ヒーロイドの進路
それは突然にやって来た。
突然の訪問者……いや、帰還者にMACT本部は大騒ぎになり、職員やヒーロイドが集まる。
本来頼れる存在のはずなのに。
MACTの主力であったはずなのに。
今や警戒と畏怖の対象となった沢渡さんが、そこにいた。
--------------------
一時間前。
平日の昼から夕方はほとんど俺がシフトを担当しているので、俺はMACT内の自分の部屋で本を読んでいた。
真昼間から部屋にこもって読書というのはどうかと思うが、まあこれが職務なので仕方ない。
仕方ないのだ。
とはいえ、仕方ないは免罪符にならないからなぁ。
しかし今更学校に行くのも……。
たかなうどんに就職……は無理だろうし。
いやはや、しばらくはヒーロイドを続けるしかないか。
将来への不安もそこそこに文字の羅列を目で追っていると、外からコンコンと扉が叩かれた。
この間の再建で綺麗になったドアを開けると、そこには深刻そうな顔をした脇坂が。
「お帰りください」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!大事な話が!!」
「だから嫌なんだよ!そういう顔でわざわざ訪ねて来るってことは絶対面倒なことだろ!!」
必死でドアを閉めようとする俺に、脇坂が食い下がる。
やめろ!ドアに足を挟むな!変身するぞ!
「君の今後に関わる話なんだ!!」
「え?」
しまった!意外な答えに力が緩んでしまった!
ドアをこじ開け部屋に入り込んできた脇坂は、息を荒らげながら壁にもたれかかった。
「はぁ……ちょっと……ひどくないかな?」
「いいから、俺の今後の話ってなんだよ」
不覚をとったことを内心嘆きながらも、話の続きを促す。
丁度色々と考えていたところだ。
話を聞くだけなら問題無いだろう。
「ああ、その事なんだが」
ようやく落ち着いたらしい脇坂が、乱れた服と姿勢を正しながら話を切り出した。
「平岩くん、君は理数が得意だったと聞いているんだけど」
「は?まあ、高校言ってた頃は理系だったけど。そんなこと誰に聞いたんだよ?」
少々意外な質問をされ、思わず顔をしかめてしまう。
しかしそれを聞いた脇坂は脇坂は、俺の反応とは逆に満足そうな顔をしている。
「矢面くんからだよ」
なんでそんな話をしてるんだよ。
ていうか、俺あいつとそんな話してたっけ?
まあ知ってたんなら話してたってことだろう。
まだ高校行ってた頃とかに。
「そこでだ。平岩くん、MACTで働く気は無いか?」
「いや、待て待て。もうMACTで働いてるだろ」
「そうじゃない。MACTの研究員としてだよ」
元からよくわからなかった話が、余計にわからなくなった。
「なんで、俺はもうヒーロイドとして……」
「ヒーロイドとして、全てが終わってからの話だよ」
「……え?」
「ヒーロイドは、近いうちにその任務を終える。ヒールのことは、全てその決着がつくんだ。……いや、決着をつける」
その語気は強く、いつものなよなよとした脇坂の態度ではなかった。
その目は冷たく俺と、その先を見据えるように……。
「決着をつけるって、どうやって?」
「近い内に動きを起こす。詳細はその時に話すよ」
「いや、待ってくれよ」
「問題は!!その後だ。全てが終わった後、ヒーロイドはどうなると思う?」
半ば強引に話を遮られる。
ここで詳しい話をする気は無いらしい。
食い下がるのも面倒なので大人しく引き下がり、脇坂の質問の答えを考える。
全ての決着、ってのはゼロ二ーやゼロサンといった裏で動いている奴らへの対処だよな。
そいつらがヒールを作っているわけだから、そいつらを倒したら、まあ怪人出てこなくなるのだろう。
「まあ、ヒーロイドはお役御免になるわな」
「そうだ。そうなった場合、君達の居場所はどうなる」
そこまで言われてはたと気付く。
普通の人間と見た目が変わらないとはいえ、ヒーロイドは改造人間。
俺も最初の頃は既に自分が人間では無いのかと苦悩した。
改造部分は体の一割程度だっけ。
それだけならまあ大した問題ではない気もするが。
まあヒーロイドの仕事が無くなったら俺は完全にニートなんだけど。
それはともかく、ヒーロイドが普通の人間として社会に出る場合。
「変身と、回復力。それからMACTの管理が問題か」
「そうだな。特にドローンの追跡システムだ。基本的に変身しなければ、こちらからプライベートを侵害することは無いが、体の中にそんなものが埋まっているのは相当なストレスだろう」
「そんなもん、ぱぱっと取り出しちまえば……って言えるほど簡単じゃないんだろうな。。わざわざこんなこと言ってくるってことは」
「流石に、頭の回転が早いね」
褒められてもあんまり嬉しくない。
「まあどんな問題があるのかは知らんが、ヒーロイドが普通の人間に戻るための技術をこれから開発しなければならないと」
「そうだね」
「そして、ヒールも」
「……ああ、そうだ」
ヒールと、ヒーロイド。
MACTに生み出された者たちが元いたところに戻るために、動かなければならない時が来ている。
「就職口が決まるのは大歓迎だけどさ、おれ最終学歴高校中退だけど?大丈夫な訳?」
「技術や知識はやってる内について行くさ。多少なりと内部の事情に通じている人間の方が使いやすいしね」
「じゃあ、ヒールもヒーロイドも全員ただの人間に戻ったら?」
「その時は、MACTは親会社に吸収されるだろうね」
そういえば、MACTはどこかの大企業の子会社だったんだっけ。
脇坂は元々そこの技術者で、そこでヒールが生まれたって話だったはずだ。
MACTはそのヒールの問題を解決するために設置され脇坂が責任者に、そしてヒールの開発に関わっていた人間が初期の職員になっていたと。
「なんだか想像できないな、返事はもう少し待ってくれ」
「ああ、いい返事を期待してるよ」
「まあその前に、色々解決しなきゃ行けない問題が山積みだけどな」
沢渡さんのこと。俺を殺したゼロ二ーのこと。大谷の家族の仇であるゼロサンのこと。
何より、まだ何も分からないゼロイチのこと。
二人の間に漂っていた緊張と沈黙は次の瞬間、部屋中に響くほど激しいノックの音で破られた。
「失礼します!平岩さん!」
「あれ、どうしたんですか?」
「いやちょっと……あ、脇坂さん!ここにいたんですか!探してたんですよ!?」
ドアを開けると同時に、目の前にいた職員が騒ぎ出した。
その勢いに気圧されながらも廊下に出ると、着いてくるように促しながら駆け足で目的地へと向かいだした。
「一体どうしたと言うんだ」
「それが、そのっ!沢渡さんが……」
「え!?」
彼の言葉に、ゆっくりと彼の後をついて行くだけだった俺と脇坂は駆け足になる。
また何か、大変なことが起ころうとしているらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます