ゼロイチの案内

 いつもの溜まり場に、車いすに乗った状態のゼロイチが入ってきた。


 車いすを押しているのは祐樹。

 小さな体で懸命にゼロイチを運び、それをゼロフォーが横から支えている。


 ゼロイチと祐樹はこの前ゼロロクに会いに行った時が初対面だったはずだが、いつの間にか仲良くなっていた。

 アイツ凄いな……。


 怪人とどんどん仲良くなっていく。

 いやそりゃ元は普通の人間なんだけど、怖いとか思わないのだろうか。


 祐樹のような人間がもっと増えれば、世界は平和かもなぁ。

 いや、それはそれで怖いか。


「僕たちも昨日、ゼロゴーにあの動画を見せられたんだ」

 そう語るゼロイチにはいつもの微笑は見られないが、深刻という訳でもなく、あくまで柔和な顔つきだった。


 あの動画、というのはゼロサンが動画サイトに投稿したMACTを弾劾する内容の動画だ。


 再生数が全く伸びていない上にゼロゴーにダメだしされまくっていたが、ゼロイチはその動画からゼロサンの居場所が分かったらしい。


「ゼロロクと一緒に行動していた時、いくつかの廃墟や倉庫みたいなところを拠点にしてたんだ。それで、定期的に移動していた」

「居場所を気取られないようにか……」


 ゼロフォーの推測を、ゼロイチが首肯する。


「そうだろうね。それで、その動画に映っていた背景がその時に拠点にしていたところの一つなんだ」


 なるほど、ゼロイチはあの動画が取られたところに行ったことがあるのか。


「場所はわかるんだな?」

「うん、背負われて移動する間はやることも無いしね。周りの景色をずっと見てたから覚えてるよ」

 これはありがたい。


 思ってもみなかったところからいい情報が得られた。


 あの動画の影響はほとんど無いだろうが、ゼロサンをこのまま放置しておくわけにはいかない。


 作ったそばからゼロロクに撃破されてしまうからか、怪人を生み出すのも今はストップしている。


 しかし、いつまた再開して人を襲い出すか分からない。


「先輩、これは……」

「ああ」


 ゼロサンを倒すことが出来れば、今はゼロロクとして行方をくらませている脇坂も、きっと戻って来るだろう。


 居場所が分かればやることは一つ。


「奇襲大作戦だ!」




 ---------------




 ゼロイチが語ったゼロサンの潜伏場所は、MACT本部からもそう遠くない、郊外の廃倉庫だった。


 そういえば前にゼロフォーが拠点にしてたのもMACT近くの幽霊屋敷だったな。

 怪人なのにヒーローの本拠地の近くに住んでいるとは。


 MACTのメンツも丸つぶれだ。


「いや~、揃ったねェ」

 ゼロゴーが感慨深げに呟く。


 その日の夜、直江さんの仕事が終わるのを待って、俺達はいつもの溜まり場に再集合した。


 ヒーロイドは俺、矢面、大谷、直江さん。

 ヒールはゼロイチ、ゼロフォー、ゼロゴー。


 小学生をこんな遅くまで外にいさせておく訳にはいかないので、祐樹は家まで送ってきた。

 ご両親に夕飯に誘われてしまったが、申し訳ない気持ちになりながらもお断りした。


 相変わらず優しい家族だなぁ。


 とまあ、それはさておき。


 今動けるヒーローが全員集まり、テーブルを囲んで座っている様は、ゼロゴーが感嘆するのも頷ける光景だ。


「なんか、いよいよ最終決戦って感じだね」

 椅子に座りながら事情を聴いた直江さんが、複雑そうに目を細めながら立ち上がった。


 この人もこの人で色々あったんだろうけど、なんとなく聞き出すことが出来ないでいる。


 ちなみに、対ゼロサンの作戦立案は俺に一任されている。

 大谷曰く、「奇襲とかそういう汚いこと考えるの得意だろ?」とのこと。


 失礼な。

 俺は力が無いからやむを得ず汚い手段を使っているというのに。


 別に得意ということも無いが、色々考えるのは確かに俺が向いているか。


 という訳で、直江さんが来るまでの間に、祐樹を家に送りつつも様々思案を巡らせていた。

 作戦会議で原案を発表し、全員で内容を微調整していくのが今回の流れ(予定)だ。


「で、なんか良いアイディアは浮かんだか?」

「あー、まあな」

 隣のゼロフォーが小声で尋ねてくる。


 一応考えてはみたが、別に俺が考える必要もないようなことだな。


「じゃ、蒼汰クン。作戦をドゾー!」

 ゼロゴーが司会進行みたいになっているのは何故だろう。


 まあいい。さっさとやってしまおう。


「まず、決行は三日後の午後九時。日曜だから直江さんの仕事も、学生組の学校も無い。何より新月だから敵に気付かれにくい」


「なるほど、奇襲をかけるのね」

 直江さんの言葉に、俺は頷く。


「ゼロサンは強い。頭数揃えたって連携が取れない状態じゃちょっとしんどいと思うんだ。だから、隙をついて全員で一気に制圧する」

 とりあえず作戦の概要は分かってもらえたらしく、その場の一同が頷いて見せた。


「その一環として、今日にでもゼロフォーから連絡して、三日後に会う約束を取り付ける」

「奇襲なのに連絡するんですか?」

「そうだ」


 矢面の疑問はもっともなことだ。

 奇襲というならば、相手に知られずに近づき、何が起こったのか悟られないうちに叩いてしまうべきだ。


 しかし、この作戦はただの不意打ちではない。


「話し合いという名目で出向けば、あいつはむやみに攻撃してこない。俺が正面から普通に話をしに行って、油断させた所で全員で一斉に後ろから襲い掛かってくれ」


 ……何故か沈黙が返ってきた。


「いや~、いいねェ。完全に悪役がやるヤツだヨ~」

「やっぱりお前に任せてよかったぜ!」

 おい大谷どういう意味だコラ。


 あとゼロゴー。

 お前にあんまりそういうこと言われたくない!



 作戦決行まであと三日である。

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