最強の破壊者
さて、ゴーヨンのMACT襲撃事件を覚えているだろうか。
あの一件でMACT本部の建物は5割ほどが破壊され、壁を見ればヒビ、床を見れば瓦礫という有様だったのだが。
当然ここまでの間に修復はされていた。再建のために機械類を一時的に他のところへ避難させたり、俺も部屋から立ち退いたりと色々大変だったのだ。
色々と大変だったのだが、この様子を今まで敢えて描写しなかったのにはある理由がある。
まあ、理由というかなんというか。
言ってしまえば建物を再建するための様々な苦労は、一瞬で水泡に帰すことになったのである。
MACT本部の再建が完了したのは、祐樹が犬型の怪人に人質に取られた事件の直後の事だった。
その三週間前には居住スペースの修復が完了し、それと同時に俺も元の部屋に戻ってきていた。
損壊がひどかったために修理どころかほぼ新築となり、綺麗になった部屋やシャワールームに感動していたのだが。
MACT本部の再建がすべて完了した二日後、またしても本部の建物は崩壊し、俺はもう一往復引っ越しをしなければならなくなってしまった。
---------------
「くたばれぇっっ!!!」
俺が部屋で本を読んでいると、廊下から甲高い絶叫が聞こえてきた。
その後に続いた鈍い音と衝撃で、ベッドから転がり落ちてしまう。痛いじゃないか。
こっちはヒールに散々顔を蹴られた上に全身ボロボロなんだぞ!
なんだなんだと扉を開けてみると、廊下にはゼロフォーゼロゴーの二人がいた。
そして向かいには、見慣れない女の人が。
「変身!!」
光った!!
ってことはヒーロイド!?それともヒールか!?
「あー、これ僕らやばいヤツー?」
「やばいのは俺達だけじゃなさそうだぞ」
なんか君達妙に落ち着いてない!?
ていうか、あの女の人ってもしかして……
「オラァ!!」
強烈な光が瞬き、轟音と衝撃が全身に叩きつけられた。
俺の意識はそこで途切れている。
---------------
「ほら、この人が前に言ってた直江さんですよ」
「ああ、あの俺が入るのと入れ違いに長期休暇に入ったっていう……」
「長期休暇って言うかまあ、本業が忙しかったから全然休めては無いけどね」
彼女はそういうと、コーヒーの入ったカップを口元に運んだ。
矢面の紹介を受けて、俺はおぼろげながらに思い出す。
そういえば、矢面に色々とMACT の説明をしてもらったことがあったような。
その時にMACTに所属してるヒーロイドについても色々聞いたような。
思い出せない人は第十五話を読もう。
いつもの溜まり場だが、いつもと違うところが一つだけ。
天井が無い。
もっと言えば壁の面積も半減し、廊下との境目も無くなり、床が砕け散っているのだが。そんなことは些細なことだろう。
原因?さっきのあれですよ。
「平岩君だっけ?最近大活躍してるみたいじゃん?」
「いえ、別にそんなことは無いですけど……」
少し緊張気味に答え、視線を逸らす。
態度が硬くなってしまうのは、年上の美人が目の前にいるからではない。
目の前に座るショートヘアの女性は大人びた雰囲気で優雅に微笑んでいるが、さっき鬼のような形相でくたばれとか叫んでいて、しかも建物一つぶっ壊したのと同一人物なのだ。
そのギャップに思わず震えてしまう。
「さっきはごめんね、こんなところにヒールがいるなんて知らなかったもんだから」
一見すると仕事が出来るOLといった感じだが、その実は仕事が出来過ぎるヒーロイドだ。
ヒールに対する殺意が一時の大谷以上だし、巨大なゴーヨンがのしかかった時以上に建物を破壊してしまった。
本業が何をしている人なのかは知らないが、吊り目気味の目元が鋭く光っている。
沢渡さんと直接対決でもしたらいい勝負になりそうだ。
ちなみに、被害者のゼロフォー・ゼロゴーは半解の医務室で手当てを受けている。
ヒールがヒーロイド用の医務室で治療されているのも驚きだが、何よりも恐ろしいのはコンクリートの建造物を吹っ飛ばした衝撃を間近で受けてちょっとした怪我で済んでいるあの二人だろう。
「そっか、ヒールとヒーロイドが手を取るようになったか。よかったよかった」
「えっと、直江さんはその辺の事情をどのくらいご存知なんですか?」
さすがに今日はお面をつけていない矢面が、恐る恐る尋ねる。
その辺の事情、というのはヒールが元々人間だったということや、MACTがヒールを生み出したことだろう。
MACT上層部の一部の人間と最初の七人のヒール、ヒーロイドしか知らなかったことだが、最近になってヒーロイドにも周知される機会があった。
「知らなかったけど、まあ何となく察してたみたいな?」
「察してた……ですか」
「うん、なんか隠し事してるなー、って感じだったし。沢渡くんもね」
長いまつ毛を伏せるように遠くを眺め、悲しそうに微笑む直江。
ヒールと対峙していた剣幕とも、先程までの和やかな雰囲気ともまた違う、不思議な印象を受ける表情だった。
そうか、そんなことまで知っていたのか。
まあ何かあるだろうなとは思っていたけど。
MACTをぶっ壊したりしてはいるが、これでいて案外思慮深い人なのか?
「もしかして、長期休暇もそれが原因とか?」
「あ、分かる?流石だね」
俺の質問にニッコリと答えてくる直江。
一体何が流石なのか。
しかしまあ、表情も空気もコロコロと変わる人だ。
「まあ色々思うところもあってね。せっかく踏ん切り付けて戻ってきたら沢渡くんいなくなってるし、ヒールと仲良くなってるし。アタシの悩みはなんだったんだっていうね」
コーヒーをぐいっと飲み干し、直江が立ち上がる。
「それじゃ、これからよろしくね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます