04
私は、普通の女の子だったと思う。
生きるのはめんどくさい。
でも特別死ぬ理由もない。
好きなものを食べて、見て、遊んで、それなりの幸福を味わいながら、人並みの悩みを抱えて苦悩する。
死にたいほど苦しいこともあるけれど、一度きりの人生なのですぐに死んでしまうのも勿体ない。
そんな普通。
まあ死ぬほどやりたいことがいつか見つかるかもねー、なんて。
そんなふうに漠然と生きていたある日。
不治の病が発覚した。
わー、ドラマみたーい。
最初に出てきたのは、そんな呑気な感想だった。
我ながら無味乾燥な感想。そしてそのまま人生を完走。
間奏。
でも現実はそんなにドラマチックじゃなかった。
あと一年で死ぬなんて言われても、イマイチピンと来ないしね。
だから死ぬ前に何かをなんて情熱は湧いてこなかった。
ただ、これ以上何をしたとてどうせ死んでしまうのだと、それだけは理解したので何をする気力も起こらない。
これはさすがにまずい、と思い死ぬまでにやりたいことリストを作ってみた。
お、これなんか映画っぽいんじゃない?と思いながらやりたいことやりたいことやりたいこと……
五つほど書いたところで、ペンと頭が止まった。いや、と言うよりは何かが噛み合わなくて空回ってるような……?
ようやく出てきた五つも「焼肉に行きたい」みたいなしょうもないものだったので、それ以上考えてみる気すら無くなった。
かけがえのない日常を実感する訳でもないが、確実に自分の中から何かが失われたような気がする。
何かが何かは分からないけれど。
そうして鬱々としていた私にもある時、光明と呼べそうなものが見えた。
私が、と言うより私の家族がその希望にすがりついてくれた訳だけど、まあなんて言うか。
結論から言えば、そいつは光なんかじゃなかった訳で。
病気は治ったけれど、それ以上のものを失ってしまったような。
蛇足だけれど、焼肉はまだ食べてない。
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私はいい加減うんざりしていた。
いつまでこんな姿でいなければならないのかと。
そりゃ元々絶世の美少女だった訳では無いけれど、今のこのトゲトゲの怪人姿よりはよっぽど見るに耐える容姿だったと思う。
病を治すためとはいえ、その代わりに身長が一メートル近くも伸びて鎧を着たようなとんでもない姿になるというのはどうなんだ。
まあね?自分がここに出てくれば普通の人達は逃げて行くだろうと思って、むしろそれを狙って出てきましたよ?
でもいざキャーキャー言いながら逃げられると少し傷つくんだよなぁ……。
まあでもね、それが普通なんですよ、普通。
かつての普通だった私も同じように逃げるわ。
……いや、案外面白がって観察していたかも?
しょーもない事だと思っていたものが実は自分の中では大きな存在だったなんてのはよくある話だけれど。
私にとっては普通であることと焼肉屋がそれだったみたい。BBQも楽しかったけどね、焼肉屋も行きたいなぁ。
なんて、そんな取り留めも無いことを考えながら、私は青い光を伴った拳をいなし、伸ばされた青年の腕を掴んだ。
普通と肉と女の子らしさを失った私が手にしたものは、見た目どおりの戦闘力。
単純な腕力脚力反射神経はもちろん、動体視力やら傷の回復力まで、戦闘に役立ちそうなスキルばかりがめちゃくちゃに上がった。
まあ体がでかくなって力が強くなるってのは、どう転んでも最終的に戦闘力に繋がって来るんですな。
ちなみに、女の子らしさは自主返納させて頂いた。
こんなナリで「戦うなんて、私怖いわ!」なんて言いたくないもんね。
元々大して女の子らしくもないけどね。思い浮かべる女の子らしい女の子像も変だし。
ゼロフォーは元おっさんだと思われてる気がする。
印象操作の犯人は私だけど。
投げ飛ばされた青年はしっかりと足から着地し、体勢を崩すことなく立ち上がった。
さすが、戦い慣れてるよね。
対する私は戦闘技術とかないですし?勝てる気がしないんだけど。
体に纏っていた光が、徐々に弱まっていく。
スタミナ切れかな?
全身に力を込め、気合いを入れ直すと弱まっていた光が少しだけ強くなる。
ヒーロイドと違って、この体には「オーバーヒート」なんていう安全装置は無い。
力さえ入れ続ければ、死ぬまで命を削り、灯を燃やし続ける。
まさに命懸け。必死。魂を込めて。
最後の光を拳に集める。
ヒーローの必殺技を見様見真似でやってみた。
にわか仕込みの大技。
警戒を強めた青いヒーロイドは、攻撃に耐えるため身構えた。
冷静にこちらの動向に目を凝らし、次の出方を伺っている。
このままじゃ避けられて終わりなんてことも有り得るよね。
狙いを定めながら、相手に気づかれないように、体を覆う光を少しずつ移動させる。
よし、今だ。
真っ直ぐ一歩を踏み出し、突撃しながら大ぶりで拳を放つ。
脚力、腕力共に人間が追いつけない領域。
常人はおろか、アスリートだろうが格闘家だろうが避けられない速度。
恐らくトラックの二、三台は簡単に粉々にしてしまえる威力の一撃は。
いとも容易く躱された。
最低限の動きで右に体をずらしたゼロナナの横をすり抜け、背中合わせの形になる。
しかしここまでは読み通り。
拳の光はそのまま腕を伝い、さっきから少しずつ光を集めていた背中のトゲに一気に移動する。
トゲの間を光が行き交い、加速し、放出される。
「ぐあっ!?」
手応えは無いが、ゼロナナの悲鳴が聞こえたので多分大当たり。
よしよし、意外といけるじゃんと思った瞬間。
後頭部に、大きな衝撃が……
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