ゼロロク
人通りの少ない駅前の住宅街にて。
俺たちの目の前では、タヌキのような姿をした大型の怪人を更に大型の怪人が殴り、吹き飛ばすという異様な光景が展開されていた。
吹き飛ばされたタヌキヒールはそのまま地上から五メートルほど上で爆発。
辺りに爆音が響き尋常で無い熱が押し寄せる。
俺と矢面は咄嗟に身をかがめて衝撃から身を守ったが、謎のヒールは殴った後の姿勢のまま何をするでもなく、ただその爆発を眺めていた。
とんでもない熱に体が包まれる中で、目を細めながら微動だにしない怪人を睨む。どれだけタフなんだよ!!
「なんなんだよ、あいつは……」
「分かりません、あんなの見た事がない……けど、何か……」
「ああ、見覚えがある。あれは……」
特定の動物を想起させない、ゴツゴツとした装甲で覆われた肢体。兜の様な殻には横のラインが一本入り、僅かに目が覗く。そしてその下には
肩口から生えた大きなトゲと、それに負けない巨体。
そうだ、あいつは似ているんだ。
かつて俺がトゲトゲヒールと形容したゼロフォーに。そしてゼロフォーにそっくりのゼロサンに。
最初の七人の、ヒール達に酷似しているのだ。
「おい、お前ヒールだろう。あいつは仲間じゃないのか?」
「…………」
無言でじっと見つめてくるだけはキツい。
巨体と凶悪そうな形相に威圧され、何となく目を逸らしてしまう。
「なあ、もしかしてお前は……」
「そいつはゼロロク。最初の七人のうちの一人だよ」
「沢渡さん!?どうしてここに……」
突如後ろからかけられた声に振り向くと、そこには青い上着を羽織った初代ヒーロイドが立っていた。
一瞬なぜこんなところにいるのかという疑問が浮かび、もう一つの疑念と結びついて消えた。
「最近ヒールが出てこなかったのは、あんたが倒していたからか……?」
「……ああ」
やはり、という思いと共に何とも言えないモヤモヤとした感情がこみ上げてくる。
そうしてただ無言で睨みつけている俺を尻目に、沢渡さんはゼロロクと呼ばれた怪人のもとへと歩み寄り、言葉をつづけた。
「どうして今更出てきた?今まで何もしていなかったくせに」
「……」
「もう遅いんだ!!今更お前にできることは無いぞ!!」
沢渡さんの怒号に、横にいるだけの俺達まで怯んでしまう。
あんなに感情をあらわにする沢渡さんを見るのは初めてだ。
しかしそんな沢渡さんの様子にも無反応を貫く巨大な怪人は、そのまま後ろへ振り返り、歩き出した。
「おい!お前……」
「待て、ヒールに関わるなとMACTに言ってあるだろう」
「いやでも……」
「大丈夫だ、人間を襲うようなことはしない」
沢渡さんに首根っこをつかまれ、身動きが取れなくなる。
そのままじたばたともがいているうちに怪人は角を曲がり見えなくなってしまった。
俺達に目もくれずヒールを倒したところを見るに、沢渡さんの言葉も信用できる気がする。最初の七人の一人ということは面識もあるんだろうし。しかし、ヒールまで手にかける得体のしれない怪人をほっておいていい者だろうか。
「沢渡さん、どうしてヒーロイドに怪人への対応を禁止させたんですか!?それに、さっき言ってたみたいに、一人でヒールと戦っていたんですか?どうして私たちを遠ざけようとするんですか!?」
それまでずっと黙っていた矢面の言葉に、あっけにとられてしまう。しかし、それはそのまま俺が沢渡さんに聞きたかったことでもある。
「それは……」
「ヒーロイドは、寿命が縮むからだよな?ゼロナナ?」
「ゼロサン!!お前何をしに……!?」
いやはや、今日は乱入者が多いな。
こんなご都合展開があるか!?
いや、そんなことはどうでもいい。問題は、今のゼロサンの言葉。
「何をしにじゃねえよ、お前が俺のヒールをぶっ殺したから来たんだろうが。わざわざタヌキなんか探してきて作った渾身の一作だったのによ……」
あ、やっぱりあれ頑張って探してきてたんだ。
「いや、それは俺じゃない」
「は?いや、最近はお前ばっか出てきてるじゃねえか。じゃああれか?そこの二人のどっちか……」
「ゼロロクだ」
その言葉を聞いた途端、ゼロロクの纏う空気ががらりと変わった。
「ゼロロク?アイツが今更出てきたのか?」
「ああ、そうだ」
「あの……クソ野郎が!!!」
息を荒げながら激昂するゼロサンに、俺達は一斉に臨戦態勢に移る。
変身禁止なんか守ってる場合じゃない、このままじゃヤバい!!
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