炎・因縁・あとなんか

 テーブル越しに座っている大谷は、まだパンをほおばっていた。


 いやほんと、よく食べるな。

 ヒーロイドは常人よりエネルギーを使うからその分よく食べる、だっけ?

 俺は発揮できる力が少ないせいか、前より少し多く食うようになったくらいだけど。

 沢渡さんや矢面もこんなに食うのかな。今度飯にでも誘ってみよう。


 紹介が遅れたが、ここはMACT 施設内の食堂。

 あの機械だらけの研究室や、いつもの殺風景なたまり場、そして真っ白な壁の医務室と同じ建物とは思えないくらいキラキラとしている。

 カフェとファミレスの間みたいな感じ、とでも言おうか。両方ともあんま行かないけど。


 MACTの職員らしき白衣やスーツがちらほらみられる。

 なぜこんなところに大谷で二人でいるかというと。


「シフトの時でもヒールが出なきゃ暇だな」

 そう、暇なのだ。

 ヒーロイドはシフト制だが、ヒールが出てこなければ特にすることが無い。

 それでも、ヒールの出現に備えてMACTの中にはいなければいけないので、どうしても暇になってしまう。


 いつもはその時にいる面子で雑談しているが、丁度昼飯時だったこともあって今日は飯を食いに来た。


「これだけ食って無料ってのが最高だな」

「毎食ここだから食費が浮く浮く……この点だけは家が燃えてここに住むようになってよかったと……」

「よくはないだろ!」

 ようやく満腹になったらしい大谷が上機嫌で話しかけてくる。


 最近は初対面時の悪印象がお互いに薄れてきて、なんだかんだ良好な関係が築けている。と思う。

 俺は元々そこまで根に持ってないし、こいつは……まあ馬鹿だから?


 リベンジを果たした後、喋らない程度の雑魚ヒールを三体ほど協力して倒したが、最近は連携も取れてきた。

 最初の方こそ俺の目晦ましをこいつが食らったり、ワイヤーに絡めとられたりしていたが。


 場合によっては俺も殴られたり吹っ飛ばされたりしたが。


 まあ、人間失敗から学ぶことは多い。

 特に大谷は素直な分、失敗から汲み取った反省点をしっかり生かしてくる。

 空回りすることも多いが、同じミスをすることも無い。


 ん、なんかこいつのことを褒める感じになってしまった。

 バランスを取るためにけなしとこう。

 この単細胞。


「なんかお前失礼なこと考えていいか?」

「いや別に」

 いやはや、馬鹿のくせにたまに妙に勘がいいんだよなあ。


 しみじみとしていたら、食堂中に鳴り響くほどの大きなサイレンが鳴りだした。

 出勤の合図だ。


 いや、出動って言った方がいいのか?



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 夏。快晴である。

 さらに。地球温暖化である。

 しかも。コンクリートの照り返しである。

 しかし、俺と大谷が並んで汗ダッラダラなのはそのせいだけではないと主張する。


 現代日本において、火事というものを見かける機会は少なくなった。

 木造の建物も減ったし、オール電化みたいなのも流行ったし。

 ガスでもなんでも安全装置が発達した。

 俺だってこの前自分の住んでいるアパートが燃えるまでは火事なんか生で見たことは無かった。


「やっぱりそういうことか」

 まさかこんな短期間でもう一度火災現場を見ることになるなんてなあ。


 そしてやはりというかなんというか。

 予想した通り、原因は放火で、犯人はヒールだった。


「な、なんでもうバレてるのかな……」

 パッと見、フルフェイスのヘルメットを被っただけの一般人のように見えるそいつは、れっきとしたヒールである。

 よく見ると他のヒールよりも薄いながら装甲があり、何より足首から先が燃えている。


「前回も今回も、火災の起こり方が不自然すぎるんだよ」

 先ほど鳴り響いたサイレンは、ヒールの出現を察知してのものではなかった。


 俺のアパートが焼けた際に、その不審さから「レーダーに引っかからない新種のヒールの仕業ではないか」との仮説が立っていた。

 そして今回も同じくらいに不審な火災だったので念のため出動がかけられ、指示に従いながら周囲を捜索していたところ、見事に予想が大当たりしたというわけだ。


「で、でもそういうのって、もっと何回も立て続けに起こってからやっと見つけるもんじゃないのかなあ……?なんか、そういうのが醍醐味っていうかさあ……」

 なんというか、他のヒールよりも弱そうな見た目をしたヒールだが、発言もなんとなく弱々しい。

 自信無さげというか……なんか調子狂うなあ。


「知るか」

 わー、ひどい。

 馬鹿だけに情け容赦ないところがあるよな、こいつ。


「なあ、ちょっといいか」

「なんだ?」

「今回はあいつを仕留めないでくれないか。弱らせるだけでいい、話を聞きたい」

「はあ?」

 正直、前回ゴリラヒールが言いかけたことが気にかかる。


 そこからずっと俺の頭には一つの疑念が渦巻いていて。

 荒唐無稽な仮説ではあるが、ありえない話ではない。


 それにヒーローものとかだとよくある話だし。

 いや、これはちょっと根拠として弱いな。

 ともあれ、俺の予想が当たっていたら、ちょっと恐ろしいことになるんだけど……。


「何言ってんだよお前」

 まあ、噛みついて来るよな。

 こいつ、なんかヒールを憎んでるっぽいし。


「ヒールは倒せよ!?なんでそういうことしたがるんだよお前は!?」

「ちょっと気になることがあるんだよ!」

 ……あ、眼付きが変わった。

 警戒するようにこちらを睨んできている。


 不審そうな表情を浮かべる。

 なんて言うか、初対面の時と同じ顔をしてる。


 俺のことを、敵として認識している眼だ。


 これは、ちょっとまずったかな。


「知るか!!」


 ……あー、やっちまった。


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