次の為に
「という訳で、しばらく休暇を貰う」
「何言ってんの、無断欠勤してたくせに。まあ仕事は無かったけどね」
「……本当はあまり負担を掛けたくなかったが……」
「いいのいいの。私とアンタの仲でしょ。それに、大体の事情は察してたしね?」
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さて、このパターンは何度目だろうか。
目を覚ますと、医務室の見慣れた白い天井が変わらぬ無機質さで俺を見つめていた。
この天井とももうすっかり顔見知りだよ。
いや、しかし見慣れた医務室の中でも見慣れないものが。
顔を上げれば動けないほど身体中に巻き付けられたギプスやら謎の機械やらが、視界の下の方に飛び込んでくる。
そうして、とても強力な自己主張をするのだ。
今までで一番酷い損傷だと。
特に腹が酷い。
ギプスの代わりに随分とメカメカしい且つラージサイズなベルトが巻かれ、ベッドに固定されている。
この状況だけ見たら治療より拷問という表現の方が正しいかもしれない。
「気が付いたかね少年」
「……直江さん、そんなキャラでしたっけ?」
どうやら丁度医務室に入って来たらしい直江さんに声を掛けられた。
そういえば、顔を合わせるのはずいぶん久々なような。
「なんだ、意外と元気だね?」
「それなら話は早いです」
随分と久しぶりな声だった。
ふむ、この少し早口気味で淡々とした調子の話し方は。
遠い記憶のそこから呼び起こされる姿が、目の前に現れる。
直江さんの後ろから、コマンダーがひょいと顔を出した。
久しぶりに顔を見たな。
レアキャラ過ぎて誰も覚えていないんじゃないか。
「起きたばかりで悪いのですが。軽く、今後のことを話させてください」
そこからはしばらく、ベッドに固定されたまま淡々と、スピーディで無駄の無い説明を聞かされた。
ちなみに説明の最中、コマンダーは納豆をかき混ぜることはなく、代わりとばかりに携帯で何やらしきりに文字を打ち込んでいた。
直江さんは横に座って説明を聞き、時々補足を加えた。
まとめると、大体こういうことらしい。
まず、俺は先日の沢渡さんとの戦いでまた体中がひどいことになっていて、丸一日眠り続けていたらしい。
この半年ほどこんなことばかり起こっていて、すでに時間の感覚がおかしくなっている。
そして、沢渡さんは前回の戦いで心変わりをしたのか、一線を退いて長期の休暇を取ることにしたらしい。実質的な退職だろうということだ。
検査の結果、沢渡さんの体は想像以上にボロボロだったらしく、立っているのも不思議なくらいだったようで、これからは治療に専念することになるだろうということらしい。
一方、脇坂不在の中ではあるがMACTは再び活動を開始。
コマンダーが指揮を執るのは変わらずで、技術面では他のスタッフがサポートしていくらしい。
それに伴いヒーロイド達の出動も増えることだろうということだが、俺は怪我のため当面の休暇を言い渡された。
なんにせよ、またヒーロイドが怪人と戦うことになった訳だ。
そういうことならば俺も次に備えておかねばなるまい。
説明を一通り聞き終えたころ、丁度睡魔が押し寄せてきたので、部屋を出ていく二人を見送りながら俺はゆっくりと、深い眠りについた。
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「あなたが先輩を殺したんですね……」
「何を言っている?生きているではないか」
「そうではなく!!あーもー、やりづらい!!」
この子は本当に真面目だなぁ。結構苦労してそうだ。
目の前に立つ侍のような怪人を睨みながら叫ぶ後輩を、心の中で応援しながら静かに構える。
さて、どうしようか。
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