1.2と6
前回のあらすじ。
ゼロロクが来た!
「こっから声かけて聞こえるかな?」
「少し難しい気もするが……」
燦々と降り注ぐ日光に照らされ、異形の怪物のシルエットがスーパーの屋上に浮き上がっている。
ここからあそこまで大体百メートルか。
ヒールの力があれば一瞬で詰められそうな距離だが、こちらから仕掛けたら逃げられるか?
かといって受け身に回って対応が後手後手になるのもなぁ。
ゼロフォー・ゼロゴーが出てきたことによって人も車も通らなくなった交差点で、俺、怪人二人、ゼロイチ、祐樹の五人は、遠くからこちらを見下ろすゼロロク・脇坂と向き合ったまま、しばらく睨み合っていた。
ふと、あいつがここに来たってことはやっぱりゼロニーと刺し違えはしなかったということか……と頭の中をよぎるものがあったが、無理矢理に押し込めた。
話し合いがしたかったんだが、こんなに遠くちゃ何にも話せないな。
まあ、こんな状況も想定しなかった訳じゃない。
以前にヒールを襲撃していた時は空から奇襲をかけていた。
あれも敵の位置をしっかり把握して、周りの安全を確かめて……と事前準備が必要だったはずだからな。
関係ない人間を巻き込むのは本意ではないだろうし。
今回もそんな風に、いきなり襲ってくるのではなくまずは遠巻きに俺達のことを観察するだろう。
それくらいの予想は出来ていた。
出来ていたので一応用意は出来ているが……いやはや、上手くいくかな。
俺は、腰のホルスターに刺していた銃を抜き、足元に置いておいた剣を、屋上の怪人に向かって高々と掲げて見せた。
そして、二つの武器を足元に投げ捨てる。
要するに、武器を捨てることで戦う意思がないことを伝えるのだ。
問題は意図が正しく伝わるか……。
そして、伝わったところで応じてくれるかだが。
ここでどこかへ立ち去ろうとすれば、直ちにゼロフォーとゼロゴーが走り出し、脚力が足りない俺は先回りを狙って経路設計をしなければならない。
追いかけっこが長く続いてしまうと、人通りが多い場所に出てしまう危険があるので望ましくはないが。
しかしこちらの伝えたいことがしっかり届いたのか、ゼロロクはあっさりと屋上から飛び降り、ゆっくりとこちらに向かって歩き出した。
「久しぶりだな、脇坂」
「……話したのか?」
すぐ目の前にやってきた怪人に声を掛けたが、完全に無視された。
いやまあ俺の言葉を聞いたからこそゼロフォーたちに問いを投げかけたんだろうけどさぁ。
なんだろう、なんか納得いかない。
しかし、ゼロロクの声を聞いたのはこれが初めてじゃないか?
なんというか、極限まで籠った脇坂の声って感じだ。
元女性のゼロフォーの声が明らかに男にしか聞こえないのでもう少し変化があるものかと思っていたが、個人差があるのかもしれない。
「そいつはちゃんと自分で答えに辿り着いたよ。褒めてやりな」
いや、いいよゼロフォー。
褒めていらないよ。
「そうか……。ゼロイチは、何故?」
ゆっくりと、視線を移しながら尋ねる脇坂。
まあそうなるよな。
「やあ、久々だね」
ゼロイチが、満面の笑みを浮かべながら手を振った。
いつもの貼りつけたニコニコ顔ではなく、心の底から再会を喜んでいるような笑顔だ。
もっとも、そんなしみじみとした時間は過ごせそうにないが。
「最近ゼロサンのところから連れて帰ってきたんだ」
「そうか……ゼロサンは?」
「ピンピンしてるよ」
脇坂は、静かにため息をついた。
そこに込められたのは落胆か、安堵か。
「あんたも、戻って来てくれないか」
いつどこかへ消えていくともしれないので、さっさと本題を切り出すことにした。
さて、どう答えて来るか。
「それは無理だ」
即答かよ。
「私はまだ……」
「でも、あんたが戻ってこなかったら、誰が俺達をもとの人間に戻すんだよ!?」
それ以上言わせてやるか。
こっちは言いたくても言えなかった文句が溜まってるんだよ。
黙って聞け!
「その時は君に任せるよ」
「無茶言うな!俺一人じゃどうしていいか分かんねえよ!」
「……本部に置いてある私のパソコンに、必要なデータは……」
ああ、もう。
「そんなこと言ってんじゃねえんだよ!!」
この分からず屋が。
「俺達がいるんだから、あんたは戦う必要なんかないだろう?」
その言葉は、自分でも驚くほど静かに発せられた。
思いの丈を、全部乗っけるくらいのつもりだったんだけどな。
「ならば、君が戦う理由もないだろう?」
「俺はヒーロイドだろうが」
言い切った途端、ゼロゴーが耐えきれないという風に噴き出した。
後で覚えてろよこの野郎。
「それは……」
「おかげさまでな」
それは私のせいで、とでも言おうとしたのか?
残念でした。
ニヤリと笑って見せると、脇坂はそれ以上何を言う気も無くなったようだった。
「なんにせよ、まだ戻るわけにはいかない」
「なら力ずくでも……」
「やめておこう、子供がいるじゃないか」
おっと、祐樹を連れて来たのが裏目に出たか。
チラリと見やると、祐樹は少し怯えたようにゼロイチの車いすの後ろに隠れていた。
「俺に任せといたら一生こいつらこのままだからな!俺の諦めの良さ知ってるだろ!?」
既に立ち去ろうと背を向けかけたゼロロクに、子供のようにわめきながら言葉を投げかけた。
「蒼汰クン~、それはひどいヨー」
一番どうでもいい奴から非難が来た。
ええい、お前は黙れ!
「心配しないでくれ、きっと戻る」
静かだが力強い脇坂の声に、俺はそれ以上言葉が出てこなくなってしまった。
俺達はそのまま、脇坂が立ち去るのを止めることも出来ないまま、その背中を見送っていた。
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