VS初代ヒーロイド
MACT施設内にサイレンが鳴り響く。
「なんだ!?」
「あ、やば」
MACTの廊下でそのサイレンを聞いた俺は、慌てる職員の横をすり抜けて駆け出した。
「サイレンのスイッチは切ってあったはずなのに……」
不思議そうにぼやく職員を尻目に、二回目は無理かもなと思いながら、全速力で走る。
いつものたまり場に駆けつけると、MACT全体の活動が停止しているためにそこは無人だった。
そもそも今のMACTに出勤してきている人間自体少ないのだ。今この施設の中には最低限の人間しかいない。
部屋の上に掛けられているモニターの電源を入れて、怪人が出現した場所を確認する。そんなに離れた場所ではないな。
まあチャンスがほとんどない以上、どれだけ離れていても向かうしかない訳だが。
液晶に映し出された地図とピンが立てられている場所を頭に叩き込んだ俺はもう一度、次は寒風吹きすさぶ外へと走り出した。
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無人の交差点で、怪人が爆発する。
その爆発に背を向けて、今まさにその場を立ち去ろうとしている青い上着の青年。
随分と久しぶりな気のする、それでも見慣れたその背中を追いかけ、俺は声を張り上げた。
「沢渡さん!」
「……平岩?」
振り向いた初代ヒーロイドは、怪訝そうな目でこちらを見つめた。
涼し気な目が細められ、こちらを射抜くように鋭くなる。
無表情の裏では、なぜ俺がここにいるのか、なぜここが分かったのか、何をするために来たのか思考を巡らせているのだろう。
「何をしている?」
「怪人が出てきた所が分かれば、会えるんじゃないかと思ってね……」
「……お前、俺がヒールを倒すの待ってたろ」
図星を付かれて咄嗟に顔を背ける。
いやだって戦えませんもの。
怪人が出現したのはMACTからほど近い街中の交差点で、走ればすぐに来られる距離だったため、矢面とヒール組に場所だけ連絡して飛び出して来たはいいが。
思ったより早く現場に着いてしまい、沢渡さんがバリバリヒールに鉄拳を食らわせるところが見えたので建物の陰に隠れていたのだった。
そもそも、沢渡さんと話をすることが目的だったんだ。
怪人と戦っているところにしゃしゃり出ては、上手くいくものもいかないだろう。
しかし、この戦いを最後にさせなければならない。
ヒーロイドは戦う度に寿命が縮む。
俺や矢面を守るために自らの身を削っている沢渡さんを、これ以上戦わせてはならない。
「まあいい。俺はもう行くぞ」
「待ってください!MACTまで着いてきてもらいます。怪我してもまともな治療も受けずにいるんでしょう!?」
「……今のところ怪我は大丈夫だ」
違う!!怪我だけではなくて!!
「聞きましたよ!ヒーロイドは……戦えば寿命が縮むんでしょう!?」
「そうか、聞いたか……。なら分かるだろう、俺が戦う理由も」
「身を削ってまで守ってもらおうとは思いません、少しは俺たちのことを頼ってくださいよ!」
「俺もお前たちを犠牲にしてまで守って貰いたいとは思わないんだが」
うーむ、これはどう説得しても無理なやつだ。
いやはや、どうしたものか。
「なら……ぶん殴ってでも連れ戻します!!」
両手を頭上で交差させ、ゆっくりと振り下ろしながら、叫ぶ。
久しぶりの
「変身!!」
全身から眩い光が放たれる。
全身に淡い光を纏いながら、俺は沢渡さんと向き合った。
「ヒーロイドの変身は禁じられているはずだろう」
「そんなこと関係ねえんですよ!」
そう言ってのけた俺にとうとう観念したのか沢渡さんは……瞬時に振り返って全力で逃げだした。
「ああっ!?」
それを追いかけて俺も思わず走り出す。
まあ逃げられることも多少は想定していた。
俺達を守ろうとしてMACTを出て行ったのに、俺と戦っては意味が無いからな。
しかしだからこそ、そう簡単に逃がしてやるつもりは無い。
何せこっちは、ぶん殴ってでも連れ戻すつもりでここに来たんだ!
さっそく腕を伸ばし、ワイヤーを発射。
走っている最中の沢渡さんの腕に見事に命中、巻き付いて一瞬仰け反らせたが、その瞬間沢渡さんの体から青い光が放たれ、変身後のパワーで引きちぎられた。
変身による体への負担も少なくないはずなので、出来るだけ変身させずに連れ戻したかったが、後々のことを考えると仕方がない。
これ以上あの人を一人で戦わせておくわけにはいかない!
とはいえ、1.2倍の力しか出せない俺と沢渡さんでは、脚力に差がありすぎてグングン引き離されてしまう。
さっきまでいた場所は、怪人の出現で人気が無くなっていたが、走る度段々と人通りが多くなり、衆目を集めていることがハッキリと分かる。
二人のヒーロイドが追いかけっこをしている異常な光景に、街がにわかにざわつく。
……この後MACTに戻るのが少し怖くなってきた。
いやいや、自分のことを考えている場合じゃない!
人混みに紛れる沢渡さんを見失わないように、人の間をすり抜けながら走る。
青い光を纏った背中が小さくなっていく。沢渡さんが角を曲がり、俺の視界から消えたその瞬間。
「うわぁっ!?」
「なんだ!?」
「か、怪人!!」
角の先から、大勢の悲鳴が聞こえてくる。
相当に遅れをとりながらも、俺がようやくその角を曲がると、そこにはさっきまで追いかけていた青い背中が見えた。
そしてその行く手を遮るように立ち塞がる巨体。
「お前までこんなところに出てくるとはな……」
「緊急事態なんだ、仕方ないさ」
ゼロフォーが、そこに立っていた。
その日二度目の怪人の出現に、街を行く人々は皆一様に悲鳴を上げながら逃げて行く。
ちょっと待て、お前こんな所に出てきちゃダメだろう!?
人目に付くのはまずいぞ!!
確かにいざという時のために場所は伝えておいたが、それはあくまで怪人のせいでその辺に人がいなくなっている状況が前提。
……いやはや、これは下手したら事態が悪化したかもしれないぞ。
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