ゼロイチの帰還

「なんだか、僕が居た頃とは全く違ってるね」

「あー、一回建物が全壊してな。建て直したんだ」

正確には二度だが。

まあそれを言うと色々ややこしくなってしまうのでいいか。


まだ少し冷たい風が吹く夜の中をよたよたと歩き、ゼロイチを背負った俺がMACT本部に辿り着いたのは午前二時を回った頃だった。


月が照らす闇の中に、MACT本部はただ静かに佇んでいる。

窓から漏れる光はまばらで、コンクリートの無機質さも相まって何となく寂しい。


窓の位置から考えると、あそこがゼロフォーとゼロゴーの部屋か。

まだ起きているんなら丁度良い。

色々と手伝ってもらおうか。


さて、何年ぶりかは知らないが。

久しぶりにここに戻ってきたゼロイチは、何を思うのか。


頭の右斜め後ろにある顔にどんな表情を浮かべているのか、今の俺には見ることが出来ない。


「かなり色々変わっちゃってるのになんだか懐かしいね!中はどんな感じかなぁ!」

意外と元気そうだ。



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「やぁやぁ、お久しぶり!ちょっと見ないうちに縮んだんじゃナイのォ?」

「さぁ、大きくも小さくもならないはずだけどね。ああでも、強いて言うなら動かないから筋肉は落ちてるかも」

部屋に入って早々、変な喋り方の不審者がゼロイチに駆け寄ってきた。


「ゼロゴーも相変わらず細いね」

「僕らは外側の大きさは変わんないよねェ。鎧着てるみたいなもんだからサ」

「ゼロイチ、そいつはまともに相手にしなくていい」


先にゼロフォーに声を掛けておいてよかったと切実に思う。

あの不審者はのらりくらりとしていて未だに扱いに困るからなぁ。


MACTに戻った俺は、外から明かりが見えたゼロフォーの部屋に直行すべく、すでに人がいなくなって真っ暗な廊下を走った。

死に物狂いのラストスパートである。


何回か転びそうになった。


ゼロイチの姿を見て初めは驚いていたゼロフォーだったが、すぐに俺の限界を悟り、ゼロイチを背負う役目を交代してくれた。


まあ、ゼロフォーのトゲトゲした背中ではゼロイチの乗り心地は最悪なので、抱き抱えるような形にはなったが。


とまれ、これもゼロフォーを先に訪ねておいて良かったポイントの一つだ。


俺が何も説明せずとも何かを察したのか、ゼロフォーが「ゼロゴーもまだ起きてるから、とりあえずあっちに行って情報を共有しよう」と言い出し、そのまま隣のこの部屋のドアを叩いた。


細身の怪人がいつも使っているハンモックにゼロイチを横たわらせ、今日の夕方に起こったことを説明する。


普段は厄介なゼロゴーも、この時ばかりは茶々を入れることなく黙って俺の話に耳を傾けていた。


「目的は復讐じゃない、か。生きる意味が欲しいとはまあ何とも……」

「まあ、人間社会の生活とかそういうモノに一番無関心だったのは彼だからねェ。最初の方とか『自分は失うものなんて何もない』みたいな感じでさァ~」

そういえばこの二人はゼロサンとそこそこ面識があるんだよなぁ。


「そういえば、ゼロイチ?ちょっと聞いときたいんだけどさァ。ここ二週間でゼロニーには会った?」

「え?そういえば会ってないなぁ。前はよくゼロサンに会いに来てたんだけど」

ゼロニーの質問に、ゼロイチが不思議そうにしながら答えた。


ゼロニー。

侍のような出で立ちのヒールは、矢面と直江さんの前で、ゼロロクとともにどこかへと姿を消した。


そして、それ以来どこにも現れていない。


仲間だったゼロサンなら何か知っていたかもしれないが、そういえばすっかり聞きそびれてしまった。


矢面を通じて渡されたゼロニーの愛刀のことを思い出す。


いつも持っていた刀を手放したこと。

ゼロロクと戦うことに執心していたらしいこと。


それらを考えると、ゼロニーはやはり……。


「まあ、彼も本壊だったのカナ」

「……そうか、ゼロニーは……」


俺たちの間に走った緊張感を感じ取ったのか、ゼロイチは悲しげに目を閉じた。

それはあるいは、手を合わせることの代わりだったのかもしれない。


ゼロニーは、ゼロイチを拉致したゼロサンの仲間だが、それ以上に古い知り合いだったのだ。

攫われたとは言え、ぞんざいな扱いを受けていたわけでもない。


その場にいる全員が、今はただ静かに、顔を伏せていた。


そもそも俺はあいつに殺されていたのに、ざまあみろとも思わないから不思議なものだ。


「さて、問題はゼロロクだよねェ。今はどこで何をしてるのやら……そもそも生きてるノ?ゼロニーと刺し違えたとかじゃないよネ?」

またこいつはそういうことを言う。


だが、湿っぽい空気を押しのけてくれたのはありがたい。

マイペースなようでよく見ているのがまたなんとも。


ゼロロクの話を出してくれたのは好都合だ。

今のうちに聞いておかなければなるまい。


「そのことだけど、ちょっといいか?」

「なーに?僕たちの知ってることならなーんでも教えてあげちゃうっ✩」

隠し事ばっかしてるくせによく言うよ。


改めて確認するまでもない程度には確信はあるが、ハッキリさせておこう。


ゼロロクの正体を。


突然現れたあの怪人は何者なのか。


なぜ今まで姿を現さなかったのか。

どうして今になって出てきたのか。

怪人を倒したのは?

ゼロニーが執着していたのは?


不可解なことばかりだが、実は簡単なことだったんだ。


そしてその答えを、こいつらは恐らく俺達の、ヒーロイド達のために隠していたんだろう。


「ゼロロクの正体は、脇坂だろ?」

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