燃えます・燃やします
人間関係ほど難しいものは無いと思う。
特に、職場の人間関係。
ただ同じ業務に従事するだけの人間なんだから仲良くできる相手だとは限らないし。
かと言って、ある程度の信頼が無いと業務に支障をきたすし。
とまあこうやって世の中のしょっぱさを痛感しているわけだけど、それを感じるお仕事が町の平和を守るヒーローってところが何とも言えず悲しい。
まあどこの人間関係でも上手くいったことなんか数えるほどしかないんだけど。
「お前は何もすんなよ!!」
最近やっと仲良くなれてきた相方にこう言われては何もできない。
大谷自身に協力する気が無ければ、俺の支援はすべて妨害に変わってしまう。
そうなるのはお互い望むところじゃないもんな。
「ひっ!?ちょ、ちょっと!?」
大谷の目線の先で立っているヒールは、フルフェイスのヘルメットを被ったような顔をしていて、その表情は窺い知れない。
しかしその弱気な言動が、戦う気が無いことを語っている。
そんなに臆病ならなぜ放火なんかしていたのか。
憎むべきヒールと、多分俺にも向いているであろう怒りで、鬼のような顔をしている大谷。
そして殺気に満ち満ちた視線を受けて怯む放火魔ヒール。
ヒールに戦意は無いようで、さっきから隙を見て逃げようとしているものの、少しでも動いたら命を刈り取られそうな状況のせいで身動きが取れないらしい。
下手に混乱させたくなかったが、言ってしまった方がいいか?
でもなぁ、まだ確信が持てるレベルでも……。
「ひ、ひぃ!?」
怪人の怯えた声。
うだうだと考えている内に大谷が仕掛けた。
……逆じゃないのか?
無言で、弾丸のようにヒールに突っ込んでいく。
無謀と言えば無謀だ。
しかし、ヒールの方も怯んで身動きが取れずにいる。
フルフェイスまであと三メートルと迫ったところで、腕を掲げ、交差させ、豪快に振り下ろす。
「変身!」
叫び、赤い閃光が広がる。
俺は咄嗟に目を逸らすと、
「パクリ野郎!」
とりあえず悪態をついておいた。
光が落ち着いた所でもう一度目を向けると、鏡面のような顔に赤く光る拳が迫っており、その弱々しい体が吹き飛ぶ……と思った矢先。
「うわぁぁぁぁ!!!」
怪人にしては妙に細いその体が、一瞬にして青い炎に包まれた。
大谷は咄嗟に留まろうとするが繰り出された拳の勢いは殺しきれず、一回り大きくなった炎の塊をぶん殴り、思いっきり吹っ飛ばした!
「あっづぐぁおおおぉぉぉ!!??」
「な、な、何!?い、一体ッ、なんなの!?」
大谷は右拳を握って悶え、ヒールは燃えながら地面に叩きつけれるとそのままゴロゴロと転げ回っている。
一瞬とはいえ炎に拳を突っ込んだんだから、そりゃタダではすまないよなぁ。
ヒールの方は……そうか、直前に目潰し食らってるんだもんな。
そのままぶっ飛ばされたら混乱もするか。
しかし、いきなり燃えだしたのはなんだ?
あの怪人の能力か?
放火してたことからも考えて、体から火を出すとかそういうの。
今までそういう……王道っぽい能力の奴ってあんまりいなかった気がするんだけどなぁ。
あ、ゴリラヒールの馬鹿力は王道といえば王道か。
青い炎の塊が次第に小さくなり、消える。
また鏡面のヘルメットが見えてくるが、立ち上がる様子もなくまだ転げ回っている。
一方で大谷は持ち直し、先ほど殴りつけた相手を睨み付けている。
先程無謀に突っ込んだ反省からか、今度は一気に仕掛けずに様子を伺っている。
しかしまあ、さっきの目潰しのパクリといい、学習能力高いなこいつ。
人の話は聞かないのに。
ほんとに段々少年漫画の主人公みたいになってきたなあ。
っと、それどころじゃなかった。
今回ばっかりはヒールを倒すだけってわけにはいかないんだ。
フルフェイスは放火をしてはいるが、攻撃的な性格でもない。
ゴリラヒールが言っていたように誰かに言われただけかもしれないし。
こいつを逃したら、次に話を聞けそうなヒールなんかいつ出てくるか……。
まあ俺もいつまでも何もしないままではいられないだろう。
一歩踏み出すと、大谷に声をかける。
「おーい、大谷!」
「あ?なん……」
「変身!!」
腕を振り下ろすと、体中から眩い光が放たれる。
「だぁおう!?」
「すまん!!」
謝りながら、もだえている相棒の横を走り抜ける。
そのまま転がっているフルフェイスの元に駆け寄ると、体を起こして肩をつかむ。
ヒールの方はとどめを刺しに来たのだと思ったらしく、鏡面になっている顔越しにでもわかるほど動揺した声を出し、その怪人らしくない体を震わせる。
「落ち着け、別に攻撃しようってわけじゃないんだ!!」
「え、あ、え……?」
ダメだ、警戒してるのがわかる。
やっぱり信用はされないか、と思ったがそこでヒールの体から炎が出てこないことに気づいた。
しっかりと肩をつかんでいるのに、だ。
とりあえず話くらいはできるか、という淡い期待を抱きながら再び声をかける。
「なあ、もしかしてお前は、いやヒールってのは……}
その時、背筋に悪寒が走った。
反射的に、怪人の肩をつかんだまま右側へ体全体で跳ぶ。
一番遅れてついてきた足の先を、赤い光が掠める。
ギリセーーーーーフ!!!あぶねーー!!
「お前、何してんだよ!?」
「だから、ちょっと待ってくれって!!」
「なんでだよ!」
「聞きたいことがあるんだ!!」
「ヒールに何を聞くんだ!!」
耳が痛くなるような大声。
怒髪天を衝くってのはこんなことを言うんだろうなあ、なんてのんきなことを考えている場合ではない。
何を、と聞かれると少し言いづらい。
果たして言ってしまっても良いものか。
こういう口論は、隠さなければならないことがある方がよっぽど不利だ。
「お前、この前から何考えてるんだよ!!」
「……まだ、ちょっと言えないけど……」
「言えないってなんだよ!?なんなんだよ!?」
まあ、そうだよなあ。
納得なんかできないよな。
「今はまだ言えないけど、もう少ししたら説明する!だから、このヒールを倒すのはちょっと待ってくれ!」
ヒールを背に、立ち上がる。
大谷と向かい合うように。
「だからなんでお前はヒールを庇うんだ!!……やっぱり……お前は俺たちの敵なのか……?」
……あー、うん。そうだ。
これは完全にアレだ。完全に俺が悪者だ。
別に庇うって訳じゃないが……そう見えるよな、お前には。
誰にでもそうか。
あー、どうしようか、コレ。
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