05を救え!
一つ、分かったことがある。
俺たちの周りを飛び回っている蚊の怪物達。
こいつらの攻撃は単純な体当たりだけだ。
元になった生き物こそ蚊ではあるが、血を吸ってくるようなことは無い。
まあゆっくりそんなことをしていたら即潰されるのがオチだろう。
しかし、体が大きくなっている分重量もスピードもそれなりになっている。
自由に飛びまわるバスケットボールと戦っているみたいだ。
「ゼロゴー、待て!!」
次々と襲いかかってくる虫達の壁の向こう側。
こちらに背を向ける痩躯に、しかしその声は届かない。
説得も不意打ちも失敗したゼロゴーは自棄になっている。
刺し違えてでもゼロサンを倒すつもりか?
俺がそれを否定できるものではない。
刺し違える覚悟はしていた。
しかし、しかしだ。
目の前で犠牲を出すなんて、そんな気分の悪いことは無い!!
とはいえ、周りにいるこいつらも厄介だ。
迅速に蚊の大群を倒し、ゼロゴーを救出する!
相手が蚊であるために、殴るけると言った打撃の類はあまり手応えがない。
それに、当たった瞬間素早く後ろに飛ばれてしまい衝撃を逃がされてしまう。
蚊が相手なので、古き良き日本の心で潰してしまうのが一番だろう。
ゼロフォーは両手に蚊を掴んで二体を叩きつけ、大谷はタイミングよく上から拳を叩きつけては、地面に思い切りぶつけている。
しかし、一回一回の攻撃はかわされることも多く、中々蚊の大軍を処理するには至らない。
あとグロい。
巨大な虫を何体も潰しているので、倉庫内は既にヒーローの戦いとはかけ離れた様相になってしまっている。
突撃してきた虫をとっさに躱すと、次の衝撃が背中から襲ってくる。
その衝撃に体がグラついた瞬間、視界の端に虫の壁の向こう側、ゼロゴーの姿がチラリと移った。
大きく飛び上がり、対峙する巨躯へと蹴りを入れる。
しかし、その攻撃は簡単に弾かれ、床に転がった。
ダメだ、早まるな!
届かない声を心中で叫んだその時。
バリバリィッ!!!
俺達が入ってきた扉から見て右側面。
コンテナの向こうにそびえていた大きな壁を突き抜けて、何かか倉庫の中に突入してきた。
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正直、こうなることを予測していない訳では無かった。
なんせ何体ものヒールが暴れまわろうってんだから。
しかし想像よりもずっと早い。
ゼロサンが蚊の怪物たちを用意していたからか?
だからこんなにも早く嗅ぎつけた?
いつもいきなり現れる巨大な影は、今回も突然にその姿を現し、俺達のド肝をブチ抜いた。
ゼロロク……脇坂だ。
乱入者は予め光を集めておいたのであろう前腕部を前に突き出し、一気に放出する。
霧状に広がった光の粒子が蚊の怪物を包み、次々に爆発させていった。
ヒーロイドの光をヒールの素体に当てれば爆発させることが出来る。
それはこの両者においても同様らしい。
光を集める暇など無かった俺達には全く不可能な方法であったが、この場においては確かに最も効果的だろう。
しかし、大量のエネルギーを放出する技のはずだ。
オーバーヒートを起こしはしないのか。
そして、こんなことを思うべきでは無いのだろうが。
虫に向けて放たれる霧状の光は、まるで殺虫剤のようだった。
とまれ、壁は消え去った。
現状の確認のためさっき二体の怪人が戦っていた場所へと視線を走らせる。
そこには膝をつくゼロゴーと、ゼロロクを睨むゼロサンがいた。
何とか間に合ったか!?
「ゼロゴー!!」
「あー……アレ?」
だが反応がうつろだ。
返事にも覇気やいつもの余裕がない。
「よお、今度は意外と早く会えたな?」
「…………」
ゼロロクに向けられたのであろう、ゼロサンのにやけた声。
どうやらもうゼロゴーに興味は無いらしい。
これ幸いとゼロゴーに駆け寄る。
傍に屈み込むと、ゼロゴーはらしくもなく、こちらにもたれかかってきた。
「いや、参ったね。あいつ強いよ」
「だから全員で来たんだろ」
本当は分かっている。
ゼロサンが強いからこそ、こいつは一人で片を付けようとしたんだ。
俺達を守ろうとした。
誰も犠牲にさせまいとした。
最初にMACTとの和解を持ちかけてきたのだってこいつだった。
のらりくらりとした態度も。
奇襲中心の戦闘スタイルも。
無駄な犠牲を避けるため、か。
そのために自分を犠牲にしなくてもいいだろうに。
いや、俺が言えたことじゃないが。
大谷とゼロフォーは、一定の距離を取ったまま臨戦態勢を崩さない。
ゼロサンの傍に居る俺が襲われた時に備えていてくれたのか。
肝心の怪人は、未だ新たな客と睨み合っている。
戦闘は完全に膠着していた。
とにかく、ゼロゴーをここから離脱させなければ。
「矢面!!直江さん!!」
ゼロゴーの瘦躯を抱え、後方で待機していた二人のもとへ走り出す。
くそ、細いくせに身長と装甲のせいで重い。
変身しててもよたよた歩くのが精いっぱいだ。
……俺の力が弱いだけか。
いやはや気が滅入るな。
状況を把握して駆け寄ってきてくれた二人にゼロゴーを任せる。
その瞬間、後方から眩いばかりの光が飛来し、少し遅れて爆音と風が俺の背中を叩いた。
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