奇襲大成功

「よう、随分と久しぶりじゃないかゼロゴー」

「でも最近メールはよくやってるカラァ?あんま久しぶりって感じしないねェ~」

 今はもう使われていない郊外の廃倉庫。


 壁はあちこちすすけて表面が崩れているところもあり、埃っぽいのかなんとなくよどんだ空気が漏れ出て来るが、この間の倉庫よりは幾分マシに見える。


 夜九時だが、電気が通っているのか庫内はぼんやり薄暗い程度で、二人の姿はある程度確認できる。


 体育館の倍ほどの広さの床の半分以上は雑然と置かれたコンテナの下に隠れており、その中心に古めかしい箪笥やソファなどが置かれた生活スペースのような物が出来ている。


 そしてその傍ら。


 いかにも怪人らしい巨体を持った全身トゲだらけのヒールと、怪人にしては珍しいすらりとした痩躯の変人が対面していた。


 トゲトゲヒールはもちろんゼロサンのことである。

 もう一人のトゲトゲ・ゼロフォーは今、俺の隣にいる。


 三日前の作戦会議のメンバーからゼロゴーを除いた、俺、大谷、矢面、直江さん、ゼロフォー、そして車いすに乗ったゼロイチは、倉庫の外で待機し、裏口から内部の様子を窺っていた。


 ゼロサンがゼロゴーと話している間に、隙をついて全員で奇襲を仕掛ける予定だからだ。


 三日前の作戦では、俺がゼロゴーの代わりに囮になる予定だったが、

「この前啖呵切って来たのに、今更話し合いしようなんて怪しまれるデショ~」

 というゼロゴーの指摘により、役割変更となった。


 アイツがこんなにまともなことを言うなんて。

 まあ助かったけれど。


 ゼロサンが気を引いているうちに、バレないよう裏口から忍び込む。

 全員で足音を殺しながら丁度いい位置にあったコンテナの陰に隠れた。


 足音の響かない床でよかったと心から思う。


「動画も見たヨ~。全然再生されてなかったネ」

 オイコラ余計なこと言うな。


「もう少し反応があるかと思ったんだが、厳しいもんだな」

 ゼロサンもゼロサンで大して気にしていないらしい。

 まあ単なる暇つぶしということか。


 怪人二人は、意外と穏やかに話が続いている。

 元から仲が良かったのか?

 でも考えが合わなくて離反したはずだけど。


 一方の俺達は、全員変身を済ませ、ゼロゴーの合図を待ちながら二人の様子を覗いている。


 変身していると全身が光るので変身しない方が気付かれにくいのだが、攻撃を開始してからはスピード勝負なので早めに準備しておいた方がいいだろうということになった。


 まあ暗闇でぼんやり浮かび上がるくらいの光量なのでそこまで心配はいらないだろう。


 緊張感が張りつめる中でジリジリと進み、走れば三秒と掛からず襲撃できる位置に着ける。

 距離的にも、物陰の位置からも、この辺が限界だろう。


 先陣を切るのは矢面と直江さん。

 二人の必殺技はスピードが高いタイプなので、初撃を叩き込むのに使う。


 矢面の必殺技は矢のような光が素早く飛んでいくタイプ。

 直江さんの必殺技は具体的には知らないが、ボールを投げるような感じらしい。


 既に光の準備を終え、構えている二人の顔をチラリと見やる。


 矢面はガスマスクのせいで顔が見えない。

 直江さんは以前戦った時同様、キッと鋭い目をしていた。


 この人戦いが始まるとちょっと怖いんだよな……。

 ゼロフォー達と初対面の時も暴れてMACT本部ぶっ壊されたし……。


「女の子の前では優しいよ?」とは言っていたけど。


「それで、いきなりどうしたんだ?」

「いやァ、久々に旧友の顔が見たくなってネ~」

「嘘着けお前そんな柄じゃないだろ」

 さっそくバレてるじゃねえか。


 既にゼロサンが不審がっている様子が伝わってくる。


 さてさて、ゼロゴーがどう誤魔化してくれるか。

 奇襲開始の合図はゼロゴーに任せているが、最悪、誤魔化しきれなくなった瞬間合図を待たずに仕掛けるか。


「ん?今なんか物音シタ?」

「ネズミだろ」

 おいコラお前はまたそうやって!


 誤魔化し方も大概だが、それで誤魔化されてしまう方も方だ。


「まあそもそも友人と呼べるかどうかも怪しいよねぇ」

 そう呟くゼロゴーは、いつもとは打って変わってなんとなくしみじみとした空気を纏っていた。


「なら同じ境遇のものとして言わせてもらうよ。ねえゼロサン、もう意地を張るのはやめて、MACTと和解する気はない?」

「……」


 少し、いやかなり、意外だった。

 まさかゼロゴーがあんな事を……。


 もちろん、こちらとしても和解などそう簡単には受け入れられないところではあるが。

 いやしかし、それで戦いが終わるなら……。


「怪人も悪いもんじゃないよ。毎日ゴロゴロして過ごせばいいんだからさ」

 それはちょっと怪人としてどうかと思う。


「だが、それもヒールがいなくなったら?」

「分かっチャウ~?やっぱ君賢いねェ」

 ん?なんだ、どういうことだ?


 というか、ゼロゴーの雰囲気が通常運転に戻ったぞ。

 もしかして、これは……。


「そんなにお利口サンなのに、どうして意地を張っちゃうのカナ~」

「俺はどうしようもない馬鹿みたいだからな。しかし、お前がそんな説得のために会いに来るとは思わなかったぞ」

「あー、そう?」

 ゼロサンは両手を上げ、ゼロゴーは不気味に笑っている。


 交渉決裂か。


 わずかだが、緊張の糸がほつれたその時。


「ま、説得だけじゃないからネ」

「あん?」

 瞬間、ゼロゴーが右腕を高く掲げ、わずかに溜めていた光を炸裂させる。


 それはまるでスターターピストルのような。


 奇襲開始の合図だ!


「しまっ……!!??」

 全くの不意を突かれたゼロサンが、本能からか、わずかの迷いもなく俺達のいる左斜め後ろを振り返る。


 だがもう遅い。


 先陣を切って飛び出した矢面と直江さんが、腕の先に目一杯溜めていた光を一気に解き放つ。


 勢いよく飛び出した矢と球は、二人が全身に纏っていた光まで引っ張って、一直線に怪人の巨躯目掛けて飛んでいった。


 命中。

 大爆発が起こり、辺りにもうもうと煙が立ち込める。


 だが、これで決着が着く訳が無い。


 俺、大谷、ゼロフォーは、一瞬の間も置かずに、渦巻く煙の中へと突撃していく。


 だが、煙の中にチラリと見えた怪しい影のために、その歩みは止まった。


「よく来たなぁ!歓迎するぜぇ!!!」

 怒りと興奮に満ちたゼロサンの声が、煙越しに響く。


 直後、煙の向こうからバスケットボールほどの大きさの物体が無数に、次々と飛び出してきた。


 うわぁ、嫌な予感。


 これはもしかして、奇襲されたのは俺達の方か?

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