第2話 道摩満と白狐の館ーーー②

「えーっと……人参に玉葱、じゃが芋と……肉は昨日の残りがあったからいいか」

 メモに書かれた買い物リストと、右手に持った買い物かごの中身を照らし合わせながら、学校近くにあるスーパーの店内を歩く。此方に引っ越して以降、足の悪い婆ちゃんに代わって日々の買い物をするのは俺の役目となっていた。初めは夕方の、人でごった返した店の内を主婦に紛れて歩くのは気恥ずかしいものもあったが、慣れればどうという事もない。自分が気にしているほど、他人は俺の存在など気にも留めていないのだ。


「うわ、最悪だな」

 会計を済ませて店を出ると、ポツポツと冷たい水が降ってきた。見上げた空は雲ひとつなく夕陽で赤く染まっているのに、頬を濡らすのは間違いなく雨で、遠くの方にうっすらと虹が掛かっているのが見える。傘を差すほどではないが、早く帰った方が良さそうだ。中身が濡れないようにビニール袋の口を縛り、急いで店をあとにした。


「やべぇ…………迷った」

 自慢ではないが俺に土地勘はない。引っ越して来てまだ数ヶ月しか経っていないのだから仕方ない。それなのに、雨が本降りになる前に帰宅したい一心で裏路地に入ったのが良くなかった。決まった道しか通ったことがない分際で、近道しようなどと安易な考えをすることが間違いだったのだ。

 意外と奥まで続いている細い裏路地をひたすら真っ直ぐ進み、ようやく広い道に出たかと思えば、其所そこは全く見たこともない場所だった。つまる所、俺は迷子である。

 さらには追い討ちを掛けるように、いつの間にか霧が出始め、気付いた時には辺り一面が真っ白に染まっていた。手で払ってみても視界が良くなるわけもなく。まぁ当然だが、しかし、これで帰り道がさらに分からなくなったのは事実だ。段々と霧は濃くなってゆき、あっという間に先ほど通ったばかりの裏路地が目視出来なくなった。京都は霧が出やすいのだろうか?そんなことウチの婆ちゃんは一言も言ってなかったけれど。ああでも、傷みやすい肉を買ってなくて本当によかった。何時になるやも知れない帰宅に溜め息を吐いた。

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