1.2

とにかく膝が痛い。

戦闘中だというのに何を呑気な……と思わないでもないが、痛いものは痛い。


まさか、膝蹴りに頭突きで返されるとは思わなかった。

普通にぶつけ合うだけなら頭突きに負けはしないだろうが、猛スピードでぶつかりに行っていたところに、咄嗟に頭突きで返されては、自分のスピードまでもが自分に牙を剥く。


流石は最強のヒーロイド。

対応力お化けか。

その身体能力もそうだが、何より圧倒的な経験値とそこから来る冷静さが最強たる所以だろう。


……なぜ俺は敵を褒めているのか。

仕方がない。今は戦っているが、本来なら沢渡さんは頼れる味方であり、尊敬する先輩だ。

戦いの目的だって、一人で危険な戦いに身を投じようとする沢渡さんを止めることだ。


しかしこのままでは勝ち目が無いぞ。

さっきだって何重にもだまし討ちをかけて一撃入れたのに、むしろこっちの方が痛手を受けている。

確認できなかったが、向こうには一体どれくらいのダメージが入ったものだろうか。


チラリと顔を上げて様子を窺うと、沢渡さんはまっすぐにこちらを見据えたまま、ファイティングポーズを取っていた。

しばらくそのまま静止していたかと思うと、ふと何かに気が付いたように視線を巡らせる。


うーん、あんまり効果無かったかな。

何故頭vs膝でこちらが負けるのか。

こちらの言うことにも耳を傾けないし。とんでもない石頭だぜっ!二つの意味でなっ!


などと、使い古されたギャグを言っている場合では無いのだ。

頼みの綱のゼロフォーは真っ先にダウンしてしまったし、ゼロゴーも思った以上の活躍はしていたが必殺技で倒されてしまった。

まあいい。これも作戦通りだ。


しっかり時間稼ぎもしてくれたし、大技まで引き出せたのは上々。

あれを使っておきながらオーバーヒートを起こしていないのには驚いたが、まあ多少出力をセーブしたんだろう。

なんにせよ、俺にあの技を使うことはできないはず。……だよ、な?


まあ多分大丈夫だろう!

瞬殺されないのはありがたいぞ。

と、そこまで考えたところで、再度沢渡さんが動いた。


スパァンッ!

と、無言で顔面に一撃。

痛みを感じるよりも先に吹っ飛ぶ体。


あ、前言撤回。

瞬殺されかねない。


「あいだだだだ!?!?」

不時着の衝撃と顔の痛みが同時に襲ってきて、自分でもどうなっているのか分からない感じに悶える。

まずい、全身が痛い。

しかも顔面への衝撃のせいで、意識がくらくらとする。


これはよろしくない。

今までで一番よろしくない。

こんなピンチは、初めて一人で倒したウサギヒール以来か。

はたまた、ゼロフォーと戦った時以来。

いやしかし、今回は相手を突き落とせるような高さも無いし、他力本願をする味方もいない。


もしやこれは詰んだか?

いやいや!しかしここはぶん殴ってでも……と言うよりいくらぶん殴られても沢渡さんを連れ戻さなければ。

このままあの人を犠牲にしたら、きっと後悔する。

人生は、諦めどころを見極めるのが肝心だ。

ここは諦めないところ!


今度こそ、目の前の人を助けなければ。


「はっ!!」

起き上がりざまに、腰にさしていた銃を素早く引き抜き、引き金を引く。

普通の拳銃より火力はあるが、ヒール相手には火花を散らして威嚇するしかないような、ひ弱な武器。


ヒーロイドには、どうだろうか。

ヒーロイドの光は鎧だ。怪人の装甲と同じようなものだから、まあ効かないだろうなぁ。

分かってはいるが、何もせずにただやられる訳にはいかない。


弾丸を発射した瞬間、反動で後ろにぶっ倒れる。

思っていた以上に平衡感覚がやられている。バランスが取れない!

またしてもアスファルトに後頭部をぶつけたが、色々とマヒしすぎてさほど痛みは感じなかった。

しかしこれじゃあ、効く効かない以前に、当たったかどうかも分からないな。


もう一度立ち上がろうと地面に手をついた瞬間、体の真上に、青い光が飛んできた。

いや、違う。青い光に包まれたそれは。

鬼の形相を浮かべた初代ヒーロイドが、俺の腹部に向かって、真上から拳を振り下ろした。


「おがぁっ!?」

「ふんっ!」

二発目、次は顔面。

これは咄嗟に腕をかざしてガードしたが、がら空きになったボディに、足からの一発目をもらった。

口から内蔵が飛び出しかねないぞコレ!!


「ふんっ、がぁっ!!」

やられっぱなしではいけない。

あっという間に沈黙させられてしまう。

そう思い、反撃するため少しずつ体をねじる。

咄嗟に体を丸めることで、再度振り注いできた打撃をガード。


そのまま、腕に仕込んだナイフを取り出し―――


ペキンッ!


なんということか。

頼りの白刃はいともたやすくへし折られてしまった。

ヒーロイドを装甲の間から突き殺す薄く、鋭い刃は、横からの打撃であっけなく吹き飛んだ。

手元には短い柄だけが残る。これではなんとも心もとない。


あ、無理。心まで折れそう。

折れてやらねえけどな!


右腕にためた光を、上に向かって突き出し炸裂させる。


「っ!?」

単純な目潰しだが、攻撃の手をいったん緩めさせるくらいは出来っ……


横っ面を思い切り殴られたらしく、頭に引っ張られるように体が右側へスポーンと飛んだ。

視界を奪われたとみるや、強引に距離を取られたらしい。

強すぎる。


何を仕掛けても冷静に対処される。

奇襲とだまし討ちでしか勝ち目が無いのに、たとえ先手を取っても難なく跳ね返されてしまう。


ダメージはほぼゼロ対HPゲージ赤。


さーて、どうしたものか。


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