彼女なりの苦悩
「うーむ、素早いな。当てにくくて仕方ない」
「必死で当たらないようにしてるんですよ!」
ヒーローと怪人が、舌戦と共に激しい攻防を繰り広げている。
そろそろ温かくなってきた青空の下。
久しぶりの怪人の出現のせいで静かになってしまったビル街で、後輩ヒーロイドの活躍を見守りながら、戦闘に入るタイミングをうかがっている今日この頃。
「直江さん!」
「は~い!」
ほんとは自分なんか必要ないほどこの子は優秀だと思うんだけど。
呼ばれてしまったからには行かないとだよね。
怪人の足元に体を滑り込ませながら、無駄に太い足の片方を腕でがっちり捕まえる。
後は力任せに体を起こして、足を持ち上げるだけ!
「ほいっと!」
「んっ?」
しかし敵もさるもの。
素直に転んでなどくれず、地面に刀を突き立てて前転運動を始めた。
このままでは足を掴んでる私ごとぐるりんしてしまうので、さっさと手を離した。
うーん、やっぱり刀を持ってるのは結構大きなアドバンテージだなぁ。
あんな怪人他にはいないよ。
一体元はどんな人間だったんだか。
剣道めっちゃ強いおじいさんとか?
さすがに本物の侍ってことは無いだろうけど。
装甲のデザインは着物チックで侍っぽいけどね。
綺麗な着地を決めた侍ヒール・ゼロニーの首を刈り取るように、矢面ちゃんが怪人の背後から素早く蹴りを入れる。
しかし、それも咄嗟のところでひょいと躱されてしまった。
毎度思うけどあの子はあれでよく戦えるなあ。
お面でかなり視界が制限されてるはずなのに。
まあ般若面だから威圧感はあるけど。
いやむしろ視界が狭まるから目の前の敵に集中できるとかあるのかな。
すごいじゃんそれ。
もう私いらないよ。
と言うか戦うの好きじゃないし、休んでちゃダメかな?
「直江さん!こいつ手強いです!」
「だねぇ」
言いつつ胴に一発拳を叩き込んだけれど、左手で受け止められてしまった。
やっぱり楽はさせてくれないか。
視界の上で刃がきらりと光るのを確認し、さっさと後ろに逃げる。
やっぱり獲物があるのは厄介だなぁ。
こういう時1.2だったら上手いことやるんだろうけれど。
私は戦いを避けてきちゃったしちょっと無理かなあ。
逃げてばっかりだったからなぁ。
MACTのことにも薄々気づいてたのに知らないフリしちゃってたし。
それで逃げるように休暇取って。
つくづく、なんで私ヒーローしてるんだろう。
「つっ……!!」
「大丈夫ですか!?」
「……動きが鈍ったな?」
鋭い刃が、わずかに左腕をかすめた。
ああもう、余計なこと考えなきゃよかった。
重症ではない、ほんのかすり傷ではあるけれど。
このやっちゃった感。
「大丈夫だから、落ち着いて行こうね」
私の言葉に素直にうなずいた少女は、改めて怪人に向き合う。
さ、集中していきましょ。
怪人が刀を中段に構えてこちらを迎え撃つ姿勢を見せる。
同時に、自分からは仕掛けるつもりはないということでもあるのだろう。
お互い嫌々ながらも争わないといけないのね。
いや、彼はゼロロクとは戦いたいだけか。
ゼロロク……あの人そんなに強いのかなぁ。
睨み合いの最中、必殺技を出すときと同じ要領で、体にまとった光を右腕へと集中させる。
そのまま五指の先へとそれぞれに集った光たちを、パッと払うように前方へ飛ばした。
「んっ!?」
ピンポン玉サイズの五つの光が、それぞれの軌道で侍目がけて飛んでいく。
あんまりこういう使い方する人いないけど、だからこそ虚を突けるよね!
光に気を取られている彼の元へ、最高速で向かう。
文章だけならかっこいいね。
大きく左に飛んで、光を躱す姿を確認。
まあその光、見かけ倒しだから避けなくってもいいんだけどね。
まんまとこっちの思うツボ!
着地の瞬間、一番無防備なところへ。
大きな獲物を握る右手を、下から思い切り蹴り上げた。
完全に不意を突かれ、宙を舞う白刃を呆然と見守る怪人。
咄嗟にもう片方の手を伸ばし、何とか空中でキャッチしようと試みているようだった。
ここからは武器の争奪戦だね?と思った刹那。
後ろから飛んできた桃色の光の矢が、上方へ伸びた巨大な腕をパアンと弾いた。
ナイス~~~~!!
凄い~~~~~!!
もうほんとにナイスタイミング!
普段出さないやる気を少し出した甲斐があったわ。
突然の衝撃によろめいた怪人を尻目に、私は悠々と、絶賛大道芸中のずっしり重たい刀をキャッチした。
その重量と落下の勢いに、腕がすとんと落ちそうになる。
筋力は強化されているはずなんだけど。
あんまりブンブン振り回すのは無理かなー、これは。
ていうかゼロ二ーさんはどんな腕力してるのよ?
とまれ、厄介な武器を取り上げられたことは大きいかな。
変わらずの般若面と、静かに頷き合う。
これは、意外といけるかも?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます