ガンガンいこうぜ!!
「何気に久々じゃないか? 一緒に戦うの」
「確かにな」
緊張感の無い俺の問いかけに、大谷が冷たく答える。
いやはや、真剣そのものだな。
当たり前か。
今までで一番の重大局面だ。
大谷にとっては特に。
赤い光を纏ったヒーロイドは、険しい目つきで、向き合う怪人を睨みつけている。
正面でゆらりと立ち上がるゼロサンは、すでに追い詰められていた。
体を守っていた光は消え、ずっと戦ってきたためにスタミナも限界に近いはず。
みんなのおかげでゼロサンをここまで追い詰めることが出来たんだ。
この好機を無駄にする訳にはいかない。
柄にもなく、仲間への感謝などを思い浮かべてみる。
うん、ほんとに柄じゃない。
あんまり変なことをするのはやめとこう。
「はっ!!」
ごちゃごちゃと考えを巡らせていると、隣から大谷が飛び出した。
大谷の跳び蹴りにもゼロサンは素早く対応し、腕を立てて受け止める。
「うぐっ……!!」
しかし、光の鎧が無くなったゼロサンは、ヒーロイドの攻撃への耐性が無い状態だ。
ヒーロイドの光はヒールの装甲の隙間から入り込み、その体に直接ダメージを与える。
今までゼロサンは光を纏ってそれを防いでいたが、既にエネルギー切れで攻撃を防ぎきれなくなっている。
このまま大谷に任せてしまっても、と思わないでもないが。
最初に攻撃を仕掛けたときには大量に用意していたらしい蚊のヒールで迎撃を受けた。
追い詰めたと思ったら何度も体内のエネルギーを爆発させる。
姿を眩ませてヒールを生み出し、人を襲わせて楽しむ卑劣さも持っている。
ここで気を抜くことは出来ない。
俺が今すべきことは何か、太刀を握り直し一歩前に踏み出しながら、思考を加速させる。
頭を回している間に、前方で大谷が二撃目を放った。
しかし今度は至近距離で見極められたのか、その打撃はゼロサンに捌かれ、反撃される。
大谷は一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直し次の攻撃にかかった。
戦況を慎重に見極めながら、俺はゼロサンの後ろに回り込むべく右側へ走り出した。
背後を取ったところで何ができるとも思えないが、ゼロサンは俺を警戒している。
追い詰められた状況だからこそ、何かこそこそしていたら気が散るだろう。
多分。
ワイヤーがもう使えないことも気付かれてはいないだろうし。
足音を大きく立てて四歩ほど踏み出したところでチラリと怪人の方を見やると、装甲の奥の瞳と視線がかち合った、様な気がした。
よしよし、釣れたかな。
えんじ色の屋根を大きく弧を描くように描け、さっきまで居た場所と向き合う様なポジションで停止する。
ゼロサンのトゲだらけの背中が、淡い月明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がっていた。
さて、肝心のゼロサンは大谷とのやり取りで手一杯なのか、こちらを振り向く気配は無い。
まあこれならこれで後ろから嫌がらせのしようもあるか。
と、その時。
ゼロサンの装甲の向こうに、吹っ飛んでいく何かが見えた。
あの赤い光……大谷!?
まさか、大谷がダウンしたか!?
跳んで行く大谷が地面に落ちる所も確認しないまま、速やかにこちらを振り向くゼロサン。
巨大な怪人は獣のように雄叫びを上げながらこちらへと真っ直ぐに突っ込んでくる。
咄嗟に刀を斜めにし、棟の中ほどに左手を当てて刀で身を護る体勢を固めた。
怪人はとてつもない速度で迫っていたが、インパクトまでの瞬間、俺の眼には装甲に着いた細かい傷や腕のわずかな動きまでもが見えていた。
時間が、引き伸ばされる感覚……。
しかし、それだけゆっくり見詰めていたというのに、ゼロサンの次の行動まで読み切ることは出来なかった。
トゲだらけの装甲を纏った獣は、刀身に噛みつくように、全力で頭をぶつけてきた。
巨大なゼロサンの全重量が、一瞬で刀を通り抜け、腕、そして全身へと伝わってくる。
足が、床から離れる感覚。
まずい!!
吹っ飛ばされている!
大谷同様、俺の体も宙に舞っていた。
背中から着地し、前後両方からの打撃に眩暈がしたその瞬間。
上を向いていた俺の視界一杯に、覆いかぶさるように迫ってくる鎧が映った。
追撃か!!
悟った瞬間、俺は無意識に右腕を跳ねさせていた。
その手にはまだ、ゼロニーの刀が握られている。
タメも振りも無く動き出した抵抗の一撃に大した勢いは無かったが、刀の柄頭がゼロサンの顎に吸い込まれていった。
「ふぐっ!?」
ぶつけられた刀の重量はしっかりと脳に響いたらしく、突撃してきていたゼロサンの巨体は軌道を変え、左肩の少し向こうに不時着し、そのままごろごろと転がっていった。
人間は顎に強打を受けると脳震盪を起こす。
ヒールも同様だということは、さっきのゼロフォーの攻撃で分かっていた。
俺が何か痛打を与えられるとしたらここだろうとは思っていたが。
無意識に動かした腕があんなに見事に当たるとは。
これは完全に運だ。
「う……くっ……うっ……」
ゼロサンは揺れる頭でも立ち上がろうとしているのか呻いていたが、少しすると声は途絶えた。
「あーー、あっけない幕切れだなな、クソ」
ぽつりと、そんなことを呟く。
声の位置から考えるに、どうやら倒れたままで、もう立ち上がることは諦めたらしい。
ずっと前からもう限界だったのだろう。
しかし、あれが最後というのは少々拍子抜けな感じもする。
もしかすると、立ち上がろうと思えば立ち上がることも出来たのかもしれない。
それをあえて諦めたのか。
なんとなく、そっちの方があり得そうな気がした。
俺もこのまま寝転んでいていいならその方がありがたいが。
自分の少し向こうで仇敵が倒れているというのは、少し奇妙な状況だ。
しかし頭の奥がぼんやりとしてきて、そんなことを気にする気力すら失せてしまう。
さっきまで倉庫の屋根を淡く照らしていた月は、いつの間にか雲に隠れてしまっていた。
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