ゼロフォーVSゼロナナ

 突如街中に現れたトゲトゲヒールの姿に、街を行く人々は驚き、怯え、逃げ惑っていた。


「MACTに引きこもっていたんだろう?今更こんな所に出てきて、何をするんだ?」

「まあ、あいつのやりたいようにやらせてやろうと思ってな?」

 周囲の騒々しさを他所に静かに言葉を交わしている二人。

 ……少しは周りも気にしてくれないかなぁ、と思いながら、思わず顔をしかめてしまう。

 ついさっきまで結構人がいたはずなのに、あっという間に人混みは遠く離れ、周囲は既に無人に近い状態になっていた。


 蜘蛛の子を散らすように、というのはこういうのを言うんだろう。

 逃げて行った通行人の中には数人、適当に距離を取り、何やら騒ぎながら遠巻きに見物を始める者もいた。

 危ない気はするけど、まあいざとなったら自分から逃げてくれるか。


「ちょっと待て!!なんでお前出てきちゃったんだよ!?大騒ぎじゃないか!!」

「だが人がいなくなって戦いやすくなったろう?」

 なんだと!?俺たちが戦っても周りに被害が出ないように出てきたって言うのか!?


「後々面倒だろうが!!」

「そりゃ変身してる時点で一緒だ」

 余裕たっぷりにそう返してきたゼロフォーに、それ以上の口答えが出来なくなる。

 やっぱりこいつ根本の考え方が俺と同じなんだよなぁ……。


 まあ一旦こんな騒ぎになってしまったら仕方がない。

 夕方のニュースは免れないだろうし、MACTから面倒な処分も下るだろうが、今はとりあえず考えないことにする。

 目の前の敵に集中しよう。


「もゥ始まっちゃってたァ~?」

 突如、後ろから軽薄な声が聞こえてくる。

 普通の人間なら近づかないような場所に軽々やってきて、こんな変な調子で喋るのは……


「ゼロゴー……お前も来たのか」

「えー、蒼汰クンが呼んだんじゃナイの~」

「色々思ってたのと違ったもんで……」

 振り返るとそこには細長いナリの怪人が立っていた。

 顔まで装甲に覆われていて表情は分からないが、声の調子や雰囲気から、ニヤニヤしてそうだなー、と思わずにいられない。


「……どうやら逃がしてはもらえないらしいな」

「そうだ、俺達は今日、どうあってもお前を連れ戻すために来た」

「……それ俺のセリフなんだけどなぁ……」

 既に沢渡さん対ゼロフォーが始まりそうな空気になっている。

 言わば一触即発。

 さっきまで逃げていた沢渡さんも、とうとう観念したように


 先手を打った。


 全身に纏っていた鮮やかな青い光が揺らめき、次の瞬間には三メートルほど先で向かい合っていたゼロフォーの顔に、回し蹴りを叩き込む。

 岩をハンマーで思い切り殴ったような、鈍く響く轟音とともに、青い火花が激しく飛び散り、同時にゼロフォーの体が白い閃光に包まれた。

 視覚、聴覚共に強い刺激を受け、咄嗟に顔を背ける。


 数秒の間を置いて俺が見たものは、蹴りを放った姿勢のまま硬直している沢渡さんと、ヒーロイド同様に全身から光を放ち、飛んできた蹴りを腕で受け止めるゼロフォーの姿だった。

 そのまま固まった二人は数秒微動だにしていなかったが、ゆっくりと姿勢を崩し、お互い目の前で無造作に向かい合った。


「お前は、戦うのは嫌いじゃなかったか?てっきり戦闘能力も並以下だと思っていたんだが」

「能ある鷹は爪を隠すのさ。それに、こっちはお前と違って全身怪人になってんだ」

「……戻りたいとは思わないのか?」

「戻りたいけどな、俺も平岩と同じだ。お前を犠牲にしてまで戻ろうとは思わん」

 静かに言葉を交わす二人。

 何か因縁ありげな言い方だな?


「別にお前とそこまで親しかった覚えは無いんだが」

「元々そういう性分なんだよ。誰かを傷つけてまで利益を得たいとは思えないんだ」

 いやなんにも無いのかよ。

 というか、怪人の言ってることが怪人らしくなさすぎるんだが。

 俺より正義の味方っぽいってどうなの?


「ゼロゴー。助けに入らないのか」

「蒼汰クン、すでに自分が助けになることを諦めてるよねェ……。まあ、僕もあれはちょっと無理カナー」

 そういえばゼロゴーが戦っているところは見たことが無いな。

 ファーストコンタクトは話し合いだったし。

 なんにせよ、しばらくは横で見ていることになりそうだ。


 とりあえずいつでも助けに入れるように戦況を見つめる。

 ヒーロー対怪人という構図だが、自分が応援しているのはあくまで怪人側というのがなんとも。

 いや、小さい頃見ていたアニメなんかではしばしば悪役を応援していたっけ。


 と、しょーもない思考が頭をよぎった瞬間。

 二度目の衝撃が空気を揺らした。


 さっきまで何の構えもしていなかった二人の間に、一瞬で攻防が始まったのだ。

 今度はさっきのように一撃では終わらず、一秒と間を置かずに二度目三度目の衝撃が地面を揺らし、空気を震わせる。


 ……いやはや、これはひょっとして、我々が助け舟を出す余地は無いのではなかろうか。

 途切れることなく続く衝撃の波を全身で感じながら隣のゼロゴーをちらりと見ると、依然としてニヤニヤとした空気をまといながら目の前の戦いを眺めていた。


 ……どうなるんだ、コレ?







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