出動するヒーロイド

『もう、ヒールには関わらないでくれ。あとは全部、俺に任せてくれ』

 何度もその言葉を反芻する。

 そして、思い出すたびに思う。

 ふざけるな、と。


 俺の怒りは、最高潮に達していた。


「と、言うわけで。サイレンのスイッチを入れてきた」

「ちょっと何やってるんですか先輩!?」

 いつもの溜まり場。

 とは言っても最近はMACTの中で集まることも無かったから久々だが、相変わらず機械類に囲まれごちゃごちゃとしたこの部屋で、俺と矢面は広いテーブルを挟み、向かい合うように座っていた。

 そして、俺の隣にはゼロフォー、矢面の隣にはゼロゴーが座り、こちらはヒール同士で向かい合っている。


 なぜこんな奇妙な組み合わせで顔を突き合せているのか。

 改めて考えてみれば我ながらよくもまあこんなメンバーを集めたものだと思うが、これにはきちんと理由がある。

 率直に言えば、「ヒーロイドの寿命について知っている者」だ。


 先日のゼロサンとの遭遇で、俺と矢面はヒーロイドについての思わぬ秘密を知った。

『ヒーロイドとヒールは、戦えば戦うほど寿命が縮む』……。

 その事実は、ヒールの正体よりもさらに厳しく守られた秘密だった。

 俺も矢面もこの事実を知らされた時の衝撃は計り知れない。


 しかし熱が冷め、冷静な頭で考えてみれば頷ける話でもあった。

 1.2倍の力しか出せない俺はともかくとして、改造人間の出せるパワーは、とても常人の耐えられるものではない。

 いくら体の一部を機械化して補助していようとも、だ。


 この状態はゼロフォー曰く、「体の中にある有限のリソースを無理やりに引き出しているような感じ」らしい。


 とまれ、この事実を知っているのは改造人間の技術を開発者した脇坂と 最初に生み出された七人の改造人間、そして俺と矢面だけだ。

 直江さんも何か知っている可能性はあるが、知らなかった場合やぶ蛇になりかねないので声をかけるのはやめておいた。

 脇坂もいない状況だし、MACTの職員の中にも特別信用出来る者はいない。

 大谷は多分何も知らないし色々と論外。


 そういう訳で、事情を知っているMACT側の信用出来る者として、矢面とゼロフォーゼロゴーを集め冒頭に戻る。


「サイレンってアレかナー?怪人が出たらレーダーが反応して鳴るヤツー。そういや最近鳴らないよネェ…」

「MACTはヒールに関わらない方針を固めたからな。レーダーもサイレンも機能がロックされている」

「そうだったんダー!興味無いから知らなかったァ〜」

 ゼロゴーは相変わらずの飄々とした態度で、問に答えたゼロフォーと共に力が抜けてしまった。

 イントネーションが独特な話し方に、一同はどうにも調子が狂う。


「アッ、じゃあ蒼汰くんがその電源を入れてきたってことはァ〜、怪人が出たらまたウーウー鳴るんだネ?」

「その通りだ。でも目的は怪人じゃない」

 昨晩、コントロールルームに忍び込んだ俺は、サイレンとレーダーの機能を再び稼働させた。

 複雑なプログラムもなく、オンとオフだけだったのでスイッチを入れるだけで済んだのはありがたい。詳細な設定無しにどの程度機能するのかは分からないが。


 とまれ、これで怪人の出現を装置が知らせてくれることになる。

 ニュースやSNSで情報を集めるよりも手っ取り早くて、全時間帯に対応できるため、レーダーは必須だ。

 幸い、MACT全体としてあまり活動をしていないため、コントロールルーム自体ほぼ使われずにいる。職員にバレることは無いだろう。


「どうやってるのかは知らないけど、沢渡さんは今一人で、怪人を見つけ出しては始末して言ってる。怪人越しに沢渡さんに接触するぞ!」

 矢面が、不安げに俺の方を見ていることに気がついた。そういえば、今日はお面をつけていないんだな。


 ヒーロイドは戦うほどに寿命が削れる。

 沢渡さんは俺達を守るために一人で戦い、全てに決着をつけるつもりだ。

 自分の命を削って……。


「会ってどうするのか、聞いてもイ~イ?」

「もちろん、一人で戦うのをやめさせる」

 俺の言葉に、ゼロゴーが笑い出した。


「なんでさァ……わざわざそんなことするノン?せっかくゼロナナが全部決着つけてくれるんだョ?寿命が縮むってんなら尚更、後は任せとけばイイのに〜」

「なんでそんなことを……!?」

「蒼汰くんは……アイツの覚悟に水を差すの?」

 ゼロゴーの声が急に低く、冷たくなり、俺は言葉を失った。

 しかし、すぐに再び口を開く。


「沢渡さん一人を犠牲になんかしない。俺は、沢渡さんのことも守りたい」

 目の前で命の危険に晒されている人が居るのに、見捨てることなんてできる訳が無い。

 それが沢渡さんならば尚更。


 あの人には、何度も助けられてしまってるしな。


「1.2倍なのにィ〜?」

「1.2倍だからだ!!」

 何故か楽しそうな声で茶化すゼロゴーに、断言する。

 大丈夫、俺の予想が正しければまだなんとかなる。

 今はこの可能性に賭けることにしよう。

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