん。あ、青い扉の部屋には入らないでね」

「わかった。」

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はぁ、これが青い扉の部屋か。別に探してたわけではないが見つけてしまった。

「一応言っとくけど今さっきのはふりじゃないからね。」

「わかってるよ。」

「あれ?驚かないね。」

「ちょいちょいギシギシ音出てたからな。」

「へぇ、そっか。」

「おう。そもそも止めに来るのなんとなくわかってたから。」

「ふふ、お見通しってことかぁ。」

「おう。でさ、良かったらこの部屋がどういう部屋なのか教えてよ。」

まぁ答えなくてもなんとなく予想できるからいいんだけどね。

「はぁ、ふふ。この部屋はね、お母さんの部屋なんだ。」

「へぇ。」

「だけど私が生まれたときにね。」

「・・・」

「ふふふ、ふぅ。」

そうか、こいつはこう見えてかなり真面目なやつなのか。いやむしろ不真面目を装っているのか。なるほどね。

「お前頑張ってたんだな。」

「う、うぅぅ。」

最近知り合ったばかりだというのに花芽李ちゃんの涙を見るのは二度目だ。

「今は泣きなよ。そのほうが楽になれるから。」

_______________________

泣きやむのを待っていたら夕方になってしまった。俺はぱぱっと一人で帰ろうとしたのだが一応念のためということで送り迎えしてもらった。

「今日は本当にありがとう。楽になれたよ。」

「俺は特に何もしてないよ。」

「ふふふ、君は謙遜しすぎだよ。」

「そうかなぁ?ま、いいや。バイバイ。」

「うん、バイバイ。また明日。」

そういって俺たちは別れた。

「ねぇ、あの人は誰?」

楓詩か、まぁいまさっきからチラっと見えてたしね。

「あの人は友達だよ。何度か見たことがあるでしょ。」

「はぁ、そうね。悪い人ではないとは思うけどね。」

「けど?」

「みんなあんたのことを心配してんのよ。そんぐらいわかってるでしょ。」

「あぁ、まあね。」

「ならわかるでしょ?これ以上心配させるようなことはしないで。」

「わかったよ。」

「ならいいわ。じゃあね。」

「じゃあな。」

__________________________

まもなく母親が帰ってきていつも通りに過ごして寝た。もしかしたら記憶の夢が見えるかな~なんて期待してたが一向にそんなことはおきなかった。

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