第7話学校生活は続く

「おい・・・・おい、起きろ。」

「ん?うーん。今何時?」

「四時だ。」

 は?早すぎだろ。と思ったがこの時間の風景は見慣れた感じがする。むしろ7時とか明るすぎるよな。でも子の歳だとしんどすぎる。

「もうちょっと寝かせてよ。」

「まぁ寝ていてもいいんだが私はもう出るぞ。」

 あ、そうか。結構遠くの進学校に通っているから始発に乗らなきゃいけないのか。

「いや、駅まで送るよ。」

「いいのか?ふふふ。なかなか女心がわかっているじゃないか」

 眼鏡をかけた姉はとても凛々しいから笑顔が想像しにくい感じだ。・・・外で姉はいつ笑うんだろうか?

「いや、まぁ次会えるのは8月でしょ。せっかくだからね。」

 女心がどうとかはしらないけど。

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 手、握る必要ある?と聞きたかった。指を絡ませる必要、ある?聞きたいけれどあまりにも嬉しそうに歩くから言い出せない。

「ふふふ、お前元気になって素直になったな。」

「え??そうなの、かな。」

「あぁ、今まで手を繋ごうとしてもすぐ手を払っていただろ?とくに無気力だったときは必要以上に歩くのも、ちょっと体に触るのも嫌がってたしな。」

 今までのことを思い出したのかすこしほほが膨れている。

 いや、そうだったのかよ。じゃあやっぱりことわってよかったんじゃん。さすがにこの歳の男は嫌がるよなぁ!・・・俺は何にきれているんだ。

「まぁ、元気になったからね。うん。」

「ふふふ、弱弱しいお前も良かったが、やっぱり元気なお前の方が何倍も良いな。」

 ・・・姉は無気力状態だった俺をこんな風にサラッと言ったがこれは最大限の気遣いなのだろう。とてもいい家族だなぁ。

「ふふ、ふふふふふ」

それにしてもこいつはいつまで笑っているんだ?

「あぁ、もう駅についてしまった。」

あ、笑顔が消えた。

「次会えるのは一か月後かぁ。うぅ。」

「な、泣かないでよ!」

ビックリした。こいつの挙動、本当に見た目に合わねぇ。

「学校ではそんな風に泣いてないんだよね?」

「当たり前だ。私が泣くのは家族の前だけだ。」

そういえばそんなこと昨日も言ってたな。でもそれって、学校では猫かぶりまくってるってことだろ?なかなかめんどくさい生き方だなぁ。

「そんなんで一人になったら一生泣けなくなっちゃうよ。」

俺はその言葉をただからかうような感じで言った。言ってしまった。それが心を深く抉ってしまったようだ。

「や、やめてくれ。一人になるなんて。そんなこと、言わないでくれ。」

「お、お姉ちゃん?」

「私にはお母さんとお前しかいないんだ。頼む、死なないでくれ。ずっと一緒にいてくれ。」

抱きつく姉の体は冷たく痙攣していた。過呼吸にもなっている。

「ごめん、お姉ちゃん。軽々しく変なこと言っちゃって。」

「いいんだ、私が傷付きやすいだけでお前は悪くないんだ。」

その後、深呼吸した。どうやら少し落ち着いたようだ。

「ほら、お前も学校に行かなければならないんだ。もう私にかまう時間なんてないぞ。」

「うん、じゃあまた夏休みにね。」

「ああ。またな。」

そう言って俺は自分の罪を振り切るように走って家に帰った。

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家に着いたらもう五時半だ。行きをとろとろ歩いていたのもあるけれど結構距離があるな。ふぅ、疲れた。あれ?体がだるい。やべぇ、起きていられえねぇ・・・

「・・・ぬーいー。おきなさーい。」

「うわ!」

誰だ!?

「なんだ、楓詩か。」

「なんだって何よ!」

勝手に部屋に入ってきているがまぁこうやっておこしに来てくれるのは今までに何度かあったっぽいからいいか。

「おはようございます。」

「なにのんきにしてんのよ!もう七時半よ!」

「は?」

時計を見ると長針が6を指している。

「やべぇ!」

「さっさと着替えて降りてきなさいよー」

楓詩はもう部屋からでて降りて行った。

「急げ急げ。」

じぶんに言い聞かせながら急いで準備を済ませて二人で走って学校に行った。

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あぁ、そういえば今日日直じゃん!

教室に入って荷物を置いて急いで日誌を・・・・

「お、おはよう白南風くん。」

お、ちゃんと喋れるのか。昨日はほとんど喋っていなかったけど必要な時にはちゃんと喋れる子なのかな?

「おはよう科戸ちゃん。なんで日誌持っているの?日誌って二人で職員室に行かなきゃもらえないんじゃなかったけ?」

「え、あぁ、先生が持ってきてくれたんだよ。」

今はあの先生はいないようだが、もしかしてこれ・・・

「そんなこと今まであったけ?」

「えぇ・・多分・・なかったと思うよ。」

やっぱりか。どうやら俺はまだ病人扱いされているのか。まぁ仕方ないし今回はかなり助かったからなにも文句は言えないんだけれど・・・

「ふーん、そっか。ごめんね、科戸ちゃん。迷惑かけちゃったね。」

「そ、そんなことないよ。私の方が何倍も迷惑かけてしまったから。」

「科戸ちゃんが俺に迷惑かけるようなことあったっけ?」

「え、あぁ。いや、そのね、その、なんでもないよ。」

「?」

「なんか、言葉間違えちゃっただけだから。忘れて。お願い。」

ん?う~ん?なんかすごい引っかかるなぁ。

「それって恥ずかしいこと?」

「恥ずかしい?えーっと、うん。だからね、忘れてほしいの。本当にお願い。忘れて。」

めっちゃ必死だな。何があったんだ?後で周りの奴に聞いてみるか。

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キーンコーンカーンコーン

朝の会をしなければならないから席を立って前へあるく。やっぱり全員が座っている中で立つのは好きじゃないな。

「今から朝の会を始めます。」 

やばい、声があまり出ない。科戸ちゃんも緊張している。ここは俺が頑張らなくてはいけない場面だ。

「起立。おはようございます。」

「「「おはようございます!」」」

やべぇ。声の大きさに圧倒されてしまう。科戸ちゃん?ああぁ、口をパクパクしてる。これはだめだ。これは一人で全部やるパターンだわ。とりあえず進めよう。

「座ってください。」

えっと、次は出席確認か。

「出席をとります。」

え?あぁ。良かった。一瞬全員呼ばなきゃいけないのかと思ったが先生がいなかったら空いている席の数を数えて誰がいないか確認すりゃあいいのね。それに今日は席は一つも空いていない。ラッキー。

「休んでいる人はいませんね。次に係からのお知らせです。なにかお知らせはありませんか?」

シーンとしている。よし。

「では朝の会を終わります。」

キョドキョドしている科戸ちゃんの背中を軽くたたいて俺たちはさっさと席へ戻った。

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今日の授業は図工が二時間と体育と国語と数学が一時間ずつだな。えぇっと。今図工って何してるんだろう?    

「白南風くん、水彩セットとってこないと。」

「え、あぁそうだね。」

水彩画なのか。何を書いているんだろう。そもそも今はどの段階だ?もしかして・・・

「全員自分の絵をとれよー」

やはりか。嫌な予感はあたり、謎の絵の約三分の一が色を塗られている状態だ。なにこれ?顔?いや、そもそも色が灰色だし違うか。こういう目っぽいものと口っぽいものだけで顔と認識してしまうやつのことをなんて言うんだっけ?

「あぁ、白南風、お前はとりあえず今日の図工は休んで保健室に行って来い」

「え?」

「お前は確かに元気になった。けど急に今まで通りにするっていうのはあまりよくないだろう。」

「はぁ、そうですか。じゃあ行ってきます。」

ふ~ん?かなり慎重派だな?まぁ、いっか。あのままあの絵を描き続けていたら頭が痛くなりそうだったし

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ここが保健室か。ここの思い出は特にない。いや、きっとあるはずだ。でも思い出せない。ここでの思い出はブラックボックスなのだ。ま、とりあえず入るか。

「失礼します。」

「いらっしゃい、黒南風君。」

「白南風ですよ。」

「あら、本当に元気になったのね。」

「はい。大体元気です。」

「そっかぁ。それは良かった。」

この人が保健室の先生か。ストッキングとタイトスカートか。百点満点だな。

「ほら、ソファーに座って。」

古い低反発のソファーだ。座り心地はまぁまぁかな。

「どう?もう大丈夫?普通に学校生活に戻れる?」

そういいながら俺の隣に座る。・・・なんだかちょっとドキドキするけど落ち着かせる雰囲気があるってすごいよね、なんて思うのは現実逃避なのだろうか。

「事故のことも、もういいの?」

一拍貯めて話す言葉はとても重たい。簡単に終わらせていい話なのかわからなくなる。だからおれは、

「わからない。」

とだけ言った。ズルい言い方である。

「そう、そうよね。わからないって事が分かっただけいいわよね。」

お互いズルい言い回しを繰り返す。もう誰も逃げることから逃げられない。

「いいのよ。それも、若いうちだからこその生き方だから。」

もう自分は逃げられない。そう、言っているのだろうか。

「先生も俺と逃げる?」

「ふふふ。いい考えね。でも駄目よ。」

「どうして?」

「どうしてもよ。はい、もうお話はおしまい。せっかくの保健室なんだから寝ていきなさい。」

「はい。」

保健室の先生が寝るのを進めてくるというのはなかなか変な話だが、俺にはそうするという感じになっているのだろう。

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ポタポタと雫がおちる・・・・

独りの彼女はとても儚く美しい・・・・

あぁ・・・これは・・・夢なのか・・・・

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キーンコーンカーンコーン

起きると2時間目がちょうど終わったところだった。が、まだ寝ていたい。う~ん。頭も痛いし早退させてくれないかなぁ~。がらら、とドアが開いて、カーテンを思いっきり開く。

「こら!ぬい!一日何回起こさなきゃなんないのあんたは!」

「楓詩?」

起こしに来てくれたのか・・・う~~~

「こら!起きろ!あんた日直でしょ!」

「そうだった!」

やべぇ。多分今までの仕事を科戸ちゃんに一人で全部やらせてしまっている!急いで教室に帰ろう!

「し、失礼しましたー」

「お大事にね~。」

「あ、失礼しました。」

「はーい。」

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教室に入ると科戸ちゃんは一人で黒板の文字を消していた。

「ごめんね。一人でやらせちゃって。」

急いで謝るというのは大事なことだ。まぁ、この歳ではそこまで必要かどうかは謎だが。

「え、いや、全然。全然いいよ。白南風くんは全然悪くないよ。」

キーンコーンカーンコーン

「あ」

「せ、席もどろっか。」

「あぁ。」

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今日は国語と算数という圧倒的頭トロトロメニューなのだが、俺には英語の教科書と簿記の本がある。バレないように読もう。まずは英語だな。

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なるほど、結構難しいな。えぇぇっとこの過去分詞っていうの覚えるのめんどくさいなぁ。一々これ覚えるのは無理なのでは?よし、次だ。簿記だな。えーっとー

「おい、白南風。お前の番だぞ。」

「は、はい。」

え?俺の番って?あああ。教科書読むのね。えっと?どこだ?

「ここだよ」

すごい小声で科戸ちゃんが教えてくれた。えっと、これか。

「ス〇ミーは教えた。」

終わりだ。こんなの真面目に受けてたら間違いなく廃人になる。これから簿記を頑張ろう。

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掃除も終わり、いよいよ帰る時間だ。帰る時間は1時半だ。なかなか嬉しい。うれしいけど今から日直の最後の仕事をしなければならないのが面倒だ。そう。おわりの会だ。

「今からおわりの会をはじめます。礼」

掃除の反省か。

「そ、掃除の反省をします。班長さんは立ってください。」

!?し、しなとが喋った!?

「教室。」「よくできました。」「りょ、ろうか。」頑張った!「よくできました。」「えーと、えーと。あ、手洗い場」「よくできました。」「掃除の反省を終わります。」クッ。泣ける。成長とはこれほど尊いものだったのか。

「係からのお知らせはありませんか?」

シーーン

「おわりの会を終わります。礼。」

「はぁい。日直さんありがとうございました。えぇっと。今日はもう連絡することもないので、学校はおしまいです。起立、さようなら。」

「「さようなら」」

今日も学校が終わった。明日は土日だ。どう過ごそうかな。

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