1.0
両親が死んだのは、丁度一年前だった。
両親と、三人で晩飯を食いに行くところだったか。
歩道に突っ込んできたトラック。
あっという間に。
たかなうどんの店長に面倒見てもらって。
一人暮らしを始めて。
学校にも、段々行かなくなって。
それから、えっと…
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なんとか痛みを堪えてよろよろと立ち上がると、視界を取り戻したらしい沢渡さんが驚いたように目を剥いた。
「……まだ立ち上がるのか」
「いやいや、まだ全然余裕ですよ……」
「オーバーヒートしているくせにか?」
沢渡さんの言葉にチラリと自分と体を見ると、なるほど確かにさっきまで俺の体を包んでいた光はどこかへと消えてしまっていた。
あー、そうか。
ますます勝ち目が遠のいたな。
「光が無い状態で戦ったりしたら、今度こそ本当に死ぬぞ」
確かに、ヒーロイドの体を包む光ってのは怪人の装甲同様、体を守る鎧みたいなものだからな。
怪人よりも圧倒的に強い沢渡さんの猛攻を受けてまだ立ち上がれるのも、光があってこそ。
こんな状態で戦うのは、防具を着けずに竹刀で打ち合いするような物か。
それに、光が消えたということは変身が解けたということだ。
つまり今の俺はヒーロイドの力も発揮できない、ただの人間だ。
まあどうせ変身したところで1.2倍にしかならないんだけど。
「ふふ、それはね……」
頭上で両手を交差させる。
目潰しが来る、と思わせるしかない。
一回オーバーヒートしてしまうとしばらくは変身できないし。
ハッタリをかますしかないよな。
「変身!」
素早く、両腕を振り下ろした。
当然、何も起こらない。
沢渡さんも、微動だにしなかった。
っはー、全部お見通しっすかぁ。
いやはや、どうすっか。
「変身、出来てないじゃないか」
「違いますよ、これ最強フォームです」
「最強フォーム?」
「ヒーローものとか見ないんですか?変身ヒーローは、パワーアップすると姿が変わるんですよ」
ニヤリと、不敵に笑ってみせる。
もはや何の効果も無いけれど。
「パワーアップして、姿が変わったから光が無いとでも?」
「ご明察!でも、無いんじゃなくて見えないんですよ」
そう、俺の心の中にはまだ光が!
なんて……そんな余裕も無いけどさ。
だが、まだだ。少しでも心を惑わせろ。
まだ何か、秘策を隠し持っているように振る舞え。
警戒させろ。動きを鈍らせろ!
そして勝てると思い込め!!
「……本気で死ぬ気か?」
「お互い様でしょうよ」
自分だけ犠牲になろうとしてるくせに。
「あんたが俺達を守るために死ぬなら、俺もあんた守るために死ぬ」
ふと、目の前に立ちはだかる青い光が、少しだけ揺らめいた気がした。
「あんたに言われたこと、忘れてないからな!!」
言い切るや、一歩踏み出す。
足がぶれる。本当はもう、走るなんて無理だ。今すぐ地面に倒れ込んでしまいたい。
いや、実際倒れている。前のめりに。
倒れる度、転ぶより早く次の一歩を踏み出している。
そうだ、あんたに言われたんだよ。
泥にまみれても守るべきものを守るのが、ヒーローだって。
拳を握りしめる。
この期に及んで愚かに、無様に。
大振りの一撃を。
そんな正面からの一撃を避けるでもいなすでもなく。
沢渡さんは、手のひらを突き出して受け止めた。
拳がその手に軽く触れた瞬間。
目の前の青い光が消えた。
「オーバーヒート!?」
「へへ、大当たりー……」
当初の狙い通り、スタミナ切れまで持ち込んだ。
ゼロフォー、ゼロゴーとの戦闘、そして俺が時間を稼ぐことでオーバーヒートを狙う。
それが俺達の作戦だった。
いや、作戦なんてものじゃない。
結局、実力の差が大きすぎてそこに賭けるしか無かっただけだ。
さっきの僅かな光の揺れを見つけられたのは僥倖だった。
あれは光が消える直前の、兆候だった訳だ。
「なるほど、そういうことか」
流石は初代ヒーロイド。
こんなときでも冷静さは損なわない。
魂胆が割れた瞬間に逃げられて終わりだったが、まあなんとかなったか。
「そういうことでした。さあ、これで条件は一緒ですよ、なんせ今は……お互い……」
あれ……?
頭が……
まずい、緊張の糸が切れて……
ダメだ、まだここからなのに。
ゆらりと、前方に向けて体が傾いた瞬間。
誰かに、そっと体を包まれた気がした。
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