1と6
「さあ、準備万端だな!」
「お前、結構図太いよな……」
ゼロフォーが、呆れたように呟いた。
そろそろ暑くなってきた街の上には、高い青空がどこまでも伸びている。
気持ちの良い晴天で絶好のお出かけ日和ではあるが、娯楽施設や様々な店舗が並ぶ郊外の一角には俺達を以外には人っ子一人、犬一匹さえいなくなっていた。
そう、以前と同じパターンである。
一回使って有効だった手は腐るまで使い切る所存。
新しいのを考えるのは面倒だし不確実だからなぁ。
ほんの十分前まで学生や小さい子供を連れた母親でにぎわっていた通りは、ゼロフォー・ゼロゴーという二体の怪人の出現によりあっという間に静かになってしまった。
この二人が他の怪人とは違うことはMACTの関係者しか知らない。
何も知らない一般人から見れば、この二人は他の怪人たちと全く変わらない。
そして、俺はそれを上手く利用している。
既に怪人の出現情報はラジオやSNSを通じて共有されているだろう。
そしてMACTでもヒーロイドの出動を要請するアラームが鳴り響いているはずだ。
まあ、最近怪人が全く出てこないせいで今日のシフトは俺一人だった訳だが。
というか秘密裏に作戦を進めるためにわざわざこの日を選んだんだが。
車も通らなくなってしまった交差点の真ん中に陣取り、俺達はその時が来るのをじりじりと待っていた。
騒がしく、いささか緊張感に欠けるが。
「お兄ちゃん、僕ここに来てもいいの?」
「ん-、まあせっかく遊びに来たのを追い返すのも忍びないしなぁ」
今日会う相手的に大丈夫だとは思うけど。
俺の傍らには、丁度MACTに遊びに来ていた少年、祐樹が立っていた。
今朝突然遊びに来て怪人たちと鉢合わせたときには怖がらないかと心配だったが、どうやら何度もMACTに通ううちに、俺の知らないところで顔見知りになっていたらしい。
「まァでも、何かあったら僕が担いで逃げたげるから大丈夫ヨ」
「でもゼロゴーひょろひょろで弱そう~」
しかも何か妙に懐いてやがる。
解せぬ。
「実際、戦闘になった時に祐樹くんをどう逃がすかも作戦に組み込んでおいた方がいいね」
車椅子に座ったゼロイチは、いつもの柔らかな笑みを浮かべたまま提案する。
ちなみに、ここまではゼロフォーが彼を車椅子ごと背負って連れてきた。
意味ねぇ。
そうだなぁと頷きながら、今回の作戦の最終確認をする。
今回はゼロロク……脇坂に会い、MACTに連れ戻す。
「ゼロロクの正体は、脇坂だろ?」
先週俺が怪人たちに投げかけた質問には、明確な答えは返ってこなかった。
帰ってきたのは、ただの沈黙。
それだけで十分だった。
脇坂は以前、そろそろヒールに関わる全ての事柄に決着をつけると言っていた。
そのために、ゼロニーとゼロサンを倒す。
恐らく脇坂は、ヒーロイドの技術開発のための身体実験を自分にも行っていたのだろう。
その結果、人間の姿と怪人の姿を両方持ち合わせた、ヒールとヒーロイドの中間のような存在になった。
今まではその正体を隠していたが、一連の流れに終止符を打つため姿を消し、そして怪人となって現れたのだ。
しかし、そんなことをさせてやるわけにはいかない。
ゼロロクは強いが、ゼロサンはおそらく俺が今まで会ってきたどのヒールよりも強い。
刺し違えてでも、というつもりならば。
俺は何としてでもそれを止める。
……同じようなこと考えてる俺が、どうこう言えることでもないけど。
とまれ、脇坂はその目的のため、何らかの手段を使ってヒールの出現を察知し、現れたそばから消して回っている。
ならば、ゼロフォーとゼロゴーを街中に引っ張り出してくればゼロロクは現れるはずだ。
沢渡さんと戦った時に使った手段だが、脇坂には割れていないし上手いことおびき出すことが出来るだろう。
多分。
そして、説得を試みる。
もちろん、聞いてもらえないなら武力行使も辞さないが……出来るだけ避けたいところではある。
祐樹を連れて来たのも、子供がそばに居れば脇坂も暴れないだろう、と思いついたからだったりする。
通用するかは微妙だが。
そして、ゼロイチ。
彼がこの作戦のカギだ。
そもそも脇坂がヒーロイドの技術を作り出したのは、ゼロイチがかかった難病を治療するため。
今戦っている理由には、ゼロサンに連れて行かれたゼロイチの救出も含まれているはずだ。
詳しくは知らないが、それだけゼロイチと脇坂の間の繋がりは強い。
ゼロイチの無事を伝え、ゼロイチの口から説得をさせる。
さて、そんなこんなで交差点に陣取って十分ほど経った頃だろうか。
相変わらずの青空から差す日の光が、肌に痛くてたまらなくなってきた。
既にクーラーの効いた部屋が恋しい。
この頃すっかり眩しくなってきた太陽に目を細めながら、何の気なしに百メートルほど先にあるスーパーの屋上に、ちらりと目線をやった時。
そこに、あいつがいた。
一体いつからそこにいたのか。
こちらの様子を窺っているのだろうか。
微動だにせずこちらを見下ろすその様に、さっきまでの暑さが吹き飛ぶような悪寒が、ゾクリと背中を駆け抜けた。
そんな俺の様子に気付いたのか、ゼロフォーとゼロゴーが素早く俺の視線の先に顔を向けた。
「いやぁ、マジで釣れちゃったねェ」
「話し合いをするにはちょっと遠いな……どうする?」
各々、何かを感じ取ったらしく警戒態勢を取りながら次の行動について確かめ合う。
さあ、どうしてくれようか。
言いたいことも、するべきこともごまんとあるが、まずは一言。
来たな、ゼロロク!
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